□君の笑顔、僕の涙1




















吐息さえ白くなる気温は寒く、駅のロータリーと改札で待つ人間に優しくなかった。





普段は待ち合わせの場所として使われているが、厳しい寒波のおかげで、たむろしている人間も近くのカフェや本屋で時間を潰しているのか、人数はまばらだった。





自分も言えた口ではないが、先程から鼻の頭を真っ赤にした、背が高く、浅黒の肌を持つ群青色の短髪の男が微動だにせず、隣の柱により掛かっている。




時折駅の改札口上にある時計を眺め、はぁとため息をついている。




黄瀬も待ち合わせをしていて、もう、30分この場所から動けずにいた。この男も、待ち合わせ相手が期限を損ねるのか、寒い中、この場に根っこを生やすしかないのだ。ご苦労な事だ。この男も自分も。




なにやら妙な親近感を覚えてしまい、普段は絶対やらない事をした。




「ねえ、あんた誰待ってんスか? 彼女?」





突然近くにいた黄瀬から声を掛けられ、男は数秒間沈黙し瞬きを一、二度する。現状把握して、強張った表情筋を緩めた。一瞬の警戒は解かれたらしい。





「あ、幼なじみだよ、つーかおせえよな。乗り換えの山手線が人身らしいわ。面倒くせえの」




「ふぅん。大変っスね。俺も待ち合わせなんスよ。こっちは車で迎えに来る予定」


「彼女?」



「いや、そんな甘い関係のひとなんていないっスわ」



「ふーん、お前モテそうな外見なのにな! てか、かれこれ30分待つなんて俺ら馬鹿だよなー。マジバーガーのテリヤキ、あいつに奢らせるしかねーわ。お前も一緒に行くか? 相手来ねーならいいんじゃね?」




初対面の人間に警戒心も無しにフレンドリーな男だ。




ニカと笑う男がうらやましくて、黄瀬は吹き出し、笑顔を浮かべた。




「あんた軽いっスね! 普通は誘わないっスよ」




「そーか? 別にお前わるい奴じゃなさなそうだし、寂しそーだったからよ」





「別に寂しい顔なんてしてないスよ。てか、マジバーガーって何?」



「あ? 知らねえの?」


「うん」




「ふーん、珍しいな。マジバーガーはこの近くにあるファーストフードなんだよ。うめーぞ? テリヤキバーガーなら50個は喰えかもってくれー美味ぇ!」




「50個はないっスわ。え? マジな話50個くえんの?」




「ハハ、嘘だよ! 50個はくえねーし!」





退屈だった待ち時間に出来た会話の相手は貴重だったのか、男は機嫌よく話をする。



話し方も若者らしく、大学の話を楽しく話すので同世代だろう。



黄瀬は相槌を打ち、振られた質問はのらりくらりと躱した。

下りの電車が駅に到着し、何人も下りてくる。




男は待ち合わせの相手を見つけたようだ。



「居たわ。じゃな。結構楽しかった。またな」



「うス。バイバイ」



たまたま用事があって降り立った駅で待ち合わせしただけだから。



(もう会うことはないだろうけど……)




「さつき、てめーおせーよ!」





「だって人身じゃ、しょうがないでしょ!」




「もう9時だぜ! てめー晩飯奢れ」





遠くに去る男と、幼なじみを一瞥し、ふと時計を見下ろせば、確かにそんな時間。





一体いつまで待てばいいのやら。





寒さと喉の渇きを覚え、コーヒーでも買うかと自販機を探すべく足を動かした時。




見慣れた高級車が駅のロータリーに止まり、ウインドウが開く。




薄暗い後部座席から見える聡明な顔に埋まる、左右非対象の目。





「涼太」




名前を呼ばれた。






呼ばれた男のもとに足を向けると運転席からドライバーが出て、後部座席ドアを開ける。




するりと入ると、ドライバーは丁寧にドアを閉め、運転席へ乗り込んだ。




黄瀬を呼んだ男は電話を片手に優雅に喋っている。



内容から察するにまた良からぬ買収でもしているのだろう。裏の世界では知らぬ者はいない、有名な男だ。



スムーズに走り出す暖房の効いた暖かな車内から、街を見る。街路樹はライトアップされ、青、白、赤、黄、様々な色のイルミネーションで光輝いている。


幸せそうなカップル、家路をいそぐ作業姿の人物の手にケーキの入った箱。

忘年会にいくのか酔っ払ったサラリーマンたち。


平和な日常のワンシーン。


車の中と外ではこんなに違うものか。あの男のおかげで、先程までは平和な情景の一つだったのに。


寒暖の左から弛緩した鼻が出てきて、ずずと鼻を啜った。




赤司は電話をきり、涼太をひきよせ口づけた。




「寒い思いをさせてすまなかったな」



「ん、大丈夫っス」



「涼太、今日は僕がお前を買う」




「はいっス」


「腹が減っただろう。何が食べたい」



「マジバーガーのテリヤキバーガー」



「ファーストフード店? ……ゴミを食べるより栄養価のあるものを食べなさい。照り焼きが食べたいなら、そうだな……おい、銀座に向かってくれ」



前半は黄瀬に、後半はドライバーに言い放つ。





黄瀬の肩を撫でながら、赤司はまた電話をし始める。首を赤司の肩に乗せ黄瀬は窓の外を見た。










つづく








20130110










黄瀬涼太……色々な事情で、性を売る仕事をしている。



青峰大輝……大学生。そこらへんにいるような学生。ガングロ。




赤司征十郎……裏のドン。ちょっとえぐい事業も手掛けている。
涼太の事は好いているのかは赤司にしかわからない。
















ずっとUPしたい作品でした。長編です。まだ完結はしてないのですが
サイトにUPしました。
この作品はもう方向性が決まっていて終わりに向かって書き続ける予定です。


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