□皇子様の初恋
「大輝様、いい加減に嫁を見つけるのだよ。毎日毎日、街をほっつき歩いて、本当にどうしようもない。跡継ぎは自分しかいないのが未だにわからないのか、人事を尽くして、相手を探すのだよ」
「あー? 人事つくしてるっつのー。じゃ、俺は今日は剣の稽古だから、紫原のところにいってくるわ」
「話を聞くのだよ!! まったく貴様はそれだからだめなのだよ!!」
うるせー、緑間の癖に、毎日毎日、だからお前が苦手なんだよ、バーカ。
従兄弟のさつきと一緒になって、結婚しろ結婚しろ、って何回も言って、耳にタコができちまう。
俺は自由で居たいんだよ。
剣の稽古をしてくれる紫原は俺の幼馴染なので、紫原の好みの菓子を見繕って本日も買収済み。
稽古場で庶民の服に着替えて、いつもの様に、抜け道を使って一人護衛もつけずに散歩する。それが俺の日課だ。
職務は来年20になったら、親父から引き継いでいくことを約束させられた。
運命の相手が見つからなければ、適当な人間をあてがわれて結婚させられる。
あと一年、俺が自由でいられる時間だ。
20歳。この国ではややいき遅れとささやかに噂されているのも知っている。
自分自身でその噂を耳にした。
だが、俺の性格上、適当な人間と結婚するよりかはずっと一人で気楽に暮らすほうが性に合っており、自分がかなりわがままなことも自覚している。
そんな自己中心的な皇子様と政略結婚したら相手が可哀想だろ。
俺が国王になった暁には、国王は結婚せずとも国を動かせる。そういう決まりにしたい。本気で思っている。
どうせ俺の運命の相手なんて見つかりっこないんだから。
だが、国王になるには結婚が大前提となっている。
19歳になって半年。
あと半年で一体何ができるか知らないが、実は俺は自分の魂がどきりとするような存在を街へ繰り出して探しているのだった。
◇
「おっちゃん、それくれ。今日は3個な」
「あいよー。毎度ありがとうね、兄ちゃん」
「またくるわ」
皇子は国の後を継ぐまでは国民に顔を見せる機会がない。なので、皆俺が皇子だとは知らない。
気さくに話しかけ、気さくにものを買うやりとりができる。
今日は紫原の分も買っておく。今日は焼き菓子が少なかったから若干機嫌が悪く、出てくるときに「少ねーし、ミドチンに告げ口するしかなくねーこの量」とぶつくさいわれたのだ。
自国で栽培されている果実は甘く、俺は毎日これを購入する。
どの店も水水しい果実を取り扱っていて、税制が厳しくないためか皆笑顔だ。
粗悪品を店に並べていないか、さりげなくチェックする。
果物の市を抜け、俺は高台へ急いだ。
草が一面を覆う草原から見える海が最高で、果物をかじりながら、貿易のために入出国する船を見るのが気に入っている。
風が吹いて、若草が風向きに合わせて、音を立てている。
麦が収穫される時期には、国のあたり一面が小麦色になり、実際はちくちくと痛いというが、風がふくと猫の毛のような柔らかそうな毛に見える麦が風に合わせてゆらゆら揺れるのがなんとも美しく幸せな気持ちを与えてくれる。
育ってきた国が俺は大好きだった。
先ほどの果実を一つを取り出し、皮ごとかぶりつく。
こぶしよりも大きい果実は、甘い香りがあたりに漂うほど香りがいい。
果肉は柔らかく完熟したものをジャムにすると糖蜜を加えないでも十分甘く紫原はこのジャムが大好物だったりする。
適度に熟していてうまい。種もないので皮ごとぜんぶ食べれるので、女子供が好んで食べると商人からきいた。
子供といえば、紫原だ。いつも腹を空かせている、自分の幼馴染は切れると怖いが、基本的にいいやつだ。
親友というのか。緑間は同い年でこれも幼馴染の癖に、小五月蝿いし苦手だが、俺のこととこの国を一番に考えてくれる。
これを食べて、街を一周して、そして城へ戻る。俺の最高の楽しみは平凡と言われようが、それでいい。
平和が一番だ。
自分の分を食べ終わり、港へ下る一本道を空を見ながら、歩く。
そんな平和を打ち崩す声がした。
「そこの人すいません!! ちょっと助けてください! 俺の主人が倒れてしまって!!」
若い男が、フードをかぶった人間を必死に抱き上げ、介抱している。
フードの中は見えないが、美しいブロンドの髪がちらりと見えた。
それが、俺の運命の相手だったなんて、この時俺は知る由もなかった――。
END
皇子様峰(ピュア)の話でしたー。
アンケートでそれはそれは青黄への愛情あふれるコメントが寄せられていて、
やっぱりみなさん青黄好きなんだなぁと思って書き下ろしました。
プリンセス黄瀬なのかプリンス黄瀬なのかは不明ですが、高尾ちゃんに抱えられた
黄ちゃんは青峰様と恋におちるのでありましたー。
20121203