□きつねあめ





















朝から、全く変な天気であると人々は話をしていた。



かんかんの日差し、蝉は泣き、空は濃い白色の雲を漂わせながらも夏特有の深い色を見せている。



庭の洗濯物はハタハタと泳ぎ、風は木々の隙間を抜けいく。




小さな子は、洗濯物を干す母の傍で、庭の木で見つけた蝉の抜け殻を箱にいれ、
宝物を増やす。



ポツ


ポツ




晴れた空、日光の日差しは厳しいのに、上から落ちて来る水。



雨粒は、屋根や木々にあたり、バラバラと激しい音を立てる。



「大変! 雨だわ!」



子は不思議に思った。



晴れの天気なのに、雨だなんて。
必死で洗濯物を家の中にしまう、母親。


自分もコレクションボックスを早くしまわないと。


子は箱を持つと家の中に入り靴を脱ぐ。最近一人で靴を掃けるようになり、母と父は大層子の成長を褒めてくれた。



母の気を引くことはあとで。
子は窓の傍へ寄り、編み戸から外を除く。やはり日差しはさしたまま。



子の頭には疑問符が浮く。





洗濯物をしまい終えた母は、子の疑問符をキャッチし、子に語りかける。



「これはね、狐の嫁入りっていう天気なのよ。狐のお姫様がお嫁にいくとににこんな天気になるんだって、おばあちゃんが話していたわ。そう、昔、昔ね、狐のお姫様がいたの」












笠松は人間であるから、黄瀬を見送りできる場所はそこまでと、決まっていた。




幼い頃より大事にしてきた幼なじみは半分神様だった。


小さな稲荷神社は、人々から大事にされ、幼なじみの母はその神社の神主と結ばれ、子を成した。

笠松のみがしる黄瀬家の秘密であった。



黄瀬涼太と名付けられた、笠松の幼なじみは、人間の世界で育ち、今日、恋をした相手と結ばれ神様の世界へ戻る。




普通の人間には知ることの叶わない狐の神様の嫁入り。



夕刻の空はまだ明るく、稲を片手に百姓たちは仕事にいそしむ。



笠松は懐から取り出し手にした、黒光りする薄っぺらな石を握った。



すると、見えてきたものは、狐の嫁入り行列であった。



皆灯篭を片手にもち、ゆっくりとした歩調で一向は進む。



前日に挨拶は済ませていた幼なじみは、白無垢に身をつつみ、しずしずと歩いている。



ちらりと見る、美しいかんばせ。髪の金色は普段よりも濃く艶やかで、伏せている顔の口元には朱がさしていた。




笠松はほぅとため息をついた。



子供の頃泥だらけで遊びあった仲だ。やんちゃな二つ年下の子供がいまや、息をのむほどの美しい美青年に見惚れる。



笠松は、もう会えなくなるのかと、寂しく思ったが、門出に相応しくないことだと頭を振った。



幸せになって欲しい。




幼なじみとして。
兄弟のような、大事な子であるから。



列は進んでいく。
黄瀬は、ふと、伏せていた顔をあげ、見送りにきた笠松を見つけ笑む。



笠松は息を呑むと、頷き、笑顔を作った。



黄瀬の伴侶となる男のことは、ちらりと話に聞いた位。
どんな男か、黄瀬の主観が入った言葉でしかしらない。



ぶっきらぼうだけど、優しい。
引っ張っていってくれるけど、自分の意見も聞いてくれる。



容姿は黄瀬より背が高く、群青の髪と肌は黒く、とにかく目が綺麗だと。



嫁入りは、行列に新郎は加わらないため、笠松は新郎の顔は拝めない。



残念に思いながらも、神様に嫁ぐのは人間の約束ごととはちがうのだと自分にいい聞かせて。


しかし、ちゃんと黄瀬を大事にしてくれるのだろうか。人間の血が混じった黄瀬がそのことで、責められたりはしまいか。


不安がよぎり、複雑なこの天気のように笠松の心はざわついた。



「心配しなくとも、青峰は黄瀬を大事にするのだよ」


「だいたい、青峰の地位では混血を娶ったこと位でガタガタいう輩はいないよ、笠松幸男」



気配もなく表れた、緑色と緋色の髪の男。


どちらも恐ろしいまでに容姿が整っており、瞳の色をみれば、人外の存在だとすぐ理解できた。




「あと、その鱗があれば貴様は青峰と黄瀬に会いにいけるのだよ。血を流してまでも自分の一部を剥ぎ取り、人間にやるとは青峰も変わっている」



「涼太がこの幼なじみを兄のように大事に思っているからだろう」



「その黒い鱗は青峰の力が宿るものだ。この行列だってそれを握らなければ見えないと黄瀬が言っていただろう」


「……確かに……」




列は徐々に、その境界へ近づく。



「赤司、時間だ。人間、そのうち、黄瀬が貴様のことを呼ぶだろう」



緑の髪の男は緋色の髪の男に目配せし、灯篭に火を点した。


「……わかった。それまで死なずに、稲荷神社をおじさんと一緒に守っておくよ」



「ふん。おそらくそんなに待たずに、貴様は青峰と黄瀬に会えるはずだ。青峰も貴様に会いたがっていたしな」



「さて、僕たちは行かないとだ、あの列が向かった先の世界のお出迎え役なんだ」


緑色と緋色の髪をした二人はすっときえ、先ほどまでいた場所には灯篭が一つあった。


笠松は、その灯篭を持つと、黄瀬を心から思った。



「どうか、離れていても幸せでいてほしい」


ぎゅっと握った平たいその石が、熱を持った気がした。







「ねえ、その狐のお嫁さんはそれからどうなったの―?」



「きっと嫁入りした先でとても幸せに暮らしたと思うわ。たまに人間のお友達を呼んで、神様の世界でお酒とご馳走をたべてね」



「ああ、幸ちゃん。雨が止むわ」


美しい虹がその後、街を包み込んだ。







子は母の後を追い、庭に出た。



雲の合間、


今日も、晴れの門出。



どこかの狐が嫁入りを終えたのかもしれない。





END


20130714


久しぶりの小説です。
ここ二日、きつねの嫁入りの天気を体験し洗濯物を一日で四回くらい
しまったり出したりしてかなり大変だったのでこの話を考え付き書きました(笑)

神界では位の高い青峰様と混血の黄ちゃん。
私が狐様をかくと書くとこういう感じになってしまいますね。





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