□コンビニのスイーツから始まる恋
コンビニのスイーツから始まる恋。
この国で肉体労働を職とする人間への社会的な評価は低い。
汗を掻き力仕事をし、暑さ寒さとの戦いや危険と隣り合わせの作業をやっているのにもかかわらず土方、建築作業員と馬鹿にされてしまう。
そんな職に就いているのが、青峰大輝、21歳だった。
高校を卒業し、特にやりたいこともなくそのまま大学も中退してしまったのが、去年の秋。
学もなく、働き口を探すも不況の煽りを強く受け、若者の雇用は激減しており資格やコネも持っていなかった為、体を動かす仕事に就いた。
泥や埃、汗にまみれて、重たい土や金属を運ぶ。
軍手や手袋をしていても手は荒れ、手の皮は分厚く爪と指の間の隙間には土が挟まってしまいどんなに丁寧に洗っても隙間に入り込んでしまって汚れは完全に落ちなくなっていた。
もともと浅黒かった肌は日に焼け、腕はこんがり焼いたステーキ肉のような香ばしい色になってしまった。
だが、自分には合っていると思う。
青峰は体を動かすのが好きだったし、訳ありで働く人間も多く人の入れ替わりは激しかったが、現場監督や社長との人情溢れるやりとりも楽しかった。
トントン! カンカン! 打ち付ける音。
ドドドドド、騒音レベルの機械の音。
防音をされたシートの中で作業するから外はそれほど音は気にならないかもしれないが中の作業場はとてつもなく五月蝿い。
青峰は単純な作業も根気のいる作業も、器用にこなすため、重宝されている。
そんな青峰は、仕事にもなれ、毎日仕事と一人暮らしの小さなボロアパートの一室に帰る生活に少し潤いが欲しいと思っていた。
自分を知る人間に指を刺され笑われるだろうが、珍しく書籍を読み漁り、休日には公園へ散歩へ出かける。
先日は初めて図書カードを作り図書館にも来館し、気になった本を手に取り貸出カウンターに持っていった。
学のない自分でも面白いと感じた作家がいた。
黒子テツヤ。作家の名前は平凡で特別変わったこともないのだが、21歳にしてベストセラーになったその作家は純文学や児童書を得意とした、若き精鋭と呼ばれていた。
同じ年齢にして、文学の世界で世間に名を轟かせている。
黒子テツヤという人物が気になっていた。
工期が遅れているからと、定時となった時間を大幅に過ぎた時間になってしまった。
ようやくヘルメットを頭から取り外し現場事務所に飾ってある大きな時計を見ると、八時を過ぎたところだった。
今日は朝七時から来たから、一日の半分以上をここで過ごしたことになる。
青峰は流石に疲労を感じて、食事はコンビニの弁当を購入し、家に帰ってさっさと食べようと決めた。
家の近くにあるコンビニには、数人客がいる程度だった。
入口で汗臭い自分の汚れた姿を目に留め顔をしかめよけるOLと鉢合わせして、
テメーの香水のほうがくせーとおもうけど。そういいたくなった。
自分の恰好はひどいものだから、仕方ないかもしれない。
青峰は弁当の置いてあるコーナーに向かった。
弁当は夕食のピークをすぎてしまった後だからなのか、あまり品揃えがよくなかった。
戸棚には、牛カルビ弁当と、から揚げ弁当、そして大盛りスパゲッティーと人気のなさそうな弁当が数点あるのみだ。
青峰は迷わず牛カルビ弁当を取った。
明日の朝食のパンと、牛乳も買うことにする。
コスト的に割高だが、遠回りしてスーパーによる元気はもうない。
パンのコーナーに向かう際デザートコーナーにあった、杏仁豆腐プリンが目に入った。
黒子テツヤの最新作の中にコンビニのスイーツであるこの杏仁豆腐が出ていたのを思い出して、青峰は足を止める。
登場人物の美丈夫な男がひどくこれを愛しているという。杏仁豆腐プリン。そんなにうまいものなのか。
普段甘いものを手にしない青峰だったが、疲れた体に糖分補給はいいと聞く。
180円。そんなに高いものじゃない。
青峰は杏仁豆腐プリンに手を伸ばした。
「あ! 最期の一個! 俺の狙ってた杏仁プリンっスよ!!」
「あ?」
後ろを振り向くと、黒い帽子と薄茶色のサングラスをかけた今時風な男がこちらを指さし近づいてくる。
スタイリッシュな洋装と帽子。ふわりとかおる香水の匂いは先ほどのOLとは違い下品なほどはつけられておらず程よく香った。
「だーかーら、それ俺が今日食べようと思ってた杏仁プリンっスよ!!」
何やら男は憤慨しているらしく、青峰が手にしている杏仁豆腐プリンについて、青峰に苦情を言っているらしかった。
願ってこれを食べたいと思っている人間がそこにいるなら、と青峰はその男に差し出してやった。
「ほらよ。これそんなに俺食いたいってわけじゃなかったから、譲るよ」
固まっている男に苦笑して、青峰はズイと男に杏仁豆腐プリンを押しやった。
男は、差し出された杏仁豆腐プリンを受け取ろうとして固まって、はあと一息ついて青峰が怒る言葉を吐き捨てた。
「いらない。あんたの手汚ねぇし、んな汚い手に取られたもんなんてもういらないっス」
吐き捨てられた言葉に青峰は差別された気になった。
汗水たらして働いて、その代償で手は荒れ、皮は分厚く、短く切リ揃えていても爪と指の隙間には砂が入ってしまう。
衝動で殴らなかったのだけ感謝してほしい。青峰も嫌悪するように吐き捨てた。
「てめぇが心底お綺麗な職業についてるのは分かったが、俺は仕事に誇り持ってやってる。そういう人間を否定するなんて、最低だな」
「は……?」
「仏心だして、譲ってやるなんて言わなきゃよかったぜ。胸糞悪い。二度とその面見せんな」
男は再び固まってしまった。青峰は先ほどのOLがとった態度のように顔をしかめ男をよけてレジへ向かった。
家に帰って、手を洗い風呂で汗を流すと、机に置きっ放しにしているコンビニで冷やされていた杏仁豆腐プリンはぬるくなっていた。
ムカツク男のことを思い出して、青峰はぬるい杏仁豆腐プリンを一気食いして、冷蔵庫からビールを取り出すと甘ったるい味を消すべく、一気飲みした。
二度と杏仁豆腐プリンなんて買うか、クソ。
その日青峰は苛立ちで眠るのが遅くなってしまった。
づづく。
20130120
20130814
青黒じゃないよー。青黄だよ。
黄ちゃんって結構知らない人には容赦ない感じがしたから、本当にひどい言葉をあえて使って書いてますー。
これから青黄で展開していくだなんて、想像できないですよねー。
ちょっとこんなものがかきたくなってしまったのでUPしました。