□恋人
黄瀬はふぅと、息をついた。今日はずっと気怠さが残り、目覚めたときから意識もぼんやりとしていた。
朝。10時過ぎても自分の熱であたためられた羽毛布団から這い出せずにいる。
外は嵐が来たのか。そう思わせる天候だった。
雨は窓を容赦なく叩き、風は木々を揺らし、ビュウビュウ音を立てていた。寒冷前線が日本列島に幅を効かせているので、気温は低く、室内は冷たい空気が漂っている。
エアコンと足元にあるヒーターを付けた。
ブーン。エアコンは音を出し、少し冷たい風を吐き出した後に熱望した暖かい風を吐き出し始めた。
日曜。珍しく部活も仕事も無いので自堕落に過ごそうか。
昨夜は恋人もこの部屋には訪れなかった。この天気じゃあ恋人も来ないだろう。
ふわふわのブランケットを撫でると艶やかで柔らかい質感が手に触れ、黄瀬はふにゃんと顔を弛緩させ、俯せになると枕を抱きしめ、二度寝をすべく意識を解き放った。
俯せ頭を優しく撫でる手に気がつき、黄瀬は意識を取り戻した。
遮光カーテンで薄暗くも、暖房器具のおかげで暖かな室内は黄瀬の覚醒を優しく助けてくれる。
手は頭を何度も往復する。
その手の主は黄瀬の目覚めには気がついておらず、縦横無尽に髪を撫でる。
するり、形のいい耳たぶを触られる。ふ、吐息が霞めた、次に耳の中に舌を入れられ、舐められた。
ぴちゃぴちゃと水音が鼓膜を刺激し、エロティックな音に黄瀬は悲鳴を上げた。
「ぁーーひゃあ!」
「わり、起こした。お前見てたらムラムラしてきた。よぅ、黄瀬」
「んぁ、青峰っち……」
俯せから起き上がると、恋人から不埒で爽やかな挨拶を貰った。
「気圧低いし、天気荒れ荒れだろ。調子崩してねーか心配で来た」
傘を指しても風が強いので傘の中に雨が降り込み、青峰の服は濡れていた。
わざわざ足元の悪い中、青峰は自分が心配で早く目が覚めたらしい。
メールや電話で済まさず、会いにきてくれた。
黄瀬は枕元においていたリモコンで部屋の明かりをつける。
「ぁ、んと……、心配かけて……ありがと。でも大丈夫……」
ぽつりぽつり呟けば、頬に手を当てられる。
「や、なんかお前顔色よくねーわ」
「そっスか……」
頬を触っている手に黄瀬は触れた。青峰の手はいつもホッカイロばりに暖かいのに、今日は冷えていた。
やはりこの寒い中、歩いてきたからだろう。
黄瀬は胸が苦しくなった。
恋人は自分中心な性格ではあるが、黄瀬に対して申し訳ない程甘やかし、心配し、愛情を与えてくれる。愛されていると解る。大事にされていると思える。
だから。
「青峰っち、風呂溜めるから、入ってきて? 寒かったでしょ? 風邪ひいたら大変だから」
「別に平気だろ」
「……お願い。俺が平気じゃない……。風呂入ってきたら、ココ(ベッド)であったまろ?」
気恥ずかしいが、初めて自分からお誘いをして、青峰の唇にキスをした。
ベッドを抜け出し、リビングとキッチンにある風呂のパネルを操作した。
寒く、どこか気怠かったら、もういっそのこと、寒さと気怠さを忘れる行為をすればいいだけだ。
恋人に愛情を貰った分、さらに愛情を返せるように、黄瀬はベッドルームに戻り、地べたに座る青峰の背中に抱き着いた。
今なら一緒にはいるのはいつも抵抗感と羞恥心のある、風呂に入ってもいいかもしれない。
黄瀬の済むこの賃貸物件、風呂の湯はかなり早く溜まる。10分もまてば入れるだろう。
背中に抱き着いたのに、いつの間にか大きな身体に包み込まれ、抱きしめられる。黄瀬は逞しい胸筋にほおを擦りつけ目を閉じた。
髪に額、頬に瞼、唇に耳元。
降ってくるキスの嵐。
この嵐なら過ぎ去って欲しくない。
唇を舐められ、薄く開くと、舌か入ってくる。向かえいれ、深く絡めると激しく舌を吸われる。
大きく口をあけ、角度を変えた。
青峰とのキスは身体がすぐ着火してしまう。
上手いのだ。キスもセックスも。
「んぁ、はぁっはぁ……」
息絶え絶えになるのに、まだ激しいキスは続く。
そっと目を開くとすっかり雄の顔つきになっている恋人と目が合う。
群青色の瞳に映る自分は、青峰の熱情に歓喜しきっていた。
このまま一つに溶けてしまおう。
黄瀬は目を閉じた。
END
20121219
青黄甘ラァーブ!!でした。やっぱり青黄はいいですね。