□クリスマスイブ
二人で予約したケーキを買って。今夜は黄瀬の家でクリスマスを過ごす――。
数週間前、二人で相談していた件は悩みに悩んで、結論を出した。
結局、ケーキの予約は締切ぎりぎりになってしまい、紫原が「おいしかった」と話していたケーキ屋になった。
ケーキ屋のディスプレイに輝くホールケーキたちは、高級感が漂っていて宝石のように輝きがあり、食べるのが勿体ないと感じさせるものだった。
シャンパンと、ケーキの紙袋をぶら下げて、黄瀬とクリスマスカラーの街を歩く。
ちょっとした距離も二人であるくと、楽しい。
あっという間に黄瀬の家に着く。戸建の洋風一軒家。ガーデニングは黄瀬のお母さんの趣味。
クリスマスシーズンで旬のポインセチアが、赤い葉っぱを元気よく茂らせている。
ピンポンとチャイムを鳴らすと、黄瀬にそっくりな美人のお母さんが俺たちを出迎えてくれる。
金色の髪は母親の遺伝で、黄瀬より少しくすんだ髪色はとても艶やかで綺麗だ。
俺の顔を見て、嬉しそうに笑ってくれる。とても優しい人だ。
「いらっしゃい、待ってたのよ、青峰君」
「お邪魔します。あ、母親がいつもゴメイワクオシカケテスイマセンって」
シャンパンの入った袋を紙袋を差し出す。お義父さん(……っていうのはまだ早いけど)、涼の父親は洋酒を好むと母親に話したら、百貨店の酒のブースで買ってきたものを家を出るときに持たされた。
「あら、そんな。いいのに。パパと一緒に頂くわね。二人はシャンメリーよ。あ、涼おかえり」
「うん、ママ。ただいま。チキン焼けた?」
「それがね、少し焼きすぎちゃって。ちょっとぱさぱさになったかもしれないの」
「そうなの? 青峰っちはソファでゆっくりしてて。パパは帰ってきてるの?」
「まだよ。30分位したら帰ってくるらしいから、青峰君、コーラでいいかしら。それともあったかいコーヒーとかがいい?」
「青峰っちはケーキの時しかコーヒー飲まないから。とりあいず、コーラにして、ママ。あ、私にはお水頂戴!」
「もう、涼。自分の分は自分でやりなさい。ほら、青峰君をちゃんとおもてなしして」
「してるっスよー。ねー青峰っち!」
涼が出したスリッパを履いて、行き慣れたリビングへ向かう。パタパタと猫のスリッパを鳴らしながら涼もついてくる。
ダイニングとリビングのくっついた暖かい部屋に通され、俺の脱いだ上着を涼が自然に受取り、ハンガーに掛け、ハンガーラックへかける。自然な仕草。涼のお母さんの躾がいい証拠だと黒子は言っていたっけな。
「おお。サンキュ」
「私ママのお手伝いしてるから、青峰っちはテレビでも見てて!」
エプロンをつけて、髪をシュシュで束ねて、涼はお母さんの手伝いを始めた。
いつもはバスケ部のマネージャーとして活躍する涼。
やはり手際もよく、オーブンから取り出したチキンを見て、母親と顔をしかめあいつつ、次の瞬間笑いあう。友達みたいに仲がいい。
そんな二人の様子を見つつ、テレビを見ると、今日はこれから雪になると天気予報のアナウンサーは伝えていた。
ホワイトクリスマスか……。ホワイトクリスマスなんて都内でもなかなか無い。
涼のお義父さん、雪降る前に帰り着けばいいよなぁ。
外の温度は5度も満たない。その中を仕事を終えて、帰途につく。
どの家庭の父親も必死で家族を守るために仕事して、生活費稼いで。すげーと思う。
「ただ今〜」
「あ、パパ。お帰りなさい!」
「外、もう雪降ってきてるぞ。すごく寒かった。あ、青峰君来てるんだろ」
「うん、パパ。青峰っちのお家からシャンパン頂いたよ」
「あ、青峰君こんばんは」
「こんばんは、仕事お疲れ様デス……」
「ありがとう。なんか照れるなぁ……」
お義父さんは温厚で一人娘の涼をとても可愛がっている。
優しい人だけど、涼を「嫁にくれ」という時になったら、温厚さがなくなるかもしれない。
お義父さんも俺から見てもとてもカッコいいダンディーな容貌で、涼の身長の高さはこの人の遺伝だと俺は思っている。
俺は心の中で微妙な距離をとりつつも、にこやかなお義父さんと会話をする。
俺の隣に座ったお義父さんはビールを飲み、ふはあと息をついて、ネクタイを緩めた。
「やっぱり、仕事後のビールはいいね!」
「そっすか、酒とか足んなかったら俺買ってくるんで言ってください」
「大丈夫だよ!4、5日前から涼も、お母さんもいるものリスト作って用意してたから。それに未成年にお酒を買わせられないし……。って、青峰君は年相応に見えないから、年齢確認とかされなさそうだねぇ」
「あ、制服着てると流石にムリだとは思うんすけど、どうなんすかねー。俺老けてますか?」
「いや、体大きいし、風格あるから。老けてないない」
いつもよりテンションの高い涼のお義父さんは、またビールの缶を煽った。
テレビのバライティー番組で、宅配ピザのランキングをやっている。
芸人が必死でピザをむさぼっていた。
その様子をお義父さんと一緒に眺める。
「ねえ、準備できたよー! こっち座って青峰っち!!」
「さ、いこうか青峰君」
「はい」
四人掛けのダイニングテーブルには豪勢な食べ物の数々。
オーブンで焼いたローストチキン。タラモサラダ。鮮魚のカルパッチョ。
手作りのマルゲリータピザ。ラザニアに、クリ―ムコロッケ。パスタは二種類。オニオングラタンスープ。
盛り付けも綺麗で、店で出せるほどの出来栄えだった。
「すげー……」
「今年もママと私でがんばったんだよー! あ、私は昨日の夜からの下準備がメインだったけど」
「さあ、沢山たべてね」
にこにことお母さんと涼は似た笑顔で笑う。
席について、俺たちは炭酸飲料のシャンメリー。お義父さんたちはシャンパンで乾杯。
俺は少し緊張していたのも忘れ、料理の美味しさにいつのまにやら普段通りの自分になり、もりもりと食事を平らげた。
あれだけ量のあった食事もなくなり、コーヒーと共に、ホールケーキが登場した。
サンタクロースとモミの木に鈴がついた飾り、そしてホワイトチョコレートのプレート。
俺たちが選んだケーキは二人にとても喜んでもらえ、涼も俺も始終笑顔で、リビングでの食事会はあっという間に時間が過ぎた。
明日の朝練もあることだし、片付けもそこそこに、涼にプレゼントを渡して帰ることになった。
リビングで涼だけにプレゼントを渡すのもあれなので、二階の涼の部屋で、さっさと渡してしまう。
涼は俺と俺の家族にもプレゼントを用意してくれていた。
「青峰っちにはバッシュ。青峰パパとママには、お食事券とコーヒー豆っス。食事券はパパ達から」
「サンキュ。つーか、バッシュって。んな高いの、いいのかよ」
「いーんスよ。先月今月ってモデルの仕事も結構あったから、臨時収入多かったの」
「んじゃ、大事に使う。お義父さんたちに、親の分もありがとうって言わなきゃだな。で、俺はこれ……あんま、たいしたもんじゃねーけど。……メリークリスマス」
「ありがとう……今、開けていいっスか?」
「おお」
ラッピングから出てきたのは、淡い光を放つ宝石のついたネックレス。
「さつきには手伝ってもらってねえからな。自分で選んだ……。まだンなちっちぇーのしか買えなくてゴメン」
「小さくなんてない。ありがとう……。大事にするっスね。今つけてほしいっス」
「ああ……」
髪を掻き揚げた涼の後ろに立って、ネックレスを付けてやる。
耳が赤くなっている涼がたまらなく愛しかった。
「涼ー!! 青峰君そろそろお家に帰さないと、ご両親に申し訳ないから!」
階下から聞こえるお母さんの声に、はっとして、俺は涼から離れて、帰り支度をする。
上着はリビングだから、お義父さんとお母さんにもう一度、お礼を行ってから帰ろう。
「帰るわ、玄関まで見送って」
「ウン」
「明日、また朝練あるし。オラっ、いこーぜ」
リビングにあった上着をとって、アルコールはワインにシフトしたお義父さんに挨拶して、黄瀬家を辞する。
扉を開けると、寒い北風がびゅうびゅうと音を立てて、暖かな家へ入り込む。
見送ってくれたお母さんに簡単に挨拶して、涼に別れを告げると、「道路まで送る」からとサンダルを履いて外までくっついてきた。
そとはふわふわと雪が降っていた。
「楽しかったな。プレゼントありがとな」
「うん、楽しかったっス。こちらこそプレゼントありがとうございました! てか、うちに泊まってけばいいんス」
「はは。そーだな、まあそのうちな」
わしゃわしゃと髪をなでてやると、ぷくりと頬を膨らませる涼。
あーちくしょ、かわいーよな、こいつ。
「クリスマスケーキ予約した日は、星が綺麗だったけど、今日は雪が綺麗だね。青峰っち」
「んだなー。12月ははえーな。あと一週間もしたら正月だ」
「初詣。皆と行く以外にも私と二人で行ってほしいっス」
「分かったよ」
「あと、来年も再来年もクリスマスはうちでパーティーやりたいって言ったら青峰っち怒る?」
「いや? 別にいいんじゃねーか。その代わり」
「そのかわり……?」
「……ほかの記念日は俺優先な」
「!! ……はいッス」
「じゃーな、涼お休み」
「ん。気を付けてね!」
寒いはずなのに、スッゲーあったかくて、幸せを感じながら今年も帰途につく。
雪は、優しく街を包み込み、人々を幸せなホワイトクリスマスへと導いた。
END
メリークリスマス。
水銀灯7丁目、葉から皆様へ愛をこめて!
皆様が幸せでありますよーに★
20121224