□結果餌付けとなる











束縛なんて、生易しいものじゃない。





赤司は、あの子の人生そのものを手に入れ、手中に収めている。


日に日に衰弱していくあの子をみていると、どうにかしてあげたいと思ってしまうのは、
自分にもまだ良心というものが存在して証明で。




まだまだ自分も案外捨てたもんじゃないな。




葉山は庭の鯉に餌をやろうと池にしゃがみ込んだ。





鯉は葉山の存在に気が付き、我先にわれ先に餌を貰おうと口を開けて、餌が放られるのを待っている。




袋から餌をだし、池に放つと、バシャバシャとかいては水ごと餌を食べだす。





うーん、あの子もこれくらいご飯食べてくれるといいんだけど。




同僚の実渕が、あの子の世話全般をやっている。赤司が仕事で居ないときは一人で大人しくしているようだが。



葉山も赤司の警護であの子と一緒に食事を取ることがあったが、食事量が少なく、小学生の子供でももう少し食べているはずだと気になってしまった。





赤司はというと別段気に留めていないようだ。命の危険になるまではほおっておくといい。



葉山が先日、心配になって赤司に詰め寄った際、なにも問題ないだろう、と目を伏せ、さらっと湯豆腐を口にはこび、食事を終えると優雅に茶を啜っていた。





食事は大事だ。
葉山の持ってきた餌の量は限りがあり、一生懸命食事にありつく鯉全てが満腹にはならないが、少しでも平等にいきわたってほしくて、群れの先頭より奥にいる鯉たちにむかって餌をやる。



餌の小袋はあと二袋。葉山の日課である餌やりもその二袋が終われば、朝の日課は終わる。



今日は赤司は泊りがけで京都に向かった。紫原と数人の護衛を連れている。葉山は幹部であるが別行動の仕事をもっていたため、、一人屋敷に残っていた。



ちょっと休憩。煙草を取り出し、火をつける。硝煙の匂いとは違う煙草の香り。肺に染みわたらせ、ゆっくり吐き出す。



朝の一服は三本までと決めているから、朝起きて二本吸い、ここで最後の一本。



別段美味くない煙草の味。でも習慣だから、やめられない。立派な依存症になるのか、これも。





「おはようございます。あの、俺も餌やっていいスか……?」



背後から声がして、葉山は猫のように飛び上った。



物思いにふけると周りが見えなくなる。葉山の悪い癖だ。よく怒られる。


振り返ると先ほどまで思考の中にいた人物がいて、更に驚いた。


黒目がちな目を限界まで見開いて不躾に見てしまう。


あっちから声をかけてきたことなんて、なかったから。



ファーストコンタクトに葉山は、少々緊張した。



「あ、おはよー。じゃ、じゃあこれお願いしていい?」



上ずった声に笑うわけでもなく、じっとこっちを見つめる涼太に餌を渡す。


パラパラと鯉に餌をやる。その横顔は美形で有名な赤司の横に経っても全く遜色のない、美しさ。


獰猛さを必要なとき以外は欠片も見せない優男めいた赤司と、儚げな淡雪や桜を思わせる真っ白な涼太。



赤司の外見は他を圧倒させていたが、その横に涼太が立っても負けない。お互いをより引き立たせ、下っ端の組員は言葉を忘れ毎回絵画を鑑賞するようにうっとりとしている。



実渕もあの二人は芸術だわ、と話していた。



涼太は無言で餌を受け取ると、細い指先から餌を落としている。



餌をやるというよりかは、ただ池に餌を落としている。





鯉が必死に食らいついているのをみても何も思わないらしい。



琥珀色の眼はじいっと鯉を見つめている。



何、考えてるんだろ。




やはり食事に興味がないのかな。


さっさと煙草の残りを灰にしてしまい、葉山は携帯灰皿に残骸をしまう。




沈黙は金という言葉もあるが、葉山は沈黙が苦手だ。しかし、何を話題にしても無駄な気がする。



何か、何か、話題……。




試行錯誤してもダメだ。何が好きとか、好きなものは何とか、聞ける雰囲気じゃない。
気になったことを聞いてみるか。





「あ、のさ。飯にあんま興味ないの?」




「え?」




「や、その、いつも全然飯くわねーじゃん」





「そんなことないと思うんスけど……」




「普通はもっと食べるよー。ご飯大事だよー?」




「別に食わなくても、簡単に死なないっスから」


「うーん。食材や作ってくれる人もそうだけどさ、その食材を育ててくれた人がいるわけだし、それを食べるんだから元気も出るし! 俺さ、爺ちゃん農家だったんだよ! で、さ。チョー大変なの。天候とかで毎日仕事あったりなかったりするわけ! 台風とか超心配で、接近中って注意報でててやべーのに車とばして、必死に育てたのをやっとの思いで収穫して。なんか頭ではわかってると思うけど、そういう人が汗水たらして努力したものが食卓にならぶんだ!この鯉の餌だって、沢山の人の手が加わって今ここにあって、それを必死でこいつら食べようとしてる。
だからその、飯、もう少したべなよ。死なねーから食わねぇとか寂しいこと言わないでさ。なんか好きなものとか嫌いなものとかあったら、俺厨房の人にいうし!」



「それって、あの人があんたに、俺に質問するようにいったの?」



「いやー? って俺の独断! 単なる思い付き。今朝ここに来るなんて思いもしなかったし」



頭の後ろに手をやって、涼太を見ると、ちらりと涼太がこちらを見てきて、花がほころぶような笑顔を見せた。




「あんたって変わってるね」




「そうかな」




涼太は餌を持つと、今度は丁寧に鯉たちに向かって放っていく。





きちんと葉山の意見を聞いてくれる。赤司は絶対の皇帝だから、臣下の意見は取り入れる必要がなくいつも正しい結論に至る。年齢は自分の方が上なのは、気にしてはいないが、馬鹿だ阿呆だ、まぬけだ、頭が悪いとよく言われるのを知らない所為か、こうも素直に自分の持論を聞いてくれる人間がいるとは。








葉山は嬉しくなったと同時に赤司の欠陥を埋めるのは、この子であってほしい。


そう思ってしまった。





「ねー朝ごはん、何かリクエストしなよ! 俺、厨房に聞いてくるから!」




「……じゃあ、オニオングラタンスープ」




「おにおんぐらたんすーぷ? ね。分かった!!」






知能が人より緩い葉山は、涼太のリクエストに胸を躍らせる。





初めてのリクエスト、喜んでもらえるように、葉山は走って厨房に向かった。





その日の涼太の食卓には玉ねぎの味噌汁がどんぶりに注がれ、存在感を放っていたという。










END









ヤクザパロ第三弾。
SF同士だし、仲良くなってみたー。




20121126


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