□Trust Me
夜はどうも感傷的になりやすい――。
隣で眠る青峰の穏やかな寝顔を視野に入れつつ、黄瀬は一人ベッドから起き上がった。
情事の後。疲れた体を綺麗にしてくれ、黄瀬が眠るまでちゃんと見届けてくれる。
とても大事に扱ってくれる青峰。激しくされても最後はいつも優しい。
それが涙が出るほど満たされた気分になるし、愛されて幸せだと思うけど。
青峰がすっかり熟睡してたのを見届けて、起きてソファーに移動し必ず、考える。
はたして、いつまでこうして、一緒に居られるのか。
けっして一緒にはなれない未来は刻一刻と近づいてくる。
自分はモデル業をやってそこそこ認知度が上がってきて、社長に褒められ、同じ事務所の先輩からやっかみをうけることも多くなってきた。
人気になっていくたびに嫉妬や殺意を向けられるのは、正直な話あまり気分はよくない。
が、仕事はやりがいがある。よって仕事は続けたい。
青峰は、バスケットの才能をさらに開花させ、プロチームへの所属が決まった。
スポンサーは何社もつき、青峰の色気に注目した女性誌が、黄瀬も先月特集を組んで撮影してもらったように、ヌードをやらないかと打診してきたという。
同性での恋人関係は何の生産性もない。子供もできやしない。結婚だってできやしない。
あの素晴らしい才能の塊のような男の遺伝子を受け継ぐ子供が見てみたい気もするが、簡単に手放せるほど自分は強くない。
体は疲れて眠たいのに、ぐちゃぐちゃな気持ちが目を冴えさせ、泣きたい気分になる。
いっその事、女の子みたいにヒステリーに叫んでみたい。泣きついて、散々本音をぶちまけてそれを受け止めてもらいたい。
そう思うのはわがままだから、ぐっと我慢する。
幸せってなにかなぁ。
仕事して、適齢期で結婚して子供産んで、家買って、子供の成長を見届けて、それから孫が出来て。
青峰が願っても、やはり結婚も子供も自分には何もプレゼントできない。
自分が女性だったら、いいのになぁ。
神様は本当に欲しいものは、くれないのかなぁ。
真冬、深夜。寒波も到来し、部屋のなかは寒くて寒くてたまらない。
リビングはしんと静まり返り、暖房もなにもいれていないから、息さえ白い。
そばにあったクッションを抱きしめ、寂しさを紛らわす。
今幸せならいいじゃないか。でも。やっぱりさびしい。
つらい。泣きたい。
寒さは寂しさを助長させ、色々な感情を呼び起こす。
耳を塞いで、目を塞いで、あふれてくる涙を歯を食いしばってこらえる。
誰もが、望みながら、永遠を、信じない。
誰かが歌ってたあの歌詞をあれほど共感するとは思わなかった。
◇
暖かな体温を感じた。驚き目を開けると、青峰が前からすっぽり自分を包み込み抱きしめている。
そっと塞いでいた耳から手を外された。
「一人じゃ寒みーから起きちまった。また変な方向に考えてんじゃねーか?」
静かな空間に響く穏やかで優しさに溢れる声と体温にぽたりと涙は粒になり、ぼたぼたと落ちていく。
ギシリと音を立て、ソファーの横に座った青峰が強く抱きしめてくれる。
「御前、めちゃくちゃ冷えてっし。ここ寒いだろ。もどんぞ」
抱き上げられ、寝室へと移動する。その間も涙は途切れることはなく、青峰の肩を濡らし続けた。
暖かな空調の効いた寝室のベッドに優しく導かれる。
青峰が体を離そうとするのを必死で阻止し、力を込めてしがみつく。
思ったより自分はいろんなことがあり、落ち込んでいたらしい。
「俺はずっとお前と一緒にいる。もう、お前を置いて行ったりしない。あの時は自分自身のことしか見えてなかった。お前が不安になるのも仕方ないかもしれないけどさ――。俺を信じてくれないか」
囁かれた言葉は、普段の青峰の発言とはかけ離れ、青峰を知る人間が聞いたら「あの。それたぶん宇宙人が成り代わってますよ、青峰君に」と恐怖におののいた顔で言うにきまっていた。
だが、不安で不安で仕方ない今の黄瀬にとっては嘘でも、嬉しい言葉だった。
永遠を信じてもいい?
ずっと一緒にいれるって信じてもいい?
泣きじゃくりながら紡いだ言葉。
青峰は必死に肯定した。
黄瀬の不安を消せるのは青峰だけだ。
殻に閉じこもり、届かなくならないように、何度も愛をささやく。
青峰が中学時代黄瀬を置いていったのはそれだけ黄瀬の心に大きなヒビをいれてしまった。
黄瀬は特に一人で抱え込む。不安にならなくていいことでも不安になる。
自分以外の気持ちは、言葉や態度で確認しないとわからないもの。
仲間に言われた言葉を反芻しながら、青峰は黄瀬へ最大限の愛情を今夜も囁く。
END
20121128
不安な黄ちゃんの話ー。センチメンタリストRYOTA。フォーク曲げは出来ないイケメン(笑)
涼太くんがananでるのは当然だとして、某大リーガーみたいに大輝青峰もananで特集されればいいんだ!