□BITTER END?
黄瀬の背中は綺麗だ。
筋肉のきちんとついた滑らかな皮膚は、青峰を虜にする。
ちゅ。吸い付くと黄瀬はくつくつと笑いせなかは上下に揺れた。
「ふふ、擽ったいっスよ」
お互いの欲望をぶつけ絡み合って、残滓の処理も終える頃には、あれだけムラムラした欲求は影を潜め、すっきりとしている。
ピロートークなんて柄じゃねえ。ましてや、まだ9時だ。夜中なら血迷って甘い言葉を吐いてやるかもしれねぇ。いや、ないな。
黄瀬もそれは知っているし、同性だからかやった後は甘ったるい女と違い、ベタベタしない。
学生時代から続けている関係性は、人には明け透け、赤裸々には答えられないもの。SEX≠恋人ではない俺達は所謂、セフレってやつで。
黄瀬も俺も、恋人関係に発展なんて望んじゃいない。
ただ単純に欲求が満たされるだけでイイ。俺は、そう思っている。
起き上がりミネラルウォーターをサイドボードから取った黄瀬は、天気の話をしているかのように、ライトな口調でこう言った。
「青峰っち。もうセフレも終わりっス」
「は?」
憎たらしい程の笑顔。一体どういう事だ。今何をこいつは言った?
ぐにゃり、空間が変わった気がした。
「や、青峰っちの事は好きっスよ。体の相性も抜群だし。でもね、俺、今日少女漫画読んだんス。
自分を愛してくれて、自分も死ぬほどその人を愛して、って言うね。そんな事やってみたくなったんスわ」
「な……んで……」
「だから、今夜でおしまいっス。清いお友達関係に戻るっスよ。んで、今日は泊まらずに、もう帰るっス。今までありがとう青峰っち」
身支度を始める背中は先ほどとは違い、嫌に広く見える。
散らばった服をかき集め、身に纏う。
俺の方は消して振り返らずに。
布擦れの音がし、一つ一つ、体を隠していく黄瀬。
本心からそれ言ってんの?なあ、マジなのか?
口に出したい言葉は沢山あるのに、感心な音にならない。
なんだ、俺どうしたんだ。
振り返り、優しく黄瀬は俺に言い放つ。
「バイバイ、青峰っち」
鞄を持って、部屋から出て行った。
何も言えなかった。
普段散々ヘタレと黄瀬を罵っていた癖に、ちゃんちゃら可笑しい。
窓から階下を見下ろすと黄瀬は振り返りもせずに道を歩いている。
俺から離れていく。
ああ、俺は黄瀬が好きだったのか。「清いお友達交際に戻ろうっス」と、言われて初めて気がついた。
ほろり、涙が一粒流れる。
ダッセー俺。つーか、何だよ泣くほどあいつのこと好きだったって今更遅すぎんだろーが。
窓に水滴がついた。どうやら雨が振ってきたらしい。パラパラ小雨ではなく、雨脚は酷くなる。
「少女漫画みたいな恋」か……。
なぁ、俺にもう一度チャンスをくれ。黄瀬が望む、愛し愛されの形、まずは俺の一方通行からでもいいだろ?
ごし。下瞼に溜まった涙を拭う。
服を来て、靴を履き、折りたたみ傘を片手に外に出る。
走って、走って、黄瀬を視界にいれる。100メートル先、ターゲットロックオン。
黄瀬、覚悟しとけよ!
「あれ、黄瀬くん? どうしたんですか? 傘もささずに、ぬれてしまいますよ」
END
これから、黒黄←青に発展するとか、青黄に戻るのか。
青様にとってビターな感じで終わらせるのも何だったんでここで区切りました。
本当はフラレ峰を書きたかったんです。珍しく甘くない終わり方でした★ちゃん、ちゃん♪
20121013