□春に溶ける
黄瀬がある日みたニュースの映像。それは日本の風物詩の様子だった。
都内の桜の名所は、人で賑わい、花を動機にただ飲み騒ぎたいだけの大人達や、母親が作った弁当をもって仲良く団欒する家族がところせましとブルーシートの上で、それぞれ楽しんでいる。
この季節。例外はあるだろうが、花見やイベント好きな国民は浮ついている。
蕾を綻ばせ、その淡く薄色の花弁はソメイヨシノという桜の品種であり現在の日本の桜というのはソメイヨシノを指していた。
□
二人のオフ。夜は火神や黒子、お馴染みのキセキの世代のメンバーで夜桜見物の予定にしていた。本日は平日、集まるメンバーは土日祝日関係ない職業がほとんどだったのだが、夜桜が風流だとキャプテンが言うものだから夕方からのスタートになっていた。
昨夜、青峰に抱かれながら黄瀬は青峰におねだりをした。
「明日、日中は青峰っちと一緒に桜見たいっス。ねぇ、ダメっスか……?」
艶めかしくしなやかな肢体を青峰の身体に絡めて、上目遣いでねだられたらNOとはいえない。
「いいぜ? 明日ちゃんと起きれたらな。ただし、今は手加減とかしねーからな」
青峰は黄瀬のうなじから垂れ落ちる汗を舐め、黄瀬の中に自身を埋め、律動を激しくした。
□
情熱的な夜が明けて朝、7時半。青峰は早起きをし、夜の情事で疲れて寝ている黄瀬の変わりに家事をこなす。
乾燥機の中の乾いた洋服を畳み、軽く掃除をした。
お湯を沸かし、テレビをつける。スポーツチャンネルをつけるとサッカーの試合が映った。
(サッカーか。黄瀬見たがるだろうけど、まーいーか。飯出来るまで眠らせとこ)
コーヒーはノンカフェインの、オーガニックコーヒー。薄めを好む黄瀬。
朝食は蒸した温野菜に、きちんと時間をかけて煮込んだスープ。オリーブオイルを使いこんがり焼いたチキンにバジルソースを絡めたメイン。パンは米粉パン。近所にある大評判のベーカリーは、学生の為に早朝から開いていて、青峰はその学生たちに交じってパンを買った。
袋からとりだすと存在を主張するように、パンの薫りはダイニングに広がる。
その薫りにつられた訳ではないだろうが、タイミングよく黄瀬が起きてきた。
「青峰っち、おはようっス。何つくってくれたの?」
「火神がくれたバジルソース使った。あと適当」
「うまそー!」
「元気だな」
「元気っスよ。青峰っちと花見したかったし」
「そーかよ。つかちょっと待て。お前、人込みは無理じゃねーか?」
「いや、大丈夫っスよ。変装してくし」
「夜ならまだしも……無理だろ。お前身長あンだから、昼間は変装してても誰かしら気がつくんじゃねー?」
「でっ、でも桜、一緒に見たい! 約束したっスよ、青峰っち! 一緒に桜見たくないっスか?」
「そりゃ、みてえけど。昨日は全然考えてなかったけどよー、結構ハードル高いよな、日中にお前と公園とかで騒ぎにならない様に花見するって」
「うー、行きたいっス。……ばれても昼間の桜が二人で見たいんス!」
「………」
「…………」
「あ! 車で郊外行くか! 山の中ドライブ。それなら人込み避けられるし、二人で花見できるだろ」
「その手があったっスね! さすが青峰っちっス!」
「桜が見られて、人が少ない場所ねぇ」
「あそこは? 青峰っちが前見つけたとこ!」
その言葉で、黄瀬と青峰は郊外のある場所へドライブする流れとなった−ー。
□
山道を車で走行する。青峰の運転する車は車高が高く、社内も広いので、縦に長い黄瀬や青峰も楽に過ごせる設計になっている。
黄瀬は運転する青峰の横顔を見つめ、コーヒーやガムを勧めて二人でたわいない話をするのが好きだった。
二人が目指す場所は花見スポットではないものの、以前ドライブした時に偶然見つけた山の中にある静かな神社である。
桜の木が数本あったのを記憶していたのでそこに向かっている。少々山あいの田舎まできたのでひと気もなく、たまに対向車が現れる程度の道のりになってきた。
風は窓を開けて走るにはまだつめたかったが気持ちよく山道の木々を揺らしている。
黄瀬は青峰の横顔をみつつ、窓の外を見た。
ひらり、はらはら。
桜の花びら。
助手席に座る黄瀬のフロントガラスに桜が、風にのって落ちてくる
はらはら、はらはら。
山道に突然現れた、桜並木。
薄桃の花びらが雪のように、ひらひら、はらはら。
「うわぁ! 綺麗! 青峰っち! 青峰っち上から桜!!」
「おぉ! すっげーな!」
ぶわり。また、風に舞い上がり。
そして、舞い落ちる。車のフロントガラスにひらひらと落ち、また風と踊る。
青峰は走行する速度を落とし、ゆっくりと車を走らせた。
どこか幻想的な風景が続くと二人は無言になってしまった。
その風景の一部になりつつ、二人は二人だけの世界に浸った。
□
神社にはだれもおらず、やはり二人きりの世界は続く。
誰もいないからと、手を繋ぎ、石段を上る。石段は一段一段が高く、傾斜もあったが二人はなんなく登りきった。
お参りをし、桜の下にあったベンチ寄り添って座った。
桜は二本植わっていて、寄り添って咲いていた。
風がまた桜の花を揺らし、百舌が花弁をつついている。
音のない静かな世界。
「青峰っち、俺、すっごく幸せだよ」
手を握り、黄瀬は心から思っている本音を青峰に伝える。
「ね、青峰っち。ずっとずっと何年経っても毎年、こうして桜を見ていたいね」
「そうだな。お前は……もっと欲張っていいからな。俺に対して遠慮すんな。もっと、もっと我が儘言え」
「青峰っちに俺沢山我が儘言ってるよ。充分すぎるくらい与えて貰ってる。青峰っちももっと我が儘言っていいから。中学生の時みたいに。自己中で俺様な青峰っち、ここ数年見てないよね」
「俺だって、大人になったんだよ」
「ははっ」
いつも弾む、会話。態度と言葉に、愛情を感じる。
「この桜みたいに寄り添いあって、数十年、数百年、未来永劫、俺を愛して青峰っち。それが今言いたい俺の我が儘っス」
「お安いご用だっつの。黄瀬、好きだぜ。ずっと、ずっーとな」
両頬に手を添え、青峰は優しいキスを黄瀬に施した。
桜が空に舞い上がる。
空に薄桃の色。
春は二人を暖かく祝福していた。
END
20130324
夜の花見編もかけたらかきたい。桜ちるまえに、間に合うかなぁ(笑)