プラトニック・コミュニケーション
※ぬるいR18
真っ白なシーツ。ふかふかで、大きなベッド。もしこのふかふかで寝心地の良さそうなベッドで眠る事が出来たなら、さぞ気持ちいい事だろう。
寝転がっているだけで、上質さは十分に分かる。しかし、今のタクトにはそれを楽しむような余裕はなかった。
シンドウ家のスガタの部屋。そこでタクトは、ある意味とんでもないピンチを迎えていた。
「ねぇ、スガタ。その…ほんとに、するの……?」
戸惑いに瞳を揺らしながら、タクトはおずおずと口を開く。タクトはいつになく焦っていた。
背中に感じるのは、滑らかなシーツの感触と冷たさ。上からは、スガタが覆い被さるようにタクトを覘いている。おまけに両腕はスガタにより頭上で一纏めにされ、しっかりとシーツ縫い付けられていた。
「(イッツア、ピーンチ……!!)」
スガタに押し倒される形のまま、タクトは心の中で叫ぶように呟いた。
どうしてこんな状況になってしまったのか。事の発端は、部活でのサリナの一言だった。
次の劇について話している時、ストーリー及び登場人物に関する事をざっと聞き、劇のコンセプトや設定についての話を聞いた。詳細はまた改めて説明すると言ったサリナの、最後の言葉。それが、全ての始まりだった。
『今回の劇ではスガタ君、タクト君。君たちに恋人役を演じてもらう。ああ、それと、ちょっとしたベッドシーンもあるから、そこの所宜しくね』
爽やかに言いきった彼女に、大量の冷や汗をかいたのはまだ記憶に新しい。何がどうしてそうなってしまったのか、サリナはとんでもない爆弾をさらっと投下してくれた。しかも、役得だろう?という、いい笑顔つきで。
その時はまだ、芝居なのだから大丈夫だろう、と思っていた。しかし、劇でやるなら少なからずそういうシーンの練習をしておいた方がいいのではないか。そんな事をスガタが提案し、タクトはどうしてかそれを了承してしまった。
練習、とは言っても、そういうシーンの練習なのだから、普通の劇の練習とはわけが違う。何故あの時頷いてしまったのかと自分を叱咤するが、今更遅い。
タクト自身のミスにより、現在の状況に陥ってしまったわけなのだが、半ばパニックになってしまっているタクトは慌てるしかなかった。
「や、やっぱさ、やめない……?」
「どうして?」
「どうして、って……」
眉をハの字に下げてスガタに尋ねてみるが、逆に尋ねられてタクトは言葉を詰まらせた。困ったように視線を向けてはみるものの、スガタはいつものような涼しい表情のままで、動こうとはしない。
どうやら、スガタは引く気はないらしい。そればかりか、止める必要がどこにあるのか、というようなスガタに、タクトの焦りは増すばかりだった。
「男同士でこんな事するの、やっぱり変だよ……」
「そうかな?」
「だってそう――ん、むっ…!?」
そうだよ、と肯定しようとしたタクトの言葉は、最後まで続かなかった。言葉の続きは、スガタに唇を塞がれた事により、途中で掻き消される。
あまりの驚愕に、タクトは目を見開いた。目の前にあるのは、鮮やかな蒼と何処となく優しさを湛えた琥珀色。スガタの、色だ。
ちゅ、と軽いリップ音がして、タクトは混乱する頭で考える。キスを、されている。あの、スガタに。
状況をのみ込めず、タクトの思考はぐるぐると混乱で渦巻く。何で、どうして。考えても、答えは見つからない。状況をのみ込めないままに身体を強張らせるタクトをよそに、口づけはだんだんと深くなっていく。
「ん、んうっ……あ、ふ、んっ……!」
こんなに深いキスをした事なんてなくて、呼吸が苦しくなる。酸素を求めて唇を開けば、そこからスガタの舌がするりと入り込んできた。つう、と歯茎をなぞられて、舌を絡め取られる。ちゅう、と舌を吸われ、全身の力が抜けていくのが分かった。
背中にぞくぞくとした感覚が走って、身体がぴくりと震える。こんな事は望んでいないはずなのに、どうしてか拒めない。
驚きで動けなかった事を差し引いても、抵抗しようと思えばできた。それなのに、拒む気になれないのはどうしてだろうか。
甘い痺れに思考がぼんやりとしながらも、ゆるゆるとスガタの方へと手を伸ばす。スガタの首に腕を回すと、スガタの瞳が優しく細められた。
「は、あ…、はっ…はあ……」
息が続かなくなって、スガタの胸をどんどんと叩けば、スガタは最後に緩く舌を吸って離れた。透明な唾液の糸がスガタとタクトの唇を繋いで、やがてぷつりと切れる。
足りなくなった酸素を求めて、ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返す。スガタの手がすっと伸びてきて、濡れたタクトの唇に触れた。零れてしまった唾液を指で拭って、スガタはタクトの唇をなぞる。
「心配しなくて、いいよ。大丈夫だから」
優しい声音で言って、スガタは淡く笑む。半ばぼんやりとしながらスガタを見つめると、スガタの柔らかい瞳と視線がぶつかった。
大丈夫、ともう一度スガタは小さく言って、タクトの髪を柔らかく撫でる。ん、と小さく声を漏らすと、額に軽くキスを落とされた。
「スガタ……続き…しちゃう、の?」
「……嫌?」
「そうじゃないけど、ひゃ、あっ!?」
思いがけない刺激に、タクトは思わず声を上げる。するりとスガタの手がシャツの中に入ってきて、胸の突起に触れた。
きゅ、と突起をつままれて、全身にぞくぞくとした感覚が広がる。今まで感じた事のない感覚に、タクトはびくりと身体を震わせた。
「ひゃ、んっ!」
「ここ、気持ちいいの?」
「や、だめっ、触っちゃ、やぁっ……!」
ぐり、と潰すように刺激されて、タクトの口から甲高い声が漏れる。スガタが突起を弄る度にぞくぞくと甘い痺れが駆け抜けて、タクトはいやいやと首を振った。
瞳は潤んでいて、生理的な涙が溜まっている。声を上げて身体が跳ねる度に、瞳に溜まった涙が零れ落ちた。ぽろぽろと涙が頬を滑り落ち、シーツを濡らしていく。止まる気配の見せないそれを、時折スガタはタクトを落ち着かせるように舐めとった。
「んっあ、あっ……!? や、スガタ、やだっ……!」
ぴちゃりと音がして、胸に何か熱いものが触れる。驚いて視線を下げれば、スガタが胸へと顔を寄せていた。
胸に触れたものの正体は、スガタの舌。ぬるりとしたスガタの舌が突起に触れて、タクトは目を見開いた。同時に、指での刺激とは全く違う刺激がタクトを襲う。
「ふっ、あ…! 舐めちゃ、や……だぁ……!」
通常ならば、人の舌が触れるなどありえない場所を舐められている。その事実に、タクトの羞恥が一気に高まっていく。そんな所を舐めるなんて、信じられない。
駄目だと静止をかけるも、言葉は途切れ途切れで、なかなか繋がらなかった。刺激をやり過ごすように首を振るが、刺激の波は止まる事を知らない。
「タクトは敏感だな」
「あ、んあぁっ!?」
かり、と突起に軽く歯を立てられて、タクトの声が一段と高くなる。びくりと身体が跳ねて、弓なりにしなった。
「ん、んっ…ふ、んんっ……!」
まるで女の子のような甲高い自分の喘ぎ声が嫌で、きゅっと唇を噛む。先程から、ひっきりなしにあがる、あられもない声。自分のこんな声なんて、これ以上聞きたくはない。
女の子でもないのに、女の子みたいな声をあげるなんて。女々しく感じて、死ぬほど恥ずかしい。
耳を塞いでしまえたら楽なのだが、身体に力の入らない今、両腕は動かせない。弱々しくスガタにしがみつくのがやっとだ。
声を抑えようにも、勝手に漏れる声は抑えが利かず、どうしようもない。他に方法も思いつかず、タクトは唇を噛む事で声を抑えた。
「あまり噛むな。そんな事をしたら唇が切れるぞ」
「や、声…聞きたくない……!」
唇を撫でて咎めるように言ったスガタに首を振って、更に強く唇を噛む。本当に切れてしまうのではないかと思うくらいにぐっ噛みしめれば、スガタは困ったように息をついた。
「タクト」
「ん、んうっ……む、ふっ……!」
名前を呼ばれるのと同時に、キスをされる。固く引き結んだ唇を解すように、唇を舐められた。
思い切り噛んでいたのに、キスで少しずつ力が緩んでいく。唇を噛む力が緩んで、思わず口を薄く開いたのと同時に、スガタの舌が唇を滑り込んできた。
最初と同じように舌を吸われて、また力が抜けていく。キスが終わる頃にはどこにも力が入らなくなっていて、スガタの首へと回していた手がぱたりと落ちた。
「声、我慢するなよ。タクトの声、聞きたい」
「で、も…女の子みたいで、何か変だし……」
「そんな事ないよ。大丈夫だから。全部、僕に任せて?」
スガタの優しい声が響いて、少しだけ安心する。ほっとしていると、カチャリと音を立ててベルトが外され、スガタの手がするりとズボンの中へと入ってきた。
驚く間もなくスガタの手は下着の中へと進んで、緩く自身を握りこまれる。指が絡む、感覚。
「ひあっ……!?」
スガタの長い指がつうとタクト自身を撫でて、タクトは引き攣ったような声を上げる。声を抑えようと慌てて口を噤むが、あまり意味をなさない。
スガタがタクト自身を扱いて、優しいけれど容赦なく責め立てていく。じわじわと迫る快感の波に、タクトは堪らずぎゅっと目を閉じた。
「ふぁっ…ん、あうっ……!」
自分でもそう触れる事のない場所に、スガタが触れている。それだけでも、信じられないというのに。スガタと一線越えそうになっているという今の状況は、もっと信じられない。
最初は、劇の練習で、たとえ練習だとしてもするような事ではない。そう思っていたはずなのに。練習だとかそういう事は、もう何処かへ吹き飛んでしまっていた。
スガタが触れる所の全部が熱くて、気持ちいい。首筋にスガタの熱い吐息が触れて、キスを落とされる。そのキスにさえも、身体がぴくりと跳ねた。
「タクト……」
「ん、あっ……スガ、タぁ……!」
強く擦られて、目の前がちかちかとし始める。視界が、真っ白い光に包まれるような、そんな感覚。
ベッドへと投げ出していた手を、再びスガタの方へと伸ばす。やり過ごしきれない、今までで一番強い快感の波が押し寄せてきて、タクトはスガタにぎゅっと縋りついた。
fin.