□December















クリスマスまであと4週間。


黄瀬と中学で出会って付き合い始めてから、ここ数年、クリスマスは黄瀬の家で、黄瀬と親と俺とでクリスマスを祝う。



食事は黄瀬の親が用意してくれ、ケーキは俺と黄瀬、二人で代金を出し合って買うのが決まりになっていた。



いつか黄瀬が嫁いで俺の苗字を名乗るようになったら、黄瀬は、両親と家でクリスマスを過ごすことが簡単でなくなる。


毎日帰宅すれば、両親がいて、たまに言い合ったり、家族皆で飯を食べに行ったり……。

それが当たり前じゃなくなる。


だから、黄瀬の両親への親孝行だと思って、学生の間は、黄瀬をお母さんとお父さんと過ごして、プレゼントを渡して喜んでもらう。



俺の実家はそんなにクリスマスを祝うようなイベント好きな家庭でもないので、黄瀬の家に世話になるのが常だった。




俺は高校を卒業したら、黄瀬と結婚したいとこっそり黄瀬のお母さんには話してある。


普段は優しいけど黄瀬を嫁にくれと言ったらお父さんは激昂するかもしれないので、少しずつ少しずつ黄瀬の家になじんで俺という人間を知ってほしいと思っている。
よって、クリスマスは何気に緊張するイベントであった。




「うーん、今年はどのケーキ屋さんがいいっスかねぇ……」



近所や、最寄駅のケーキ屋、それに都心部の有名な洋菓子店、様々なチラシを黄瀬はもってうんうん唸る。



毎年の事だが、チラシは年々増えて行っているように感じる。





俺の部活終わり、黄瀬を送る前にマジバで栄養分補給。





テリヤキバーガーを食べながら、二人でチラシを見る。



「これ、ちょっと気になってるんスよ!」



「あー、先月オープンしたとこだっけ?」



「そうそう。紫原っちがね、ここのケーキ美味しいって言ってた!」



「へー。じゃあそこでいいんじゃねーの?」



「んーそうスねえ。あ、でもこの有名店のケーキもよさそう!」



「うわ! ちっせーのに、なにこの値段!」



「確かに有名店のは値段の高い割に、小さいっスねぇ。ホール12cmで4000円はちょっとなぁ。まあ原料きっとこだわってるんスよ」


ポテトを小さな口に含み、どの店にするか、どのケーキにするか必死に考える黄瀬。



俺はまあ、こいつとお父さんとお母さんが喜んでくれるならぶっちゃけどこの、なんのケーキでもいいと思っているわけだが。



「去年は生チョコレートケーキだったよなぁ」



「っスねぇ。じゃあ今年はブッシュ・ド・ノエルとかショートケーキにするスか……?」




「んだなー」




烏龍茶のストローをちゅうちゅう吸う黄瀬の口元のリップグロスがきらりと反射して、ドキリとする。美形の彼女は自慢だが、心臓に悪い。



黄瀬は綺麗な赤のリーフレットを見て、驚いたような顔を浮かべた。




「あ、シュトレンがこの店売ってるっスよ! うわー気になる!」



「なに?」



「えっと、ドイツのクリスマスのアドベントで食べる習慣のあるパンっス。ナッツとかクルミとか入ってて、クリスマス当日まで徐々に毎日食べていく感じのパンって雑誌に書いてあったの、見たんスわ」



「ふーん、腐らないのかよ?」

「それが、日がたつことに美味しくなるっていうパンみたいっスよ。おしゃれ乾パンみたいな感じ?」



「へー。んでもクリスマスまで毎日ってのが難しそうだな」



「そうっスよねー。モデルの仕事もあるし、青峰っち毎日うちくるのも大変だし……」



「あー? とりあいず、黄瀬の親にどのケーキの気分かさりげなくサーチしてから決めよう。まだクリスマスまで時間あるし。今日はもう遅せーから、とっとと食って帰るぞ」



「わかったっス」



「クリアファイルにチラシ全部いれとくぞ」



「うん」




猫のキャラクターのついたピンク色のクリアファイルの中にチラシを入れ、黄瀬を急がせて、ゴミを片付ける。



マジバーガーの自動ドアをくぐると、一気に寒い外気と対面して二人で震えた。



手を差し出すと、当たり前のように繋がれる。



二人で居る時は手袋はしない。防寒用の耳あては鞄にぶら下げてあるが帰る時は一度も黄瀬が嵌めているところを見たことがない。




イルミネーションが輝く街の中、二人で帰途に着く。



今は別々の場所に帰っているけど、将来はこの手を離さないまま、同じ家まで帰るんだ。
あったかくて、幸せな気分になる。



黄瀬は鼻の頭を真っ赤にして、星空のきらめきを探して歩く。




「上ばっか見んな。あぶねーだろ。前みろ」



「だって、空綺麗っスよ。今日は澄んでいて星がキラキラっス」





キラキラとした黄瀬がそう目を輝かせて言うもんだから、俺も足を止めて星を探す。




オリオン位しか分からない俺も、感心するくらい空は澄んでいて、キラキラと星が瞬くのが肉眼で見てとれる。





「綺麗だな」




地上で輝くイルミネーションも綺麗だし、天上で輝く光も綺麗だし。






……横にいるお前はもっと綺麗だ。なんて言えるわけねえけど。






ぎゅっと握った手に力を入れて歩き出す。





「お前耳あてしねーの?」




「だって、青峰っちの声遠くなるの嫌だし……朝はちゃんとしてるよ?」





「おー」




こっちが照れてしまう。愛されてるな、と感じる黄瀬の発言にいつも俺は内心うろたえているのをこいつはきっと知らない。





「ちゃんと、お父さんとお母さんが食べたいケーキサーチしてこいよ」




「任せてっ!!」





今年のクリスマスも、楽しく過ごせるように、俺はちらりと天上の星に願ってみた。








END






青にょた黄です。ラブリーな二人のクリスマスはほのぼのとしてますー。
家族皆一緒にクリスマスを過ごすのって子供が大きくなったらできませんよね。
この青にょた黄ちゃん二人はとってもファミリーを大事にします。
そんなストーリーを書きたくて書き下ろしました。







20121215

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