□購買のパンは甘しょっぱい











「えっと。黄瀬君を紹介……ですか?」



対して仲良くもない、クラスメイトの女子グループからその日黒子は囲まれていた。




化粧も分厚く、大量に振り掛けた香水が鼻に入った。


三人それぞれのフルーティーで甘い香りが混じり合い、なんともいいがたい香りに迫られた黒子はウッと息を呑んだ。


ミスディレクション発動してさっさと購買に行くべきだった。



黒子の恋人は黄瀬涼太という。同姓ではあるが、黒子と黄瀬は恋人関係にあった。


ただし、学生の傍らでモデル業をこなす華やかな外見とは違い、性的に初な黄瀬との交際なので、未だ健全な関係性を保っているのだった。



黒子としては、色々な事をやりたいのであったが。


付き合って半年。


脳内で目茶苦茶に犯しつくすのもそろそろ限界に近かった。



どういうシチュエーションで迫れば彼は足を開くのだろうか。


そればかり考えて、ミスディレクションを発動しなかったばかりに女子生徒たちに囲まれてしまった。




彼女たちは先日、黄瀬と一緒にマジバへいったのを見ていたという。


仲良さそうにお互いのシェイクをシェアしあう二人を見て、相当仲がいいと思ったらしい。



否定はしない。恋人ですから。




しかし…自分の本気で愛する恋人を、紹介なんてしたくない。



黄瀬の恋人は自分。


それをストレートに言うのは、クラスメイトで今後も関わりある関係なので、良くないと判断。


オブラートに包みつつ、遠回しに且つ100%希望を持たせずに断るために黒子は言い訳を考えていたのであるが。




「黄瀬の恋人かなり嫉妬深いから紹介は無理だと思うぜ」



もっちゃもっちゃ。ハンバーガーを咀嚼している火神が、背後に表れた。




黒子が捕まってるのに気がつき、しばらく待っていたが、埒があかない気がして、先に購買に行ってしまった火神。




大量のパンがはいった紙袋の中から黒子の好きそうなパンを渡しつつ、女子生徒たちに言い放った。


「えーっ! キセリョって彼女いるんだ!」


「チョーラブラブな恋人。いるよな、黒子!」



「えぇ。まぁ、そうですね」


「そーそー、そのキセリョとか黄瀬が呼ばれるだけで毎回イラッとしてるから黄瀬の紹介は諦めろ! で、黒子は今から部活ミーティング兼ねてから屋上にいくから、おまえら解散!」



「「「えぇー」」」




シッシと手で女子生徒たちを追い払い、火神は黒子の手を取り、屋上へ向かった。



屋上に続く階段で、火神は随分下にある黒子の顔を覗き込んだ。



「お前黒いオーラ出過ぎ。チョービビったし」



「そうでしたか? 気がつきませんでした。無意識ですね」



「黄瀬は真っ黒黒子の存在を早く知ってしまえばいいのによ。で、俺に乗り換える!」



「それはないです。黄瀬君はずっと僕の物です。しかし、黄瀬君はどんどん認知度が上がっていますので、もう我慢しないことにしました」




屋上について、秋の高い空を見上げて黒子は一息つく。


携帯を取り出し、カチカチとボタンを操作する。


リダイアル「黄瀬涼太」。



「黄瀬。ご愁傷様だな」



火神は、黒子に買っておいたパンを奪って食べた。



黄瀬もきっと美味しくいただかれてしまうのだと思いながら。


あわよくば、自分も混ざらせてもらえないかな。……ウン、ないな。



奪ったパンは甘じょっぱい味がした。











End







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