□living together
――お互い社会人なんで、多忙だと思うんス。だから、洗濯機は乾燥機付きのドラム型にしたいっス――。
斜め型ドラムの洗濯機を回す。乾燥まで全自動で行ってくれるので、とても楽だ。
黄瀬はこれを買う時、青峰に欲しいとねだった自分を今でも「グッジョブ」と指の動作付きで褒めてやりたくなる。
学生生活を終える間際に「同棲すっか」と青峰が黄瀬に告げた言葉が実現し、この共同生活に至った。
青峰は契約金の桁が前代未聞と評判になったし、黄瀬は黄瀬で、学生時代からやっていたモデルの仕事の貯金があったから、新築マンションで、少し背伸びした家賃の物件を賃貸契約した。
後々デカイとこに移ろうと青峰は考えているらしく、数年で引っ越す事を前提に契約していた。こだわりはSRC構造でしっかり防音なされているという点と、寝室が大きい点、対面式キッチンという点だ。
家族でも、ちょっとした習慣や価値観は違う。他人となると、判断基準や生活スタイルは更に異なってくる。
自分は少し完璧主義なところもあるし、いつそれで喧嘩になるかも解らなかったので、二人でルールを作った。
その1
連絡はきちんと行う
その2
家事はやれる人がやれる分だけをやる
その3
家事の負担をなるべく減らすようにすること(やりっぱなしはなしで)
その4
挨拶はきちんとする
その3の家事負担の軽減と効率化を願って、黄瀬は冒頭の提案を青峰にし、「そーすっか」と青峰も快諾した。
もう22時。青峰はスポーツ用品のブランドがスポンサーについていて、今度CM出演が決まった為、打ち合わせに行っている。
黄瀬は黄瀬で、早朝からの撮影が長引いてしまい先程、帰宅したところだった。
綺麗好きな黄瀬は帰宅して一番に風呂を溜めるスイッチを押した。
お互いすれ違う日もあるけど、洗濯物がカゴに放ってあったり、風呂が掃除してあるを見ると、青峰と共に生活していると、頬が緩むのである。
洗濯回してる間に、風呂に入りたいスすね。
フローリング部分をウェットタイプのクイックルで軽く拭いて回り、軽く家事をする。
洗面所に隣接している風呂を覗くとむわっと湯気が黄瀬の顔にかかった。『お湯が貯まりました』とお知らせが鳴る手前位になっている。
青峰が帰って来る前に、先に入ろう。
ブレスレットと時計を外し、手早く衣服を脱ぐ。黄瀬は裸になった。
ちゃぷ、ちゃぷん。
温かい。気持ちいい。
風呂好きな黄瀬にとって、至福の時間だ。
髪を洗い、トリートメントを施す。
目を閉じて、うっとりお湯のあたかさを感じていた。
「黄瀬? 風呂か?」
くもりガラスの向こうから、青峰の姿がうつり、ガチャと扉が開く。
「ん。おかえりなさい」
「おお。ただいま」
挨拶を終えると青峰は、洗面所からでていった。
いつまでも浸かっていると、手の指紋がふやけてくる。もう2時間半以上風呂の空間にいた。名残惜しいが、黄瀬は風呂から上がった。
バスローブを羽織り、頭を拭きながらリビングに向かう。
大きなテレビと、オーダーメードのソファ。テーブルは青峰の両親がプレゼントしてくれたもので、黄瀬の両親から贈られた観葉植物は窓際に置いた。照明も凝っていてインテリアデザイナーご用達の店のものだ。
ソファの真ん中で青峰がビールを飲んでテレビを見ている。黄瀬用にミネラルウォーターも用意されていた。
深夜枠の放送時間に入ったので、たいして面白い内容でもないようだ。
「面白いのやってるっスか?」
「んー? さぁ。適当につけてただけだから」
「ふぅん……。ところで、今日どうだったスか打ち合わせ」
「細けぇ決まり事とかとにかく説明が長すぎて、寝そうだった。あと、お前はいつもこんなに面倒くせーのをこなしてるのかって考えてた」
「慣れると打ち合わせもそれなりに楽しいっスよ?」
隣に座り、ぴったりとくっつく。
すかさず腰に手を回される。
何をしゃべるわけでもなく、二人でテレビを眺めた。
ピーッピーッピーッ
洗濯機が止まったサインを寄越してきた。乾燥までのコースだからあとは取り出すだけだ。
畳もうかな。
髪も乾かさないとだし。
密着していた位置から立ち上がろうとする。
グッと腰に回された手が力を増した。
「ん? 青峰?」
「いや、俺が洗濯物畳んどくからお前は座ってろよ」
かちあう目と目。
「いーっスよ。俺がやるっス」と目で主張すると、すっと指で目の下を撫でられる。さすりさすりと指で摩られ、その優しい手つきにドキリとした。
「クマひどいぜ? 最近、早朝ロケ撮影ばっかだったからか?」
「そっスかね。いつもより長く風呂入ったから、血行はよくなってる予定なんスけど、消えてない?」と見上げる。
クマは血行不良と色素沈着の二種類あって、黄瀬のは前者であったから、だいたいは血な巡りをよくすれば消えてくれるものだけど。
チュっと素早く唇を落とされ、頭に手を置かれ、肩口に引き寄せられた。
頭を何度も撫でられ、ぽんぽんと手を置かれる。
「疲れてるだろ? 家事はやれるほうがやれって決まりだ。ベッドの中じゃ女役はお前だけど、家事掃除までお前に全部押し付けるほど、傲慢じゃねーよ」
「ぅん。わかってるっス」
青峰が自分に対して優しいのは、昔からだったけど、同棲し始めててからそれが序の口だと知った。
たまにこっちがもういいっスと根を上げるほどに甘やかされる時があるのだ。
結局二人で洗濯は畳んだ。
青峰は烏の行水だから、黄瀬が髪を乾かし、肌のお手入れを終わらせる頃には風呂から出ている。
バスローブから寝巻にきがえ、歯磨きまで終えて、寝室に向かう。ベットに横になり、明日のスケジュールをスマホで確認した。
明日は昼から、場所は目黒っスね。12時半にマネージャーが迎えくるから、午前中、久しぶりに走ろうかな。
天気を検索していると、寝室の扉があいて、上半身裸の青峰が入ってくる。
冬以外はスウェットの下だけをはいて寝る青峰。
きちんと8つに割れている腹と分厚い胸板。
今回はスポーツ会社のCMらしいから、裸は見せなさそうだけど、
アスリートがよく採用される製薬会社の湿布薬のCMの仕事が舞い込んできたら、この裸が全国区になる。
……湿布薬のCMは絶対阻止っス。
裸のままベットに上がり込んで、黄瀬を抱きしめる恋人の胸に頭を埋めて、黄瀬は「お休み」と目を閉じた。
「おお、お休み」
額に軽く唇を落とされ、返される言葉が嬉しい。
きっと明日もいい日になる。そう思った。
End
拍手初コメントを下さったレナ様へお送りします。
お互い仕事をして忙しいと、家事掃除って、かなり大変ですよね。生活するって大変。
ドラム式乾燥機付き洗濯機ーほしいなぁ(笑)
青黄はいつまでも新婚みたいで、歳を重ねても素晴らしいカップルに間違いないと考えております。
2012.09.08