□ピンチヒッターは短足?2
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「まずいことになったわ!!」
それは黄瀬の仕事中に起こった。モデル仲間の一人が、ダブルブッキングをしてしまったという。
現在モデル雑誌の看板モデルは黄瀬になっているが、二番手に位置するモデルがマネージャーの采配ミスで海外にいると発覚した。
撮れるものから調整をしていたのだが、これ以上撮影が進まない状態になったってスタッフ一同頭を抱えた。
先日青峰と見に行った試写会の映画監督がカメラを握る、黄瀬にとって気合いの入った仕事をしていたというのに。
もともとこの撮影日はギリギリに設定されイレギュラーな対応を黄瀬も迫られたのだが。
また後日深夜までかかれば間に合うかもしれない。しかし、部活を休まなくてはならなくなる。
肩を落とし、気を紛らわせたくてミネラルウォーターを含んだときだった。
「黄瀬君!」
「はい? なんですか?」
「ちょっとお願いがあるんだけど。そのね……」
言いづらい言葉を口にするときにこの人はなかなか渋い顔するなぁと黄瀬が思った。疑問符を浮かべ、カメラマンの言葉を待つ。
「素人さんだし、モデルじゃないからと思って躊躇ったんだけど、この前、映画の舞台の時に黄瀬君と来てたあの子! ちょうど今回のテーマに会うし、黄瀬君呼んでくれないかな!?」
「は? えぇっ?! 青峰をですか?!」
急に話題に出た内容は恋人を此処に連れ、更に黄瀬とともに撮影をしたいという、キャパオーバーな内容の提案だった。
「いやいや、無理スよ。あの人写真とか嫌いだし!」
「でも一度きりならオッケーもらえるかもしれないでしょ! 黄瀬君だって、お友達と雑誌乗るなんてまたとない機会よ! 私が責任もって最高の作品にするから!」
「いや、でも……」
「ギャラも払うし、彼の好きっていってた堀北マイちゃんの出版前の見本本にサインいれたり、彼女を今度撮るし、仕事場見学交渉するし! ね! お願い! ちょっと電話してみて!」
いいながらカメラマン魂が燃えてきたのか凄まじい剣幕でまくし立てて黄瀬に迫る。
黄瀬は、自分の魅力を引き出してくれた写真集と青峰が内容がいいて評価した映画を脳内に浮かべる。
……このカメラマンが撮った青峰を見てみたいと思ってしまった。
桐皇学園、もう放課後の時間。
しかも今日は顧問が会議のため、部活は休みと朝電話で聞いている。きっと今は青峰はフリーのはずだ。
青峰が断れば問題ないし、電話だけでも……。やけくそになり、黄瀬は青峰にコールした。
「もしもし青峰っち?」
「あれ? お前もう仕事おわったのか?」
………………
カメラマンと電話を変わった青峰がここに来ることになった。
なんと、青峰が了承したらしい。正確に言えば、一緒にマジバに行っていた桃井と体育館点検で部活が休みだった黒子がカメラマンの大ファンで二人が青峰を説得したのであるが。
あれよあれよと決まった有り得ない展開に黄瀬は目を回す暇もなく、青峰を出迎えた。
制服に見を包む青峰をスタジオに案内し、メイクと衣装の準備に付き添った。
筋肉質な青峰にあう衣装は誂えたようだった。
青峰に似合ったので買い取りして今日のお礼に送ろうと黄瀬は考える。
準備が出来、撮影に入る。プロの力を発揮する黄瀬に青峰はどきりと胸を鳴らした。
黄瀬、すげえな。犬みてぇな感じがなくなった。
雰囲気も変わるし、なんつーか綺麗だな。
洋服のラインを綺麗に見せるポージング、ぎこちない青峰を自然体にさせるさりげないサポートもしていく。
カメラマンの誘導も、三人の相性がよかったのか、回りにいたスタッフが青峰を職業モデルかと勘違いした位スムーズに、かつクオリティー高く撮影が終わった。
洋服撮影が早く終わったので、カメラマンの提案で今度出す写真集をコラボレーションする雑誌の一部をとる運びとなった。
スタジオ内で休憩している黄瀬にちょっかいを出す青峰。蕩けそうな笑みを浮かべる黄瀬。
カメラマンがあまりにも仲の良い二人をファインダー越しにみて、今度の一枚はこれだわ! と、写真集のコラボレーションで雑誌に掲載する写真を決めたほどに二人は幸せな表情で笑っていた。
次は、スタジオ近くにあるバスケットコートに場所を移し、オフ姿の黄瀬と青峰のワンオンワンを写真に収めた。
写真の被写体の身分を忘れてワンオンワンに集中する黄瀬の表情もまたファンにとって新鮮だろう。
カメラマンは次の写真集もバカ売れすると確信した。
NEXT(3へ続く)