□loveless marriage











----loveless marriage-----




黄瀬が赤司のものになってから、早幾年すぎただろうか。




毎夜の様に抱き、愛を囁く赤司に応じる黄瀬。


赤司の束縛は強く、黄瀬はあれだけ好きだったバスケも、モデルの仕事も辞めされられた。




今は赤司と一緒にすむ都内一等地に建てられた館に住んでいる。




西洋仕立ての館は、赤司もつ個人財産の一つであり、時価数億円と言われる価値を持つ。




赤司は20過ぎた若者だが、そこらにいるような若者ではなく、とにかく常識外れで頭が並外れて切れる男であった。


生前財産分与で与えられた資産は数兆で、赤司の采配で大幅に膨れ上がっている。

国内有数の企業を束ねる元締めである財閥系の一族。


その若き当主の寵愛を一心に受ける人物、それが黄瀬涼太。若き当主、赤司征十郎の恋人だった。



赤司と黄瀬は寝室にいた。
宵も明け、段々と辺りは朝を迎え明るくなっていた。

散々繋がりあい、今も背後から体を抱きしめつつ、赤司は黄瀬の中にいた。

ぐったりと赤司に体を預け、うとうとしている黄瀬の体を撫でながら、赤司はふと気が付いたように黄瀬に話しかけた。




「ねえ、涼太。毎日こんなに出しているんだ。子供が出来てもおかしくはないね」



優しい声音に、黄瀬は閉じていた瞼を開け、赤司に問われた言葉を反芻する。
有り得ないことを言われた気がする。


「そんなこと、ないっスよ、赤司っち……。赤ちゃんは男にはできないんスよ?」


赤司が囁いた言葉に小さな声で世界の常識を呟いた。
頭のいい赤司が世迷い事を吐くとは。赤司はやることなすこと全てが完璧で正しいはずなのに。


学生時代あれだけ好きだった赤司の存在。
今や黄瀬にとって日常を管理されている気分にしかならず、近年は辛さの方が勝っていた。



一日中何をするわけでもなく、ただ赤司の帰りをまち、赤司の為に生きる。


乙女心をもつ女性であれば喜んでこの生活をするだろうが、黄瀬は男性だ。働きにも出たかったし、友人や学生時代の先輩と会って遊びたかった。

だが、学生時代に告白をしたのは自分で、別れを切り出せるはずもなく、黄瀬は自由を諦めて赤司の支配下にいた。

さすりと腹を撫でられ、首筋に頭を埋められる。黄瀬の耳元で赤司は黄瀬の言葉を否定した。


「いや。そんなことはない。そういえば、少しお腹が丸くなった気がするね。真太郎に見てもらおうか」

――俺は、妊娠なんてシナイのに――


疲れた体。眠気が勝って、黄瀬は一言も発さず眠りに落ちた。


ずるりと黄瀬の中から出た赤司は、黄金の瞳と血の色の瞳で黄瀬を見下ろしながら、三日月のように目を細め、嗤った。



「涼太と僕の子供。いいじゃないか。作ったら、涼太は更に僕のものになるね」









二か月後。肌寒い季節になったからか、黄瀬は体調を崩して寝込んでいた。



熱が下がっても赤司が過保護な為、私室から出してくれず、ずっとベッドに横になっている生活だった。

横になる時間が長いためか黄瀬は眠ることが多くなった。

赤司は仕事の合間を縫って甲斐甲斐しく黄瀬の看病に来る。

コンコン。静かに扉がノックされ、赤司が入ってきた。
黄瀬は起き上がり、出迎えた。



支配的な顔が常の男が、今日は笑顔で、気分も浮き足立っているように黄瀬には思えた。





「涼太、このところ、具合がよくなかっただろう。お前が寝ている間に真太郎が来て検査したんだ。子供が出来ていたよ」

「え……?」

「僕たちの子供だ。大事にしないとだね」





真綿のように優しく抱きしめられ頭を撫でられる。


緑間が嘘をつくとは思えなかった。科学の進歩か、世界の常識はこの館で暮らしている間に変わったのか。……男性が子を宿すとは。

懐妊したと聞いて、嬉しさなどなく、ただ赤司からもう絶対逃げられないのを肌で感じ、黄瀬は涙を流した。







―さあ涼太、お前の子供だよ。抱いてみてごらん―

―赤司家の子供は生後一か月で、ベビーシッターに預けられるんだ。
年に一回子供とは会えるよ、涼太。だから、あまり心配しなくていい―


―ああ、バスケ部の連中が涼太と子供に会いたいっていうから、今度席を設けたんだ―








「涼太、皆集まってくれたよ」

「久しぶりっス、緑間っちにはかなりお世話になったって、赤司っちから聞いたっス」


「涼太は初めてのことづくしだったから混濁していて、妊娠中の記憶や出産した記憶がなくてな」

男である黄瀬が妊娠することはない。
ただ、赤司の企みにより、黄瀬は旨くマインドをコントロールされ、自分は子供を産んだと思い込んでいた。

ソファに座り、寄り添う黄瀬と赤司は家族そのものだった。


黄瀬の腕には小さな赤ん坊がすこやかな寝顔を見せている。

赤司家には現在元帝光中学バスケ部、レギュラー陣が集まっていた。


赤司家お抱えの医師になった緑間、赤司の専属ボディーガードになり、その職務を全うしている紫原。
青峰はバスケット選手として活躍したが、故障をしたため現役を引退した。その後、赤司がスポンサーになりスポーツトレーナーになっている。黒子も火神と共に事業を起こしたが、赤司が大きくかかわる産業にいた。

「あららー、可愛いねー。流石ー赤ちんと黄瀬ちんの子供だけあるねー」

「今日も異常なさそうだ。子供は健康体なのだよ」

「かわいいですが、まだとても小さいですね」

「……おめでとう」

紫原、緑間、黒子、青峰と続いた。

青峰は何かいいたそうな表情だったが、結局祝いの言葉しか述べずに沈黙した。
紅茶を啜り、赤司はちらりと青峰を見た。絶対零度の冷たさを秘めた瞳に、青峰は目を背ける。

「ありがとうっス。ああ、起きちゃった……」

「涼太、ベビーシッターに任せよう」

黄瀬の顔はひどくやせ細り、隈は濃く、髪は天使の輪が輝いていた金髪が、今は見る影もなくくすんでいた。
赤ん坊の世話はベビーシッターがほとんどしているのに、だ。


顔色の悪い黄瀬を見て、赤司以外は固唾をのんだ。
赤司は子供に興味がないらしくベビーシッターを呼びつけさっさと預けてしまう。


「あまり長いするとよくありませんね。帰りましょう」

「悪いね、テツヤ」

「いえ、こちらこそお邪魔しました」

「あ……皆、また遊びに来てほしいっス……」

「俺はまた明日くるよー。黄瀬ちん」

「涼太、見送りはいいから、横になるといい。眠る前に真太郎の処方した薬をちゃんと、飲むんだよ?」

「はいっス……」

「赤司も見送りはいいのだよ。黄瀬についてやれ」

「そう、じゃあここで失礼するよ。皆気を付けて帰れよ」





屋敷を出て、駐車スペースとなっている庭まで一同は歩く。
ボディーガードとして勤務する紫原がいるため、放たれているドーベルマンも襲ってこない。

「しっかし、赤ちんもエグいよねー」

「遠い親戚の子供を実子として迎え、黄瀬が情緒不安定になっているのをいいことに、黄瀬が産んだなどと。他には言えん診断を下した。俺は医者失格だ。
だが、仕事と高尾との生活を盾に取られたらなにもできないのだよ」

「そうですね、赤司財閥の力には僕たちが束になってもかないません。青峰君、余計なことはしないほうが得策ですよ」


「そうなのだよ、青峰。間違っても黄瀬を助けたいなどと思うな」

「…わかってる……」

「赤司は俺たちであろうと容赦なく消す」

「皆よくわかってんじゃーん。さ、帰ろ?」



館は厳重な格子で覆われている。赤外線のセキュリティは国で評価された絶対的に信用のあるもの。そしてドーベルマンは庭にはなたれ、警備員も目を光らせている。
誰もそこからから容易に出ることはできない。



「ここに来ると必ず時計が1分ずれるのだよ」







『黄瀬のための箱庭』 







そこには時計も狂わす狂気が漂っていた。








END







エンペラー様は周囲からじわじわ攻めて、黄ちゃんの思考もすべて自分のものにしちゃいますー。
青峰っちは残念ながら、太刀打ちできませんー。誰ひとりとして太刀打ちできないのはエンペラー様だからです。
ミドリンが処方した薬はなあに?ん?聞かない方が身のためだよってエンペラ様が言ってたよ。

2012.10.20


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