□Colorful World
私は、都内に数店舗展開している、ハウスクリーニングの従業員だ。
常日頃、仕事に明け暮れ、しかも季節の変わり目で需要が多く毎日コマネズミの様にあくせく働いている。
仕事と家との往復、休日はたまに友人とランチやカラオケを楽しみ程度だった私の日常に、彼らは色を与えてくれた。
真夜中、ベッドに入ってひっそりとスマホでネットをする。友人というにはまだ距離があり、知人という程でもない微妙な距離のお付き合いの二人のテレビや雑誌での活躍をチェックするためだ。
明日の青峰様の試合の録画は父が見逃すまいと予約していたので、これはOK。
大好きな憧れのモデルの彼の雑誌の発売日だから仕事帰り帰宅途中に購入しよう。
眠気も徐々に混じりつつ、無限に広がっている錯覚に陥るインターネットの空間から必要な情報を取り出していると、メールが舞い降りた。
「ん?」
操作し開くと、きーちゃんの文字。
がばっと起きて正座して、深呼吸した。文面を読む。
【こんばんはー夜分にごめんね。寝ていて起こしたらごめん。来週の日曜は一日予定空いてる? 空いていたら息抜きにおいでー】
眠気も吹っ飛ぶメールの内容に、パニックになる
(え、なにお誘い? えええ、え? え?!)
最近、青峰様ときーちゃんが立て続けに知り合いを紹介してくれたおかげか、新規顧客が増えかなりハードな毎日を過ごしていたのをお礼と共に報告をしてしまったのが不味かったのか、気を使ってくれたらしい。
(息抜きとか、どうしよう。でもお二人のお邪魔にはならないかしら……)
頬と耳がとてつもなく熱くなる。正直な話、すごく嬉しい。
返事はもちろんOKだけど、どうしよう。迷惑じゃないかな。
返信に戸惑っているとメールがまた来た。
(ん、誰?)
本日二度目のきーちゃんからだった。
【青峰っちが、仕事じゃなかったら絶対こいよーって】
これはいかないとまずいだろうし、第一行きたいし、うん、行くにきまってる!
遠慮せずに図々しくいこうと承諾のメールをすると、またすぐに返信が帰ってくる。
【やったー。じゃあ、時間は10時から、青峰っちの家に来てもらってもいいかな】
こうして私は、来週のスケジュールが埋まり、青峰様ときーちゃんに会いに行くことになった。
◇
「へえ。君が涼太の言っていた掃除の子だね? ボードの写真のときより髪が伸びてるけど」
青峰様のお宅のリビングに入ると、赤い髪と不思議な目の色をした男性がいた。
ちらりとこちらを見てくるその人は、なんというか、きーちゃんとは違う美形で。独自の雰囲気に呑まれてしまう。
朝10時からシャンパンを煽り、隣の紫色の髪の色をしたまいう棒を食べている男性に話しかけている。
机にまいう棒が山になっているけど、これはいったい……。
絶句しているときーちゃんが、「いらっしゃーい、なに飲むー」と、今日も今日とて美しい声と顔で聞いてきた。
(この状況はなんですか?)
目で訴える。
「うん?」笑顔で首をかわいく傾げるきーちゃん。
雑誌の紙面ではあんなにカッコいいのに、生は仕草がかわいいよ、きーちゃん。
「あ、お酒だめだったっスか? ソフトドリンクもあるよ! マンゴージュースもあるっス!」
若干緩めなきーちゃん。もうアルコールが入っているらしく肌がほんのり赤くなっている。
そんなアルコールの入った顔もかわいいけど、違うよ。
差し入れにポテトグラタンを作ってきたのを渡す。
この前我が家のグラタンをきーちゃんが食べたいと言ってくれており、ちょうど材料が冷蔵庫にあったので今日は少し早起きしたのだ。
我が家は鶏肉が食べれない父のためにグラタンは鶏肉の代わりにベーコンがグラタンに入る。
ポテトとベーコンと玉ねぎの相性が抜群でおいしいグラタンに仕上がるのだ。
察するに、どうやらホームパーティーをやっているらしい。
緑色のしたまつ毛の長い美人さんが緑間さん、その横でワインを湯水のごとく飲むのは高尾さん。
赤い髪色の方は赤司さん、まいう棒の方は紫原さん。ソファーに座っていらっしゃったのに気が付かなかったけど、影が薄い水色の髪の毛の方は黒子さん。
皆さん学生時代にバスケ部で一緒に全中を制覇した関係らしい。
高尾さんは俺は違うけどーっといっていらっしゃった。
青峰様はダイニングテーブルで必死に材料を切っている。たまにビールを手に取って煽りつつ、作業をしている。
「ちょー、うめーたこ焼きを作んぞ。黄瀬がな」
嬉しそう。
手伝おうとするも、、きーちゃんに阻まれ、そのままの誘導され一人掛けのソファーに腰を下ろすことになった。
私にマンゴージュースを差し出してくれ、きーちゃんは青峰様の手伝いに行く。
リビングの一角に写真コルクボードが飾ってあった。
その中には私の写真や、青峰様の活躍されている姿、ストリートバスケで汗を流すきーちゃん、皆さんの中学時代の写真や大人数での飲み会の写真が貼ってある。
赤司さんが私の顔を見て呟いた言葉の意味を理解した。
きーちゃんとバッティングして青峰様の恋人という事実を知ってしまったあの日。
三人でとった写真は、嬉しそうな私が写っている。
それにしても、どうしてこんなに美形が多いのだろう。
バスケは顔がよくなくてはやれない競技なのだろうか。否、そんなはずはないはずだ。
青峰様のTV放映での試合を見ていればわかる。
「うっし! 焼くぞたこ焼き―!!」
たこ焼き器を用意して、具を沢山乗せたカラフルなミニボールが並んだトレイを持ってきた。
ねぎやたこ、おもちやチーズ、ミニトマトやアボカド、色々な具材たち。
手際よくきーちゃんがたこ焼きの液をいれ、具材を入れていく。
「縁日と駅前のたこ焼き屋でとっくにコピー済みっス。ここは俺に任せるっス」
「トマトいれんのー? まっずくねー?」
「紫原っち、イタリアンたこ焼きっス。うめーっスよ」
「黄瀬、変なものは食わせるなよ、人事を尽くせ」
「了解っスよ」
和気藹々とした会話が続く。仲良さそうな雰囲気。
「青峰様、ご無沙汰しております」
「おー、来てくれてサンキューな。グラタンもうまそーだし」
「はい、お口にあえばいいんですが」
ビールを美味しそうに嚥下する青峰様。すぐにグラスは空になる。氷につけられたワインを次に呑むらしく、コルクを開けている。
お酒好きそうな青峰様。きーちゃんにたこ焼きは任せて、おつまみとお酒を交互に手にしている。
「青峰様、結構お酒お飲みになるんですか?」
「どーかな。皆で集まったときとかはつぶれるまで飲むのがいいけど」
「酔っぱらうと峰ちんうぜーからつぶしたほうが楽なんだよねー」
「いつも一緒に帰る黄瀬が可哀想なのだよ」
青峰様と私が会話していると、紫原さんと緑間さんが会話に入った。
緑間さんは中学時代に青峰様と一緒のクラスだったらしい。
赤点の際は大変だったとため息交じりに眼鏡を調節していた。
「はいはーい、そろそろたこ焼きだべれるスよー」
「うまそー」
「黄瀬が完コピしたのはうめーに決まってんだろ」
はふはふ。暖かいうちに皆でつついた。
たこ焼き器は二台用意してあったが、人数も多いためすぐなくなる。
イタリアンたこ焼きは、アボカド、チーズ、ミニトマトで作られていて暖かいトマトは噛むと口の中ではじけておいしかった。
普通のたこ焼きももちチーズ明太たこ焼きも全部きーちゃんが作ってくれて、しかも皆どんどんお酒を空にしていくからテンションは鰻登りで、どんどん盛り上がっていった。
デザートのパンプキンケーキは高尾さんと緑間さんが作ってきてくれた。かぼちゃの顔はココアパウダーで書かれてあり、とてもおいしかった。
朝から夕方まで、ほぼ一日飲みっぱなしになってしまったためか、くたり。きーちゃんはソファーで眠ってしまった。
ほっぺたは真っ赤に染まって、沢山飲んだことが分かった。
「今日は涼太がつぶれたか」
「みてーだな。ベッドに寝かせとくわ」
「黄瀬君、楽しそうでしたね」
焼酎を飲んでいた手を止め青峰様は、きーちゃんを軽々と抱き上げた。
よっこらせ、と肩に担ぎ、寝室へ向かっていく。スポーツマンってすごい。
「今日はお姫様だっこしないんだねー」
「高尾、お前青峰にどつかれたいのか」
その様子を酒のつまみにして皆口々に青峰様ときーちゃんのことを言っている。
本当に仲がいいんだ。
今のうちに一休憩で、お手洗いを借りることにした。
レストランのような広いお手洗い。ハウスクリーニングの手を煩わさないいつも清潔な空間。
それはきーちゃんが青峰様を教育した結果、二人でよく掃除をしているから綺麗さを保っていると、この前知った。
青峰様はご実家で暮らしていたとき、自室が凄まじい空間になっていたらしい。きーちゃんが少し前に話してくれた。
トイレから出て、リビングに向かう途中に寝室がある。
寝室のドアが少し空いていた。きーちゃんは大丈夫かな。青峰様はもうリビングに戻ったかな。
そっとドアに近寄ったが、きーちゃんが心配なだけで他意はなかった。
まだ青峰様はいらっしゃる様で二人の会話が聞こえてきた。
「ん、青峰っち、チュー」
「はいはい、酔っ払いは寝てろ」
「酔っぱらってねースよ。夜はまだまだこれからっス」
「立派な酔っ払いだろ。ほら、いいから寝てろ」
「青峰っちも一緒に寝るっス!!」
「あー。じゃあ5分だけな。あいつらうるせーし」
「やったっス」
二人はとても甘い会話をしていた。こっちが真っ赤になるほどのラブラブ状態。
青峰様はきーちゃんと二人きりになるとあんなに甘い声でしゃべるのね。
意外な一面を知ってしまい、私は何とも言えない感情に呑まれた。
ああ、私もきっと酔っているんだ。静かにリビングへ戻った。
20分たっても二人は戻ってこない。
「あーあ、お客さんいるのにあいつら帰ってこねーし」
「仕方ない。片付けの皿洗いは俺と高尾でするのだよ」
「あ、私手伝います!」
「僕も手伝えます」
「赤司と紫原はそのままでいろ。お前らが動くと片付けが片付けにならん」
「分かったよ」
「んー、まいう棒うめー」
緑間さんは高尾さんと共にテーブルを片付け始める。
私も手伝ってキッチンへいく。黒子さんはゴミを集める係になった。
「パンプキンケーキ本当においしかったです」
「あーあれね、真ちゃんとお店に置く試作品つくったやつ持ってきたんだよ。ついでってやつー?」
「あ、喫茶店をされてるってきーちゃんから聞きました! コーヒーがすごくおいしいって。」
「そうそう、マスターは真ちゃんで、俺が裏で料理作ってんだよね」
「人事を尽くしているからコーヒーはうまいのは当然なのだよ」
「真ちゃんのコーヒーはまじうめーからね。今度おいでよ! あのグラタン食って真ちゃんとうちもグラタンメニューに置こうって言ってたんだぜ」
「うわー、おいしそうです」
「ってか、試作品とか食べにおいでよ! いつも火神って奴に頼むんだけどあいつもう渡米しちゃうからさ。黒子と」
「そうなんですか!」
「僕の話はいいですから」
「お前らさっさと手を動かせ。片付けにならんだろうが。おい、あとで連絡先を交換するだよ」
「はい!!」
片付けが終わっても二人は寝室から出てくることはなかった。
夜も八時を過ぎ、明日も皆さん仕事だから、解散して帰宅した。
帰宅して風呂に使って、髪を乾かすときにメールが入っているのに気が付いた。
青峰様も結局寝てしまったらしい。
【片付けありがと〜。つーかごめんね、寝ちゃって。今日は本当に楽しかったっス。また来週掃除よろしくって青峰っちが言ってるよ】
二人のラブラブ度合いはすごくて。青峰様のおばあ様の形見がきらりときーちゃんの指に嵌っていたのが私も嬉しかった。
今日あの場所にいた皆さんは二人の関係を知っているとのことだった。
【だからとてもリラックスしちゃった。ってか、また懲りずに遊びにきてね】
青峰様ときーちゃんと知り合って、いろんな人が私の知り合いになっていく。
社会人になると新しい人々との出会いをする機会はぐんと減る。もちろん習い事や接客業なら新しい出会いもあるけれど。
こういった出会いで、知り合いの知り合いが出来て仲良くなるのはとても嬉しい。
本当にうれしいな。来月高尾さんと緑間さんのお店をたずねることになった。
新しいメニューの試食だって。
ああ、たのしみだな!
明日からまたハードな仕事が待っているけど。
今日楽しかったから、頑張れる。
よし!! 寝よう!
私はベッドサイドの明かりを消した。
END
以前拍手コメントで青黄もぶ子ちゃん続編を希望してくださったなかた様へ捧げます。
今もいらしてくれてればいいけれど////
彼女はこれから青黄+キセキ+高尾ちゃんとワイワイ楽しい週末をたまに過ごして仕事もがんばることでしょう。
読んでくれてありがとうございました!
2012.10.27