オーマイダーティー!!



アイツ、嘘だけは本当に得意なんだ

でも私は知ってる、アイツは本心を言うのを馬鹿みたいに嫌がるってこと

「可笑しいよね、いつだって本当の話が1番嘘臭いんだよ」アイツの語り始めはいつもこうだ−




「カノっ!!」
「っ!?…びっくりしたー、なんだキオか…あ、そうだ、キオも一緒にどう?」
「何がだ?」
「夜の散歩!」

皆が寝静まった後、二人で静かにアジトの扉を開けた。
外は昼間よりは幾分かマシになった熱気と、さらさらと心地好い風に包まれていた。
電灯が地面に光を落とし、乱反射する。
私は器用にガードレールに乗ると、くるくると踊るように回りながらカノの後を追う。

「ねえ」
「んー?」
「ちょっと話そうか」

カノの呼びかけに答えるように私はガードレールからふわりと降り立つ、浮遊感が堪らなく心地好い。

「それが目的で私を呼んだんじゃなくて?」
「んー、まあ、それもあるんだけど…ほら、僕って自傷症性だから」
「…どういう意味で?」
「話しながら自虐しちゃう傾向がある、って意味」
「ふーん、じゃあ私もだよ!自傷症性」
「ははっ、キオの場合は墓穴掘って落ち込んじゃうだけじゃないの?」
「失礼な−」
「…たまには愚痴っちゃってもいいかな?」

私に聞こえないようにか、小声で言ったカノの言葉を拾う。
顔は笑ってるのに、珍しく声がしおらしかった。

「いいんじゃなくて?お馬鹿な自傷症性さんなら一人で考えるより、他人に言っちゃった方が!それで私の気分が悪くなるとか考えてんならそんな考え捨てちゃって、何年カノと一緒にいると思ってんの?」

びくっ、と一瞬肩を震わせたカノが驚いたようにこっちを見てくる。
顔に「聞こえてたのかお前」って書いてあるみたいにわかりやすくて思わず笑いそうになった。

「…なーんか上手く収まんなくてさ、…あ、じゃあさ、“ネタ話”だって体で一つどう?」
「よし、乗った」

カノが片手をポケットに突っ込んだまま身振り手振りで話しはじめるのを、頭の上で手を組んで聞く。大きな道なのに人通りは少なくて、その雰囲気がまた私好みだ。

「…じゃあ、ちょっと喋ろうかな、僕の非凡でいて妙なとこ」
「はあ、えっと、はい…」
「平凡を装った僕がさ、ずっと悩んでること、ってとこかな」
「それって−」
「うん、この力のこと」

たまにこうしてカノの愚痴に付き合ってきた私だが、ここまでカノから具体的に自身のことを話そうとしてくれてるのは初めてで、少しの期待と、言うことによってカノが傷付かないかという不安が私を渦巻く。

「正確には覚えてないんだけどさ、もう10年は経ちそうな…そんなある日、突然“怪物”の声が聞こえて」

「…怪物?」
「うん、黒くて、綺麗で、紅い目の“怪物”、それをみてたら心臓を飲み込まれたみたいな怖さに襲われてさ、怖くて動けずにいたら“怪物”が僕にこう言ったんだ

『嘘をつき続けろ』

ってさ」

目を閉じたり、手を使ったりしながら淡々と言葉を吐いていくカノ、最後にこっちを見て満面の笑みを見せたかと思うと、突然目を伏せた。

「それ以来かな、僕が嘘つきになったのは…騙せない人や物もなくなって、結局、僕自身が“怪物”に成り果てちゃってさ−キオ?」

ぽろり、と私の目から涙が一筋落ちる。
最近嫌に涙脆くて敵わない…そんな私を泣かせるのにカノの話は十分だった。

「…ああ、ごめんね」
「だっ…て…カノ…」

パタパタと私に走り寄って来たカノの親指が私の涙を拭い、その手がそのまま頭に乗せられる。
ふとカノの顔を見るとその笑顔はとてもはかなげで今にも崩れてしまいそうだった。

「泣かないで!全部法螺話なんだからさ?」





「オーマイダーティー!、意味分かる?」
「おー、まい、だーてぃー…?」

それから「場所を移そうか」なんて言うカノに連れられて廃工場の屋上に忍び込み、フェンスにもたれ掛かる。
満点の星空と目に痛いネオンの市街を見ながら、私は聞いたことのない英語に首を傾げた。

「ああなんて私の卑劣さ!醜態!…正に僕だよ、そう言って誤魔化すんだ、自分のことを…だってさ、なんてったってこの本心は…不気味じゃない?」
「!!」

カノは自重気味に笑った。
その笑顔の中に私はもう一人、本心を知られることに怯え、顔を歪ませるカノを垣間見た。

「自分を偽って現実からはそっぽ向いて…人には嘘を重ねて…そして僕は今日もまたそれを嘲笑うんだ」
「…カノ…」
「ちょっとキオには重すぎたかな?ごめんね」

また私の頭を軽く撫でると、「帰ろっか」なんて言って伸びをするカノ、私はそわそわした気持ちが止まらない。もっと聞きたい…折角カノから話してくれたんだから、もっと、カノの本心<こと>を知りたい…!!

「カノ」
「何?「疲れて歩けないからお兄ちゃんおんぶしてぇ〜」とか?」
「ばか、違う、してくれよ」
「…何を?」
「カノさえよければ…話の続き」

カノは一瞬、その猫の様な鋭い目をいっぱいまで丸くした後、いつものニヤニヤとした笑いを浮かべ、さほど広くない屋上内を歩き回り出した。



びっくりした、まさかキオがもっと話してくれなんていうと思ってなかったからね。

「いいよ、ただの法螺話でよければ」
「うん」

僕は意味なく屋上の中を踊るように回りながら続きを話し出す。

「それから、“夜が嫌いなクールで頼れる弱虫な少女”とか“嘘が嫌いな働き者の動物大好き青少年”なんかに出会ってさ」
「−え、あ、ちょっ」
「どうしたの?」
「え…今…そこに……」

−キドとセトがいたような気がして−
多分言葉の続きはこれだろう、キオが見たのは恐らく僕が二人といて生み出した僕の違う姿、僕の能力の一つ、ああ、また知らないうちに暴走してたのか。

「…続けよう、で、二人といるうちに凄くちゃちい理想がいつのまにか頭にインプットされててさ、次に大事なことに気づいたのは、また心臓を飲み込まれるような…今度はそれくらいの衝撃って意味で、そんな感覚に襲われた時だった。」
「大事な、こと…?」
「うん、凄く大切な」

フェンスに手をかけてキオの後ろに立つと、目を伏せたキオがこちらを振り返った。

「たとえ、その理想が単純に叶ったとして、この世は一人ぼっちじゃ生きていけないんだ、ってね」
「ねえ、カノ」
「何?」
「…それは嘘?」
「いや、本心だよ」

そう言って顔を上げてキオを見ると、キオが僕を見据えていて、何故かその姿が自分自身と重なって…自分に責められているような感覚が全身を駆け巡る。
この子には嘘をつけない、初めて僕が思った瞬間だった。

「…キオ、僕はね、やっぱりもっと聞いて欲しいんだ、上辺だけの僕だけじゃなくて僕の心を、我が儘も、この嘘も、そして本物の“僕”の声も…言うのが苦手な癖に聞いてもらえなくて“寂しいよ”なんて言ってる…そんなことしてても僕は変わらないのにね…今も、昔も、ずっと心は弱虫なままだから……だからニヤけそうな程常々呆れてるんだ、そんな“僕”に」

口が勝手に紡ぎだした僕の本心、勢いは増し、僕の中の何かが全部吐いてしまえと急かすように訴える。

「カノ…っ」
「ねえ、キオ、聞かせてよ…こんな呆れちゃうような僕なんてもう救えない?」

ねえ−そうなんでしょ?

「カノの…」
「ん?」
「カノの馬鹿ぁぁぁああっ!!」
「え、ちょっ、キオ−−っうわ」

そういいながら涙目でキオが突進してくるものだからフェンスに背中を打ち付けてそのままズルズルとしゃがみ込む羽目になった。

「何でもっと早くそれを言ってくれないの!?やっぱり…私じゃ信用出来なかった…!?私なら…カノの声も、その嘘も、我が儘だって…何だって聞くのに、カノが嘘つきだろうと何だろうと問題なんてない!私がカノを救うから!!だから…そんなこと言わないでよ…」
僕の膝に跨がって泣きじゃくりながらガクガクと肩を揺らしてくるキオと、幼い自分がまた重なる。

「カ…ノ…?」

つうっ、と、目から何かがこぼれ落ちる。
それは留まることを知らず、後から後からぽろぽろと流れていく。
ああそうか、僕は−あの時からずっと、こうやって誰かに言ってもらえるのを待ってたんだ。

「カノ…?どうしたんだ…?」
「…何でも、ないよ…キオ」
「何だ…?」
「…ありがとう」

ゆっくりとキオを抱きしめると、キオは恥ずかしそうにトントンと僕の胸を叩いた。

「…じゃあ、帰ろっか」
「うん!」





「今日はちょっと喋り過ぎちゃったかな、まあただの『法螺話』だからさ−」
「違うっしょ?」
「え…?」

繋いだ手からカノの体温を感じつつ口を挟む、夜は更に深さをましていて、その闇の深さと月の明るさの明暗が堪らなく愛おしく感じた。

「カノから初めて話してくれた『カノ自身の話』だろ?」
「…そう、だね」

にこり笑ってカノのほうを向くと、カノは困ったように苦笑を漏らした。

「…それじゃあ今日はこの話はこの辺で」
「うん」
「僕とキオだけの秘密、だからね」
「うん!」
「守れたら…次はもっと不思議な話するよを」
「…約束、だからな!」
「もちろん!」

カノの顔はすっかりいつものニヤけた笑いに変わっていた。

−それじゃあ今日はこの辺で−



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ただただ原曲だけエンドレスに流しながら公開初日に書き上げた初のカノ夢。
勢い小説。

この曲の醍醐味はカノが語っているというところにあると思っているで、うちのカゲプロ主キオのようにずっと一緒、というよりかは初対面、もしくは何らかの形でカノと何回か接触しており(私的には話を聞きにくるとかが美味しい)、何と無くカノさんが語るのを聞く主みたいなののほうがより正確な解釈ができたかな、と思ってます。




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