□トリプル
「それでも俺は青峰っちの事が好きなんスわ」
◇
火神大我は全身の筋肉をしなやかに使い空にボールを放った。
バスケットボールは美しい弧を描き、滑らかな回転をしリングの中央に吸い込まれ、落ちる。
快晴の空に入道雲が泳ぎ、気持ちがよかった。
落ちてきたボールを拾い、またシュートを放つ。
どうにもバスケットに集中できないのは、最近気になってしょうがない、黄瀬涼太の存在の所為だった。
黄瀬涼太とは火神の通う誠凛高校の同級生件、チームメイトの黒子テツヤのおかげで知り合った、他校のバスケット部員である。
キセキの世代と呼ばれる黄瀬は、第一印象は最悪で、火神に対して突っかかってきて火神を苛立たせた。
学生の傍らモデルの仕事をやっているという華やかな顔立ちは美しく、間近で見ると息をのむ精巧な作りの人形のよう。
海外で生活していた為金髪は見飽きているはずが、今まで見た中でも断トツの輝きを持つ金糸は細く、さらさらとしていた。
吸い込まれそうな瞳で見つめられると、変な気分になる。どうにも調子を崩す相手は、キセキの世代の特徴なのだが、黄瀬は特別火神の平常心を
奪うのが得意だった。
部活もない久々の休日。誰もいないストリートのコートで一人シュート練習。で、シュート練習も集中できてねえ。
ふう。流石に喉乾いたな。気温たけーし。息を吐いて、火神は気分転換にマジバーガーへ行くことにした。
「いらっしゃいませー。メニューはお決まりでしょうか?」
クーラーの効いた店内に入ると、汗はさっとひく。
「あー、これとこれを20個ずつ。あとコーラのL2つで」
アメリカとは違いバーガーのサイズは小さい。ドリンクもサーバーから自分で注ぐシステムではないため、二杯目をつぐことができない。
アメリカと日本のファストフードの違いに最初は戸惑ったが、慣れると味は日本の方がおいしく感じるし、チップボックスにコインを入れなくても
スマイルは貰え、サービスもきめ細やかで火神は好んでこのファストフード店に通っている。
「席にてお待ちください」
ドリンクとプラスチックのナンバープレートがのったトレーを渡される。
まだランチの時間でもなかったので休日だったが席はまばらだった。
いつもの席が空いている。今日は流石の黒子もいないはずだ。驚くこともなく、腰を掛けてコーラを啜った。
日本ではペプシはアメリカほどメジャーではないらしい。日本でのコーラといえば、コカ・コーラのイメージだ。
俺はペプシが好きなんだけどなー。ずずずと啜り、頬杖をついて何の気なしに窓の外を見た。
え。
黄瀬が斜め前の店の前で佇んでいた。
帽子をかぶり、メガネをかけているが、あの長身とスタイルの良さは目を引いて、通行人がちらちら視線をやっている。
少し下を向いていて表情は伺えなかった。
先ほどずっと思考していた件の黄瀬が近くにいる。火神の胸は高まった。
ここを出て、挨拶するか?
だが、わざわざ注文の品を持ち帰りにして黄瀬に挨拶するのも変だよな。
どうするか。そわそわとしていると幸か不幸か山積みになったハンバーガーが火神のもとへ届けられた。
ホカホカと出来立てで暖かく、香りは鼻孔をくすぐる。ハンバーガーは、火神の腹の虫を刺激し、ぐうと胃が空腹を示す。
別に俺は黄瀬とも待ち合わせていないし、デートだったら邪魔だよな。
少し心がざわついたが、そう思って、火神は目の前のハンバーガーの包みを剥がし、かぶりついた。
好物のチーズハンバーガーを食べ、コーラを啜る。咀嚼し、ピクルスとレタス、チーズとバンズとひき肉のハンバーグの味を楽しむ。
うめえな。
火神は夢中になって、もしゃもしゃと食べた。
最後の一個も食べ終わり、包み紙をぐしゃりとつぶした。
40個を食べて、腹も膨れ火神はふうと息を吐いた。
黄瀬を見てから40分は立っている。
もういないだろうと、窓の外を見てみると、黄瀬はまだその場に佇んでいた。
「え? なんであいつ40分以上この炎天下でまつとか……」
木陰にはいらず、ずっと直射日光の降り注ぐ場所で相手を待っている黄瀬。
火神は心配になり、黄瀬に声をかけようと決めた。
トレーを片付け、店員のもとへいく。
「すいません、烏龍茶のL1つください」
もし待ち合わせの相手がもう来るんだったら、俺が飲めばいいし。
烏龍茶を受け取って、火神は黄瀬のいる場所へ向かった。
◇
20130804
初期に書いていた作品ですので割りときちんと書いています。
もはやどういう展開になるのか忘れていましたが、
最後までのプロットをちゃんとかいていて、今後の流れもきまっているものです。