□オヤコロ様とピザ黄ちゃん1
「はぁ〜」
ため息ばかり出てくるけど、仕方ない。
好きな人が出来て、見るだけで幸せなんだけど、でもその人の視界に入りたくないんス。
だって、俺は太っているから――。
『d・i・e・tシャ・ラ・ラライ☆』
俺は、黄瀬涼太。ピザやお菓子が大好きな高校生。
体重、体脂肪ともに最早標準男子高校生の上を行きまくりで将来真っ暗コース。
「ピザ黄瀬」なんて苛められている。
女子からは気持ち悪がれ、男子からは嘲笑の的で、そんなこんなで毎日やけ食いの毎日。
そんな俺にも憧れている人がいる。
『青峰大輝君』
バスケ部のエースで、女子にも男子にも人気がある。
いつも近くにいる幼馴染の桃井さんとは付き合っていないらしい。
そもそも男の俺が好きってだけで気持ち悪いだろうから、青峰君を遠くからいつもこっそり見るのが俺の日課になっている。
青峰君を知ったのは、いきつけのマジバではない裏通りにあるファーストフード店だった。
ハンバーガーを受け取るとき落とした俺に、店員さんも周りのお客さんもどんくさいと笑っていて真っ赤になりながらそのまま出て行こうとしたときだった。
「ほら、食べ物粗末にすんじゃねーぞ。紙に入ってっしまだ食えんだろ」
別段笑うでもなく、さっと俺にハンバーガーの包みを渡してくれた。
彼は注文を終え、商品を受け取るとさっさと店内から出て行ってしまった。
太った俺を差別するでもなく、ただ普通に接してくれた。
それは大きな出来事で。痩せて彼の視界に入りたくて。
自己流の炭水化物抜きダイエットで更にリバウンドしダイエットをやりたくなくなってしまった。それからもうあきらめた。一生太っているのが俺なんだって。
何か転機があればいいのに。
学校から帰り、シャワーを浴びる。ご飯を食べて、夜食に宅配してもらったピザを食べていたその時だった――。
馬の嘶きと、パカラパカラという足音が聞こえた。
カッと光る部屋に現れたのは、馬にのった、赤い髪の青年だった。
小さな小人まではいかないけど、60cm位のサイズの謎の物体は傲慢に俺に言い放った。
「ふん、次はお前の願いをかなえるのか、面倒だが、やってやろう! さあお前の願いを言え!! サポートしてやる!」
馬がひひーんと啼いた。
「え?!」
いきなり出てきた謎の物体は、謎の発言をする。
俺はびっくりして二の句も告げれなかった。
赤い髪の青年はこれ見よがしにため息をついて、額に手をよせ「やれやれ。随分と面倒な人間にあたったな」と一人ごちていた。
「いやいやいや、それはこっちのセリフっスよ」
ぼそり呟けば、オッドアイの瞳が怪しくきらりと光った。
どこからともなく現れた子供サイズよりも、小さい鋏。だがかなり鋭い。
それをいきなり喉元に突きつけられる。
「何か言ったか?」
「イエナンデモアリマセン」
逆らえる雰囲気ではない。そっと学習机の椅子に俺は咄嗟に腰掛けた。
「頭が高い」恐ろしい声を赤い髪の青年が発したからだ。
「まあいい。僕の名前は赤司征十郎だ。色々な諸事情で妖精の世界から人間の願いをかなえるべく、遠征してきているんだ、感謝しろ。で、お前の願いはなんだ?」
「え、えーと願いっスか。そうっスねぇ〜」
頭の中に願い事を思い浮かべ、これじゃないな、あれじゃないな、と模索する。
「早くしろ」
「えーっと……」
脳裏に浮かんだのは、大好きな青峰君の顔だった。
妖精なんて、どうせ都合のいい夢を見ているんだろうから、言うだけ言ってみればいいよね。
「俺、痩せたいっス! 俺の願い痩せて毎日楽しく過ごすことっス!」
赤司は目を細めて俺の頭上を見ている。
細まった目はふっと笑んだ。
「へえ、脳裏の願いも全体的にも謙虚な願いばかりだしな。うん、いいじゃないか。了承した! その願い、叶えてやろう! 今日からダイエットをするぞ!!」
「へ?!」
「まさか、お前僕がすぐ願いをかなえてやるとでも思ったのか、愚か者め。僕はお前の願いがかなえるべくサポートをするだけで別に願いそのものを叶えるとは言っていない」
「そ、そうっスか」
「当然だろう。さて、お前の名前は黄瀬涼太だな」
「はいっス」
「涼太、机の中を見せてみろ」
「ん、どうぞ?」
三段になっている引出を順番に開けると、そこにはポテトチップス、まいう棒、ポッキー、よっちゃんいか、シュガーラスクなど様々なお菓子が入っている。
「これは全部没収だ。そして、明日から規則正しく運動と食事を見直して生活を改めるぞ、いいな」
鋏片手に脅迫された。もう、その通りにやるしか道はない。
涼太は泣く泣く、ダイエットを始める運びとなった。
妖精なんて、うそっス。
鋏をもった悪魔っス。
夢であればいいのに。
20130216
元拍手文。