□傷を癒す、魔法
愛を囁き、毎晩、共に寝て。
不安で孤独を感じやすい、淋しがりな君を、僕が、僕で、満たしてあげる。
君にとって優しく、息が出来やすい世界にする。
だから、涼太、もう泣かなくていいんだよーー。
◇
青峰と黒子の事で、涼太がどんどん衰弱していることを耳にはしていた。
僕は涼太が好きだったけれど、その思いを伝えたところで、幸せになれないから、距離をとっていた。
勿論、すれ違ったりしたら話はしていたし、誰も見えないところで心配もかなりしていた。
他人から見える赤司征十郎は完璧、皇帝。支配者。だが、恋をして告白することでその対象から嫌われる恐怖はあるのだ。
人間だから。
万が一告白がうまくいったとしても、自分の後ろにあるものの重圧に耐えかねて、涼太が病んでしまうことがあれば、僕は生きていけない。それが怖かった。
あの日、敦と真太郎が涼太の状態はもう限界を超えていると訴えてきて、そんなことを言っている状態でないと判断し、僕は腹をくくった。
だが、もう遅く、バスケを、正しくは黒子と青峰を連想させるものがあると涼太は過呼吸を起こすようになってしまった。
涼太がもう不安にならないように、過呼吸を起こすことの無い様に、涼太のご両親を説得して、涼太は僕と暮らすことになった。
進学は、海常高校から、自分のいく京都の高校へ変更させた。
僕の家の血統は元華族であり、日本有数の財閥の家系。
僕は将来家と財閥のグループを継ぐが、その際涼太を傍に置くこと了承するように手を廻した。
有無を言わすつもりもない。反対などさせやしない。
涼太は一生僕の隣で幸せに生きる。青峰や黒子には一生手の届かない場所で安穏と息をして、僕と共に人生を歩む。
本当だったら、残り少ない登校期間、中学にも登校させたくなかったが、涼太がどうしてもと願うから、僕は涼太と一緒にサボタージュしバスケ部の部室やキセキと呼ばれたメンバーが使っていた空き教室に入り浸った。
不思議なことに僕が一緒だと、涼太は青峰たちを連想させる空間にいても過呼吸を起こすことはなかった。
僕が本を読むその横で、涼太はうとうとする。
たまに敦が来て、お菓子を一緒に食べ、昼休みになると真太郎も合流して、四人で昼食をとった。
寒空から差し込む穏やかで優しい光。二人かけてしまった、昼食の時間。
だが、敦と真太郎のフォローもあり二人かけたことを悟らせない楽しい昼食。
真太郎のラッキーアイテムは、毎日、涼太の分も用意されていた。
僕と涼太の関係は、部活のキャプテンとチームメイトから、恋人同士に変化した。
あの日過呼吸を初めて起こして、数日。共に過ごしているうちに涼太が少しずつ心のささくれに薬を塗ることを許してくれた。
その際に、告白した。
毎日、手を握り、抱き合い一緒に眠った。
性的な接触は、唇にキスを数秒落とすくらい。とても、清らかなもの。
今はそれでいいと思っている。傷を抱えた涼太に酷なことはさせない。
いつまでも、いつまでも、主人を待ち続けた犬は、その後どうなったのだろう。
忠犬と呼ばれたハチ。君は幸せだったろうか。
僕の涼太は、犬の様に従順で、人懐っこい。
青峰や黒子の存在は涼太にとっては主人や第二の親のような必要不可欠な存在で。
正直に言えば、腹立たしいが、青峰や黒子は自分たちのことで精一杯で、涼太の想いをくみ取ってやることもせずに今も自分のことで精一杯だ。
その点敦や真太郎は涼太の心配をし、未だに世話を焼きたがる。
二人には感謝している。僕の背中を押してくれたのは、二人だ。だから僕は、敦と真太郎は何か将来困ったときは必ず助けようと心に決めている。
冬の早朝。僕と涼太は手をつなぎ、キングサイズのベッドで一緒に眠っていた。
僕は目覚めてから涼太が覚醒するまで、綺麗な顔を見ているのが日課になっている。
「ん――」
「おはよう、涼太。よく眠れたかい?」
「まだ、眠い……」
「そう。じゃあ、二度寝しよう涼太。今日は一日気温も上がらないらしいから、何なら学校は休んでゆっくりしよう」
「ん――。午後からいく」
「じゃあ、午後まで眠ろう。お休み、涼太」
乾いた唇を潤すように少しだけ舐めながらキスを落とす。
涼太は嫌がらず、そのキスを受け止め、嬉しそうに笑むと琥珀色の眼を蕩けさせ、すぐ眠ってしまった。
卒業まであと二か月。出席日数なんて操作することはたわいのないこと。
大事な大事な子だから、もう傷なんてつけさせない。
僕は涼太にもう一度口づけを落とし、目を閉じた。
END
20121222
この赤司様は。
黄瀬過呼吸事件より、一人称が「僕」になります。
緑間っちももう真太郎呼びで。でも青峰、黒子に対しては、高校になるまで名前呼びはしません。
ホワイト赤司様と油断すると過呼吸する危うい黄ちゃん。
京都編も書きたい。