冬空の温もり
「あ、雪だ」
学校からの帰り道。吹き付ける風と共に、身に染みる寒さを感じ歩きながら、ふとタクトが呟くように言った。
視界に点々と白いものが映り、空を見上げれば、真っ白な雪がはらはらと舞っていた。ふわりと風に舞うそれを、右の掌で受け止めてみる。僅な冷たさの後、雪は瞬く間に解けて雫へと変わった。
「そんな事してると余計に冷えるぞ」
雪が珍しいのか、舞い落ちる雪を掌に受け止めては解けていく様子を見つめるタクトに、スガタが言う。
幼い子どものように無邪気な様は見ていて可愛らしいのだが、このままでは更に手が冷えてしまう。幾ら一つ一つは小さなものでも、冷たい事に変わりはない。只でさえ寒いのに、雪に触れていては余計に寒くなるだろうに。
「うわ、すっごい冷たくなった……」
「だから言っただろ」
雪に触れていた掌は真っ赤になっていて、見るからに冷えきっている。掌に息を吐いて手を擦り合わせるタクトに、スガタは少しだけ呆れたような視線を向けた。
「全く…、子どもみたいな事するからだ」
「わ、スガタ?」
息を吐いてスガタは徐にタクトの右手へと手を伸ばし、自分の手と重ね合わせた。雪により温度の下がったタクトの手は、案の定冷たい。
急に手を繋いだスガタに、タクトはきょとんと瞬きを繰り返す。スガタの手はタクトよりは幾らか暖かく、触れた場所から温もりがじわじわと広がっていった。
「こうしていれば少しはマシだろう?」
「…うん、暖かい」
普通に繋いでいた手を、指をより絡めるように繋ぎ直され、タクトはほんのりと顔を赤らめて頷いた。互いの指が交互になるそれは、所謂カップル繋ぎ。普通に手を繋ぐのとは違っていて、何だか照れくさい。
スガタが絡めた指に力を込めたのが分かり、タクトも同じように手を握り返した。
「誰かに見られたら、きっと騒ぎになるね」
「いいじゃないか、別に」
どうせ誰も通らないだろうし、見られても特に困らない。気にする事はないよ、と返され、タクトは困ったように笑った。
スガタとタクトは恋仲にあるが、一部を除いて周りにはそれを隠している。男同士であるから公にできるものではないし、何より、万が一周りに知られたら大騒ぎになってしまう。
タクトとしては騒ぎになるのは望ましくない為、もし今の状況を誰かに見られるととても困る。スガタも騒ぎになるのは避けたい筈だが、今はあまり気にしていない様子で、タクトは苦笑せざるを得なかった。
「……まあ、たまにはいっか。暖かいし」
もしもの事を考えると些か渋る気持ちはあるものの、今日くらいはいいか、とタクトは納得する事にした。
考えてみれば、今まで手を繋ぐなんて事はあまりした事がなかったし、せっかく繋いだ手を離すのは何だか惜しい。手くらいいつでも繋げるのだが、今はまだ繋いだままでいたい。
「繋いだままで帰ろっか」
「そのつもりで繋いだんだけど?」
はにかみながらタクトが言うと、当然だというようにスガタはくすりと笑った。どうやら、スガタは最初からそのつもりだったらしい。
吹き付ける風や肌に触れる雪は冷たいけれど、繋いだ手だけは暖かい。粉雪の舞う冬空の下、二人は繋いだ手をぎゅっと握ってシンドウ家まで歩いたのだった。
fin.