□焔の恋















この世界は人間と、竜神族、そして自然をつかさどる神がいて、それぞれの領地で平和に暮らしていた。


これは、竜神族のお話。


「久しぶりに火神っちのところ行きたいっスね!」

竜神族には、6人の統領がおり、17になると一族の長として前に立つことになっている。
永久という位長い時間生きる竜神の長の一族は、17を過ぎると成長が止まり、加齢を重ねても若々しくいる。

将来を約束された6人の竜神族の子供たちは、個性が強いが皆生まれた年齢も一緒で、幼馴染として仲良くしている。


涼太は今年8歳になる竜神の子供だった。
金色のかしらに、小さく生えた角。瞳は人間が献上してくるべっこうのように艶やかで、愛らしい顔立ちと純粋な性格故、村人や統領の息子たち、皆にかわいがられている。
山吹色の着物に、わらじを履いて、稲穂のたわわに実る田んぼを走る。
稲穂を刈り取る竜の民は涼太が一人で村の外に行こうとしているので、不思議に思い呼び止める。

「涼太様、今日は笠松殿はご一緒じゃないのかい?」

「うん、笠松は今日は忙しいみたいだから、一人で火神っちのところにいこうと思うんス」

「他の長の息子様たちとご一緒じゃなくてよろしいんですか?」

「今日行くのは皆には内緒にしておいて。夕方までには帰ってくるっス」

「そったら、これを持っていくといいですよ。火の神様とご一緒にお食べなさい」

豊かなこの村は自給自足で事足りる。6人の長たちが能力を使い、村やその周辺を豊かにしているため、竜人は飢えを知らない。
長の息子にも感謝をしつつ、村人たちは餅を涼太に渡してやる。

「朝ついた餅で作ったからきっとおいしいはずですよ。火神様は体も大きいから沢山包みましょうね」

「うわあ、嬉しいっス。じゃあ行ってくるっス」

「気を付けていってらっしゃい」


「うん」

涼太はご機嫌で駆け出す。そして、ひゅんひゅんと風を切って、竜の姿になって火神のところへ向かった。






****






火をつかさどる神、火神大我は、鈴のようにきれいな声を耳にした。


「火神っちー!!」

「うお!! あっぶね!」

ふわり、と風を纏い、人の姿に戻り空から降りてくる涼太を、胸で受け止めた火神は、ふうと息をつく。

「こら、涼太。あぶねーだろ?」

涼太を地面に下ろすと、こつりと涼太の頭を軽く叩いた。
火神は涼太よりも長く生きていて、もう成長を終え青年の姿でとどまっている。

大きな炎の柱を見守り、人々が困っているのを助けるのが火神の仕事だ。
自然をつかさどる神たちもまた村があるのだが、火神は村からでた大きな崖を割った谷間にある森で一人生活している。

火の神の長は孤独だという。たまに村には帰るものの、九尺ほどある火柱の火を絶やすことがないようにずっと番をしなければならないらしい。
それを初めて笠松から聞いたときに、涼太は火神がさびしくないように、頻繁に遊びに行きたいと、まだあったこともなかった火の神に思いをはせていた。

笠松にお願いし、涼太の父にも許可をとって、火神の元へ初めて向かったとき、こんなに綺麗な魂をもった神が幼馴染の身内以外存在するんだと、涼太は感動した。
最初は羨ましく喧嘩ごしだったが、年の離れた火神と意気投合して、頻繁に火神を訪ねる涼太だった。

幼馴染たちは5人とも涼太がここに来るのが嫌だという。
青い鱗の美しい青峰一族の大輝は「お前は村でずっと遊んでればいいんだ」と涼太が出かけるのを阻止したがる。

緋色の鱗のきらめく赤司一族の征十郎も、緑の鱗の輝く緑間一族の真太郎も、紫色の鱗が艶やかな紫原一族の敦も、水色の鱗が目を引く黒子一族のテツヤも、火神の元に出かける涼太にいい顔はしない。

竜神族子供特有の過度な独占欲を一心に受ける涼太はこっそり隙を狙って村を抜け出すのだった。




「今日も火柱、綺麗っスね! 流石火神っちっス。これ、お土産、二人で食べるっス」

火神の操る火柱の炎は七色に変化し、その灯はぱちり、ぱちりと跳ね、星のように瞬いて消えるのだ。

竹の葉でつつまれた餅を渡すと、火神は嬉しそうに笑む。火神は食べるのが大好きな神様なのだ。

「へえ、うまそうだな。餅か?」

「朝作ったらしいからまだ柔らかいっスよ」


串をさし、美しい火柱に餅を翳す。神秘的な水晶の音がし、火は黄色に変化し、そして、橙色に変化する。
火神は、火柱の後ろ、火神の暮らす家から人間から献上された醤油と砂糖をとってきた。混ぜた液を餅につける。
香ばしく甘い香りが辺りを包み、涼太は目を輝かせる。

「ほら、食え」

「うわあ、美味しそうっスね」

「ああ。人間がくれる調味料は当たりばかりだ」

「いいにおいっス」

「「頂きます!」」

パクリと口に含むと、アツアツで甘くしょっぱい絶妙な味と焼けた餅が喉を通過し、胃に移動する。

「美味しいっス!! こんなの初めてっスよー!!」

「おお、うめーな」

二人とも夢中で餅を食べつくした。大好きな火神が横にいて涼太の話に相槌を打ってくれる。
とても幸せな時間で、涼太は楽しくてしょうがない。

水をつかさどるのは竜神の長達の仕事だが、氷と雪をつかさどる自然の神がいて、火神はその神から氷をもらったという。
茶を入れ、その氷をいれて二人で飲む。ひんやりとしたお茶が涼太の心も体も潤してくれる。




「涼太、御前に贈り物がある」

「ん、氷のお土産っスか? 嬉しいっス」

「いや、これだ」

すっと差し出されたのは宝石のちりばめられた髪飾りだった。

木の実や花が模られた宝石は、火神の火柱のように七色に光る。



黄金の紙を一房とられ、涼太の美しい髪に収まる。
シャララ、藤の連なる花の部分が鳴る。



「綺麗っス」

「気に入ったか?」

「うん、うん!! 大事にするっス!」

「そっか、よかった」

「火神っち大好きっス!!」

涼太の満面の笑みに、火神も釣られて笑顔になる。

涼太に出会うまでは、強面と背の高さと肉のある体で恐れられていた火神は笑うこともなく、孤独に生きてきた。
小さな竜神族の子供が現れてから、火神の孤独は拭われる。


「お前が17になったら、嫁に来てほしい」

「ん、なんか言ったっスかー?!」

川の水面を鏡にすべく走って行った涼太には、火神の言葉は聞こえなかった。


「いや、なんでもねーよ」


「変な火神っちっスね!」


振り返って涼太は、子供だというのに、火神がはっとするほど美しく微笑んだ。

火神は涼太を追って、川へ行く。河原へ立つと涼太を抱き上げる。


ちゅ。柔らかい頬に口づけを落とした。
今はこれで精一杯だ。

こいつの強烈な幼馴染たちが時機に来るだろうから。


「涼太見つけたのだよ!!」


「火神てめー、なんで涼太を抱っこしてんだよ!」


ほら、やっぱりだ。火神は苦笑する。







竜神族の涼太は一体誰と恋に落ちるだろう――。
それは神も知らない、数年先の、未来の出来事だ。








END






2012.10.12


またまたパロッちゃったシャラ/////
今回は珍しく峰様じゃございませんのよ!火様がでてきちゃったのよ。
将来はだれが左側かはわかりませんが。
キセキも火も一人ひとり旦那様になったパロとかも面白そうだなぁ/////なんて!
でもこれにて完結ですー。




以下、設定


涼太…愛され子供。将来は超絶美人さんの竜神族の長の息子の一人
誰と結ばれるかは不明だが、この年は火神様がキセキより一歩リード中。

火神…火の神様
涼太がかわいくて仕方ない。嫁に欲しいと思っている

笠松…涼太のお世話役。

キセキ…竜神族の長の息子たち。涼太に夢中。それぞれ自分の嫁にしたいと思っている。


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