□salt












Side笠松






間者によりもたらされた、信じがたい事実をどう上に報告するか、笠松は考える。



黄瀬涼太が囚われた後、寝返った。



有り得ない事実を耳に入れた時、最初は鼻で笑った俺だったが。




送り届けられた写りの悪い写真を見て、手の震えが止まらなくなった。



中将の青峰の傍らに佇む長身の青年がよく見知った仲間の一人、やはり黄瀬だったからだ。



30枚全部違う場面が写っているのに、全て青峰の傍らにまるで忠犬だといった風に横に張り付いている。


……有り得ない。




黄瀬が火神を裏切るなんて。





何かの間違いであって欲しい。



黄瀬が何かを考えて単独で行動しているのかもしれない。



黄瀬と言う男はとにかく容姿端麗で、頭の回転もよかった。



性格も皆がほっとかず、構い倒すような人懐っこさと、戦闘に関してはトップクラスの技術と体術を持ち合わせていた。


火神は黄瀬を信頼し、黄瀬も公私共に火神を必死にサポートしていた。



ありのままを、感情をいれずに火神に報告しよう。


そして、最後に自分の意見も伝えよう。



黄瀬は報告せず、単独で行動しているだけだと。





黄瀬は絶対に裏切ってない。




笠松は、そう結論づけて、電話機を取る。




誰かのせせら笑う声が聞こえた気がして、笠松は背筋に薄ら寒さを感じ、頭を振った。





火神はなんと言うだろうか。



感情が表に出やすい善くも悪くもまっすぐな竹を割ったのような男だから、取り乱さねばいいのだが。



「あぁ、俺だ、笠松だ。今、話せるか?」





笠松の思考より斜め上をいっている真実がある。



確かに笠松の思うように、黄瀬は裏切ってなどいない。



黄瀬自身も与り知らぬ、赤司の能力で一方的に黄瀬の人生は改ざんされたのだから。



赤司の目には何か能力があるのは判明しているのだが、火神軍ではどういった能力かの詳細は知られていない。



ただ、能力を発動したらマズイということだけが、今は独り歩きしている。



黄瀬の現在持つ記憶は、元々から赤司軍に所属しており、スパイ活動で火神軍潜り込み、身を置いていた事。



スパイがばれて拷問に会い死にかけたところを、上司の青峰が命をかけて助け出してくれたこと。


怪我が酷く、特に頭を痛めつけられ、火神軍に潜り込んだ際のスパイ活動をしていた時の記憶はなくしている、ただ青峰に忠誠を誓って動いていたことだけは覚えているというものだった。


それは赤司が作った記憶だが、黄瀬の世界では真実の事柄なのだ。

赤司軍で「敵方の黄瀬がいる」と、騒がれない様に手回しもされ、もともと赤司側のスパイで、長年内密に潜伏活動をしていたのが、終わって青峰の側近に戻った、ということになっている。


笠松が、黄瀬の変わり様を知る羽目になるまで数週間。



敵地開拓にて、笠松は命の危険と絶望を味わうことになる。




笠松が火神と電波にて会話を交わすその頃、黄瀬は幸せそうに、ひざまづいて青峰に愛と忠誠を誓っていた。








END



笠松編でした。
ストックの中にずーっといて、やっとこれをUPできましたー。

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