□昼寝。その後に
いつの間にか、外は薄暗くなっていた。
もう9月も末なのに、蝉の鳴き声を耳にして、青峰はふと意識を冷ました。
この地域では最後の一匹になってしまったのだろうか。
広い世界で自分しか生きておらず、仲間がいない状態。
長い年月をかけ大地の中から外へでたのに、一匹だけで鳴くのは寂しくはないのか。
幼少期から捕まえていた親しみのある生き物を不憫に思う。
むくりと体を起こし、隣を見下ろす。黄瀬が寝ていた。
嗚呼、そういえば。と数時間前を思い出した。
二人で1on1に夢中になり、帰宅してシャワーを浴びて、ぼうっとしていたら腹筋談義になり、そこから勝負が始まった。
散らかった部屋の雑誌や服を端へ寄せ、ガチでの腹筋対決。
お互い腹筋が釣る手前まで力を出した。
女というハンデは与えず本気でやったので乳酸が溜まりまくり。
「こりゃ明日やばいっスわ」
苦笑する黄瀬と俺。
結局疲れて、何にもせずに、狭いベッドに倒れ込み、俯せで二人爆睡していたらしい。
腹を摩り、頭をガシガシ掻く。
あー、腹減ったな。
今夜も両親とも仕事。
黄瀬が来ることは伝えてあったからか、母親がカレーを大量に作ってあった。
米は炊飯器の予約機能で、もう炊けているだろう。
冷蔵庫にはサラダ。ラップをかけてあったハンバーグにカレーをかけて、ハンバーグカレーにしろとホワイトボードにかかれてあった。
黄瀬もモデル業より今はバスケに本腰を入れているから、しっかり食べるはずだ。
くぁと欠伸して、背を伸ばす。涙が出てくる。あー、マジよく寝たわ。
ベッドから出て、コーラを取りに行くべく床に足をつく。
後ろからきゅっとスウェットを引っ張られ、パンツを下げられる。
半ケツ状態になるのを阻止し、犯人を睨む。
「んだよ? 起こしたか?」
「や……うん……」
「あ? お前もコーラいっか?」
ふるふると振られる顔。
「……なんスかね。……ちょっと……その……寂しくなった感じ?」
自分とは違う小さな白い手。
明るかった光がなくなり、やがて闇が支配するまでの僅かな時間。
昼寝して知らぬ間に暗くなっていると、心細くなって自分も母親の姿を無意識にさがした記憶がある。
むくりと起き上がった黄瀬を抱きしめてやる。
柔らかく細い体は俺の体にすっぽりはいる。
「飯、食おうぜ。ハンバーグカレー好きだろ」
「うん」
「俺もハンバーグカレーは好きなんだよ。ハンバーグうめーし」
「うん」
「チーズインじゃなくてポテトサラダ入りとかびっくりど□キーかよって感じけどな」
「うん」
「結婚したら、お前が作れよハンバーグカレー」
さりげなく将来の事を告げてみた。どんな反応を返すのか。
しばし無言になる空間。
黄瀬は耳が真っ赤になり、目線をさ迷わせている。わなわなと震える口。
ふはっ。カワイーつーか、やべぇわ。何その口、うける。
「……ママさんのハンバーグコピーが花嫁修行スね」
「おぉ。ちゃんと美味く作れよ?」
「りょ、了解っス!」
モデルスマイルでは見たことないプライベート丸出しでにかーっと笑う黄瀬。
単純だけど、すっげー嬉しくて俺もめっちゃ笑った。
手を繋いでキッチンにいく。
夕方の寂しさを忘れ、俺達二人は温かな照明の下、カレーを頬張った。
ポテトサラダの入ったハンバーグカレーはやっぱり美味い。黄瀬が作れば更に美味いだろうな。
END
拍手にあったパパ峰ママ黄ちゃんの高校時代話。
青は結婚するまで黄ちゃんに手を出さないピュアピュア峰。
青黄ちゃんがお手々繋いで学校登校とかかわいいと思うの/////
20121004