二人だけの秘密
元気いっぱいで、男子からも女子からも人気のある人物、ツナシ・タクト。タクトには、人には言えないある秘密があった。
青春を謳歌する熱血馬鹿なイメージのあるタクトだが、彼、否彼女は、実は女の子だったりする。この事を知っているのはスガタだけで、他は誰も知らない。
タクトは中性的といえばそういう顔をしているが、誰もまさか女だとは思わない。学校にも普通に男子制服で通っているし、完全に男の子として過ごしているのである。だというのに、何故スガタが気づいたのかといえば、「スガタだからこそ」と言える。
女だと分かるような言動を、タクトがとっていたわけでもない。けれどスガタは早い段階で気づいていた。
日に日に激しさを増していく、綺羅星十字団との戦いが続く中。ふとある時に「タクトは女の子なんだから、もう少し自分の身体を大切にした方がいい」とスガタが言った時は、タクトはそれはもう驚いたものだ。
「ねぇ、スガタはどうして僕が女だって分かったの?」
ぽつり、と不思議に思っていた事をスガタに投げ掛けてみる。上手く「男の子」として振る舞っていた筈なのに、どうしてスガタは分かったのだろう。
どうして?ともう一度首を傾げて尋ねれば、スガタはくすりと笑った。
「どうしてって……何となく、かな」
「何となくって何さ…」
くすくすとスガタが笑えば、タクトは少しだけむっとした様に唇を尖らせる。
何となく、では質問の答えになっていない。何だかはぐらかされたような気がして、タクトはむうと頬を膨らませた。
「拗ねるなよ、そういうところも可愛いけど」
「スガタがはぐらかすからだろ…」
「別にはぐらかしたわけじゃないさ。理由なんてないよ、タクトだから分かったんだ」
「へ……?」
あっさりと理由らしからぬ理由を言い切ったスガタに、タクトはぽかんと目を丸くした。次いで、頬が熱を帯びていくのを感じる。
タクトだから分かった、なんて結局理由にはなっていない。でも、何だか凄く嬉しくて。同時に、漫画で使われるようなその台詞は恥ずかしくもある。
「何だよ、それ…」
呟きながら、上昇していく熱でタクトは頬を真っ赤に染め上げた。みるみるうちに赤くなるタクトを見て、スガタは楽しそうに笑う。
「いいじゃないか、理由なんて。どうであれ、僕とタクトだけの秘密ができて、僕は嬉しいんだけどな」
にこりと笑みを深めて言うスガタに、タクトは顔を赤らめるばかりだ。
二人だけの秘密なんて、何だかいけない事のような、怪しい事のようにも思える。けれどスガタは、自分とタクトとで二人だけの秘密がある事が嬉しかった。
他人から構われない事がない、皆から慕われているタクト。男でも女でも、タクトを狙っている者は少なくはない。
そんなタクトが、自分だけのものになったようで。秘密を共有する事で、もっとずっと、他の誰よりもタクトの近くにいられる気がする。
尤も、スガタとタクトは恋人同士であり、二人は誰よりも近い位置にいる。とうにタクトはスガタのもので、スガタはタクトのものなのだが。
それでも、他の誰も知らない事を自分だけが知っている、という事実に、少しの優越感のようなものを感じる。
「タクトは違うの?」
「僕だって、そうだよ」
スガタが問えば、タクトは恥ずかしそうにしながらも肯定する。当たり前じゃないか、と溢すタクトに、ますます愛しさが増していく。
タクト自身も、秘密を知っているのがスガタでよかったと思っている。スガタ以外の誰かだったら、どうなっているやら分からない。スガタだからこそ、安心していられるのだ。
「スガタは僕だけの、王子様だもん」
「王子様、か。じゃあタクトは僕だけのお姫様、だな」
顔を見合わせて、くすりと笑い合う。王子様やお姫様なんて、ロマンチストのような台詞だけれど。
違う誰かだなんて想像もつかないし、あり得ない。秘密を共有するのは、君だけ。君とだけ。
僕だけの、王子様。
僕だけの、お姫様。
fin.