□Black & Green











漆黒のカーテンから僅かに日光が漏れ、黄瀬は眼を覚ました。

むくりと起き上がり、昨夜散々縋っていた相手の唇を触り、起こさない程度に軽く唇を合わせた。


(まだご主人様は熟睡中っスね)



青峰の犬として、青峰の為に息をして、青峰を喜ばせる為に生きる日々に、黄瀬は大変満足していた。


青峰と寝るのは自分の生活の習慣。

飛ぶほどの快楽。支配される肢体、精神。青峰が自分の全て。与えられるものは痛みでも幸せだった。




首輪を触る。自分の首に嵌められたごつい首輪。

首輪をつけていると軍服の詰め襟をきっちり嵌めることが出来なくなる。

だが、元帥の赤司が許可した為、詰め襟は詰めず、目立つ首輪は黄瀬の華奢な首に収まり、誰の眼にも青峰の犬と知らしめる事に成功している。


情事の激しさを残した体。青峰の匂いのしみついた裸に、軍服を纏い、身支度をした。

青峰は依然眠りについている。

一度寝ると睡眠が深くなるタイプなので、殺気さえ出さなければ隣で少し動こうが、一向に目を覚まさない。
すぅすぅと寝息が洩れている。

今日は黄瀬のみ、赤司に呼ばれていた。


(何のようスかねー)

単独での暗殺行為を依頼する積もりか。


青峰の私室を出てゆったりと歩く。

私室も各部屋で備品は違い、長身の人間が多いからか、天井も高い。床は大理石で豪華に誂えてるので廊下を歩くと、靴底がカツカツと響いてしまう。


支給されたブーツ、靴底固いっスね。前は柔らかい素材だった気がしたけど、この靴こんなに足に響くのはどうかと思うっス。


黄瀬は知らない。軍から支給される靴で、柔らかい素材で作られたものは一度もないことを。

赤司から記憶を操作され、自分が本来いた場所の事は一切思い出せないが、たまにごく僅かの違和感がこうして出てくる。


本人が気にしていない為、ただの勘違いになっている。

廊下は長く、作戦本部の棟にはいりきるまで、まだ距離が数十メートル。

窓の風景を見つつ、足を進めていると、緑間と高尾に出くわした。


「あれー? 黄瀬君じゃん」


「おはようございます。緑間中将、高尾先輩」

「ふん、おはようなのだよ」



緑間の黄瀬を見下ろす目はどこか苦々しさを感じる。

黄瀬は笑顔を浮かべ、その視線をやり過ごした。

高尾は青峰にべったりの自分に、進んで話し掛けてくる先輩で、緑間の部隊に所属する緑間の補佐役として緑間を支える人間である。
とてもエリート様には見えない人懐っこい人物だった。



「ご主人様は?」



「まだ熟睡中っス」



青峰と一緒にいないのが物珍しいらしい。

色素の薄い目をぱちぱちさせながら、黄瀬を見てきた。


「こちらに出向いて来ると言うことは、一人で呼ばれたのか?」



「そうっスよ」


幹部は個性的な人間の集団で、基本的に公の場以外は敬語を使うことをしていなかった。


おかげで緑間の位が高かろうと黄瀬はいつも砕けた話し方をしている。



「多分あの件だろうが。アホなお前のことだ、抜かるなよ。絶対ドジを踏むな」


「了解っス、せいぜい頑張ってくるっス。じゃあ失礼するスね」


ヒラヒラと長い手を振って、二人と別れ、黄瀬は赤司の元に向かった。


「真ちゃん、また眉間にシワよってる」


「あいつがいると風紀が乱れて仕方ないのだよ」


「首輪の上、つーか耳の下までキスマークだもんなぁ。青峰中将も独占欲強いから黄瀬を単独で行かせなさそーだね」


「赤司も最初からその積もりだろう」



「そうなの? てかさー、真ちゃん、黄瀬見るとなんでそんなに渋い顔すんの」


「ふん。もともとこんな顔なのだよ。さっさと行くぞ」



「へーへー。じゃ、敵地開拓いきましょーかね」



両腕を頭の後ろで組み、高尾は歩き出した。
緑間は黄瀬の向かった方を振り返った。長い廊下にもう黄瀬の姿はない。


また進行方向を向き、先を歩む高尾の華奢な後ろ姿を視界にいれ、眼鏡を押し上げ苦笑した。


(青峰と俺は同類。黄瀬を見る度に一割程残る良心の呵責に苛まれて心がざわつくのだよ)


高尾もまた赤司によって、記憶操作をし緑間の物にしたのだ。

それは数年前のことだ。
青峰が長期遠征で本部を留守にしているときに、敵軍の襲撃があり、新兵の高尾を見つけた。

青峰の様には、手荒にはしなかったが、自分の中に眠る嗜虐的な性癖を緑間は自覚したのであった。

(青峰といい、俺といい、それを容認しさぞかし面白いと嗤う赤司といい、全く、頭のイカレタ連中ばかりなのだよ)


「緑間ー? どうかした? 早くいこーぜ?」

動こうとしない緑間を心配したのか戻ってきた高尾。


じっと見下ろすと、少し顔を赤らめる、うぶな恋人。

ふっと含み笑いをし、唇を奪った。




高尾の左腰に手をやり、軍服の下の『焼き印』を触る。

高尾の左腰には焼き印という緑間の消えることのない所有印がはいっている。



「あぁ。その前にラッキーアイテムを街に買いに行くのだよ」

青峰の様に公にするのもまたいいのだろうが、俺は誰にも解らない所有印の方がいいのだよ。






END


緑高登場〜。変態ばっかりの赤司軍です。

青と緑は似た者同志(笑)にするのを迷ってアップがおくれました。
ただ似ていても、50歩100歩でも確実な違いがあって、ゲス峰様のゲスっぷりには誰も叶わないという感じです。

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