□巡る運命3




◆◆


ふっと目を覚ますと、午前5時を指していた。喉の渇きを覚え、キッチンへ行く。
冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出し、一気に喉に流し込む。春だというのにじっとりと暑く
寝汗をかいてしまったようだ。気持ちが悪かった。

もう何度もみた内容のものだった。自分は小さな孤児で、上等な着物を着た人と出会う。
最初見たときは、そんな内容の映画観たっけ、なんて能天気に考えていた。
しかし、見るたびに鮮明になっていく映像はどこか懐かしいと感じる、直観が自分の過去世なんじゃないかと思うようになって、
最近では確信してしまっていた。


私は彼を探していると――。

ふう、息をはいて苦笑した。秘密は無しにしている幼馴染の幸くんにも話せない突拍子もない話。
だれも信じないだろうから、両親にも話していない、私だけの秘密。
残念ながら、幸くんはあの人ではない。
もう少し、雄々しい感じの人だったし、幸くんではないと魂でわかるのだ。

目がさえてしまった、二度寝する気もおきない。シャワーを浴びてさっぱりすることにした。


早起きすぎる早起きをしたから、朝からマッサージしいて、メイクも念入りにして、この前マネージャーさんから勧められた日焼け止めを手足に塗った。
ちょっとブルーになってしまったから、幸くんにメールする。この時間なら、彼は早朝練習のために学校に向かう電車の中だろう。
一人っ子の自分がさびしがり屋だと知っているから、幸くんも部活以外の時間なら短く返信してくれる。

おは朝占いのラッキーアイテムはスマートフォン。シリコンカバーを変えてメールを作成する。
『幸くん、おはよう』

『おはよう。涼、今日は早起きだな』

『まーね。あ、パルコのセールのCM決まったよ』

『パルコよりルミネのほうに買い物行ってたのにな』

『パルコも行ってるもん! 今度休みの日、横浜のパルコまで行くから遊んで』

『部活があるから無理。もう着く、また連絡する』


(ちぇ、幸くん、つれないなぁ。こんなにかわいいモデル様が遊びに誘っているのに!)

幸くんは、部活ばっかり。夢中になる何かを見つけるってすごいことだから、応援はしてるけど
やっぱりさびしい。こうなれば、幸くんの学校に直接会いに行って、今日は幸くんのおうちに押しかけよう。
わがままかもしれないえけど、もう三か月も幼馴染と会えてなくて、寂しかったから、いっちゃおう。

スマートフォンの壁紙も変えて、学校に向かった。


神奈川の幸くんの学校まではここから2時間かかる。モデルの仕事ですと嘘をついて早退した。
部活が始まってすぐの時間なら、まだウォーミングアップ中だろうし、練習終わりまで見学できる。
自分の行動力をほめつつ、サクサクとルートを検索。検索して出てきた時間と合致する電車に乗る。
電車はまだ空いていて、席にも座れたので、ぼおっと対面の車窓を眺めていたら、駅についた。
長い脚を動かして、速足で歩く。たらたら歩くと、何かにつかまって面倒だからだ。

しばらく歩くと海常中学に着いた。


帰宅部の生徒から視線。マスクも帽子もサングラスもない、他校の制服姿は目を引いた。

「え? モデルの黄瀬涼じゃね?!」
「顔ちっちゃい! ヤバ、細っそい!!」
「つか、めちゃめちゃかわいすぎだろ!」
いろんな声が聞こえ、取り囲まれそうになったけど、「バスケ部はどこにあるか教えて欲しいんス」とにこやかに質問したら、
モデルの微笑に圧倒された生徒たちはあっさりと答えを教え、モーセの十戒のように道を作ってくれた。


他校にはいるのは案外簡単らしい。目的の体育館は目立つ場所にあったため、すぐに見つかった。
電車に乗る前に立ち寄った100円均一のスリッパを取り出し、体育館に入った。
男子専用に使われている体育館なのか女子の姿は見当たらない。


「すいませーん!! バスケ部の部長はいないっスかー?」
大きな声が体育館にこだました。柔軟体操している部員たちの目が一斉にこちらに向く。
ざわっと体育館が騒がしくなった。

「!! 涼!?」
(あ、幸くんいた。すっごい驚いてる)

「え、黄瀬涼ちゃんじゃね?!」
「なんで、部長?!」
「部長と知り合い?」
「いや、笠松が名前で呼んでるぜ。しかも手振られてるし……」

ざわざわとする体育館から、大柄な男子生徒が私のところへ向かってきた。
部長だろうな、と思ってにっこりと笑顔を作った。

「こんにちは! 部活中にすいません!」

「いや、別に構わないが。俺が部長だ。他校の生徒の君が一体どういう用件かな?」

部長さんは大人の対応をしてくれて、外部生の私を偵察などと怪しまず、対応してくれる。

「急に伺ってごめんなさいっス。実は、部長さんにバスケ部の見学のお願いをしたいんス」

「見学……? 何故?」

「えっと、幸く…あ、笠松くんに用事なんス。部活見てからご飯しようかと思ってて。
見学が無理ならファミレスとかで待っときます」

ざわっとまたほかの部員が沸いた。
「え、黄瀬ちゃんと付き合ってんの? 笠松!?」
「何、幸くん呼びやばくね?! 笠松ムカツク!」
そんな声をBGMに部長と話す。

「……そうか。別に偵察でもなさそうだし、俺は構わんぞ。笠松!!」

「はい!! 部長、すいません! ちょっと5分ください!!」

幸くんに首根っこをつかまれ、体育館外に出た。
幸くんはむすっとしていて、頭を殴られた。


「いったいスよ! 幸くん!!」

「痛く叩いてんだよ! っつか、なんだよ、突然!」

「突然じゃないっスよ! 幸くんママにもパパにもOKもらって、お泊りセットも持ってきたし!!」

「いや、突然だろうが!! 俺聞いてねーっつの!」

「だって、全然遊んでくれないっス。それに幸くんママの誕生日も近いからプレゼント二人で選びたかったの」

「……だからって急に部活に来るなよ。ほかの部員に迷惑だろ」

「それは、あとで皆さんにも謝るっスよ……」

『いや! むしろ謝らなくていい! 俺たちは大歓迎だから!!!』

一人の部員が入口の裏に潜んでいて、私がしゅんとしているのに耐えれなくなったのか、助け舟を出してくれた。


助け舟を出してくれたのは、森山君という女性に目がないちょっと変わった人だった。
フェミニストらしく自分をお姫様のようにエスコートしてくれる。

私が泣き笑いすると、幸くんは慌てたらしく、タオルだして、顔をゴシゴシぬぐってくれた。
まだ汗を吸いこんでいないタオルは柔軟剤のにおいがした。



部活後は、レギュラー部員全員でお好み焼きを食べることになった。
リーズナブルで量も多く、しかも味も逸品ということで他校でも有名なお好み焼きやだった。

煙たい店内は、女子校生はおらず、部員以外はサラリーマンと家族連れであふれていた。

幸くんと分け合って、お好み焼きをはふはふと食べた。私の食欲は最近細くて体重も落ち気味だったけど、楽しくて自分では沢山食べたなと思えるほど
箸がすすんだ。
幸くんの先輩や同級生や後輩は個性的な人物が多く、性格がよく私を受け入れてくれた。
居心地のよさに、話も弾み、別れが惜しくなるほどだった。


コンビニでアイスを食べる。多くの部員に囲まれて、楽しそうにしゃべっている幸くんをみていると、
どことなく、部活に幼馴染を取られた気持ちだったのに、今じゃ、部活動もいいなと思ってしまっていた。

皆と別れ、幸くんの家に向かった。ママの誕生日のプレゼントはスマホでセレクトして決めた。
お風呂をかりて、幸くんと就寝ぎりぎりまで喋る。
さっきの森山君のシュートと性格は変だとか、帝光中学はバスケの強豪校だとか。
近所の犬が脱走してたとか。くだらない話沢山した。

幸くんは嫌がっていたけど、ママに同じ部屋でも大丈夫といって幸くんの部屋にお布団を敷いてもらった。

「別に幼馴染だからいいじゃないスか! 何か問題あるスか!」
某漫画の主人公ばりにどーんと効果音をしょって、仁王立ちしたら
幸くんは大きくため息を吐いて、さっさとベッドに入ってしまった。

「電気消すっスよ?」

「……おー……」

「幸くん、今日はいっぱいお話できてうれしかったっス」

「おう」

真っ暗な空間。コチコチと時計の進む音が響く。隣のベッドに眠る幸くんの寝息は穏やかで、幼いころ二人で昼寝して
起きたら幸くんがいなくて、心細くなってワンワン泣いたことを思い出した。
はは…懐かしいっスねぇ。

幼馴染が隣にいるおかげか私はよく眠れた。




「俺も男だっつの」

夜中、そうやってつぶやいて、唇にキスしていた幸くんがいたことを、私は知らなかった。



少しずつ、だが確実に進んでいく未来に希望はあるのか。否か。





つづく


20130317UP


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