ファーストキスの行方


 人工呼吸はキスに含まれるのか、それとも含まれないのか。学校からの帰り道、スガタとタクト、二人の間でふとそんな話になった。
 ワコはルリと買い物へ行ったらしく、今はいない。いつもは三人で帰るのだが、今日はスガタとタクトの二人だけだった。
 どうしてそんな話になったのかというと、その理由はスガタやワコのタクトとの出会いにある。
 タクトが二人と会ったのは砂浜なのだが、その時のタクトは気を失っていて、あまり詳しい事は分からない。後から聞いたところによると、危ういところだったのか、ワコが人工呼吸をして助けてくれたらしかった。

「んー…、人工呼吸とキスは違うんじゃないかな?」

 少し考えた後、タクトはそう言って苦笑した。人工呼吸は救命活動であって、キスとは違う気がする。

「そのわりに気にしてたみたいだけど?」
「いや、普通は気にするでしょ! 女の子に人工呼吸されて気にならないわけないって……」

 痛いところを疲れたのか、スガタの言葉にタクトがわたわたと慌て始める。
 確かに、タクトはあの一件から暫くは気にしていた。気になるのが普通というものだ。
 あれから幾日か立った今はそうでもないものの、改めて思い出すとやはり恥ずかしい。

「そんなに慌てなくても」

 タクトの慌て様を見て、スガタは楽しそうにくすくすと笑う。そんなスガタにタクトは、スガタの所為だろ、と少しだけ拗ねた視線を向けた。

「ごめん、からかいすぎた」
「分かればよし。……キスってさ、好きな人とするからキスなんだと思うんだ」
「何だそれ」

 タクトにとっては重要な事なのかもしれないが、あまりにも真剣に言うタクトに、スガタは思わず苦笑した。
 こんな話、ワコには聞かせられない。もしもこの場にワコがいたなら、彼女の妄想が広がっていた事だろう。今日はワコがいなくてよかったな、とスガタは思った。

「あ、勿論ワコの事は友達として好きだよ?」
「分かってるよ」
「つまりさ、好きな人とするかどうかの違いじゃないかな」
「なるほどね。じゃあ、タクトはファーストキスはまだってわけだ」
「む、どうして決めつけるのさ」

 まだだと言い切ったスガタに、決めつけるなんて酷いなぁ、とタクトが返す。それに対して、スガタが涼しい顔をして「タクトは初だからな」と言うものだから、苦笑せざるを得なかった。

「はは…、スガタってば厳しー…」
「タクトが分かりやすすぎるからだろ」
「どうせ僕はそういう事に耐性がないですよー」
「悪いとは言ってないだろ。寧ろその方がいい」
「へ?」

 一体どういう意味なのかと瞬いたその瞬間、ぐっとスガタが近づいて、唇に掠めるように何かが触れた。一瞬だけ触れた、熱。これはまさか、とタクトが思考を巡らせ始めた時、スガタの声が耳に入った。

「今度こそファーストキス、だな」
「え、なっ、ちょ、ええっ?!」

 ファーストキス。その言葉に、タクトはぼんっと音がしそうな程勢いよく顔を赤らめた。動揺のあまりに、声が言葉になっていない。
 やっぱり、今日はワコが一緒じゃなくてよかった。口をぱくぱくとさせ狼狽えているタクトに、スガタは楽しそうに笑むのだった。




fin.





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