I know…



「大佐、床に書類を落とさないで下さいよ」
「貴女が拾ってくれるのだから、いいじゃないですか」
屁理屈未満の言い訳をしながら、読んだ傍から資料を床にばらまいてゆく上司の後を追って、順に積み上げなおしてゆく。
「この前はお菓子の袋が点在していましたし」
「それも貴女が片づけてくれたのでしょう?」
にこにこと愛想の良い笑顔を振りまく大佐を見ていると、何故か怒る気が失せてゆく。
「これはまた厄介な案件を持ち込んできましたね」
「そんなに酷いですかね」
「酷い酷くない以前に、ここに持ち込まれる時点で簡単な問題なわけがないですよォ」
貴女、この部署になれて来たんですかね。と私を見てニヤつく大佐の腹に一発決めて、拾っていった書類をもう一度読み返してゆく。私がこの部署…総務部に飛ばされたのは、1年程前。以前より親交のあった大佐がじきじきに私を名指しで秘書官としてここに招き入れたのだ。割と迷惑な話である。
総務部のやることと言えば、雑用、防災防火指導、安全管理、などなど、他の部署が「うち、出来ないんで」とか言って漏れ出た仕事を淡々と拾っていく地味な部署である。そのほかにも、うちの総務部には面倒臭い仕事が回ってくる。
「大体、謀反が一年に何件も起こるような職場で、よく世界の均衡を保つ仕事が出来ますよね」
「他言厳禁の総務部にしか知られていない事ですしねェ、最も、内部の職員は気付いているようですけど」
いや、隠しておこうと思う方が無理な話ですよ。という突っ込みを心中に押し込んで、ため息をつく。
うちの総務部の面倒臭い仕事の代表例が、裏切り行為、謀反行為の取り締まり及び鎮圧である。上層部に対して、あの手この手―主に銃器、鈍器、火器―で盾突く連中を、命がけで静かにさせ、上層部を守るという仕事を、好んでやろうなんて言い出す命知らずはいないだろう。いたとしたらそれは自殺志願者である。
「動きが見えたのは2日前、火薬が見つかったのは昨日…これは決行は今日で決まりですかね、大佐」
「そうですねェ…急いで準備に取り掛かりましょうか。中尉、弾丸や銃器は揃っていますか?」
「前の裏切り始末に使った時のままだと。ここ最近平和でしたし」
「それもそうでしたね」
からからと笑いながら窓の外を見る大佐につられて、私も外を見る。わが社によって気温から天気まで何もかもを制御された外の世界は、偽りの青空が広がっていた。
「中尉」
徐に、大佐が私を呼んだ。何か、難しいことを考え込んでいるような横顔を、じっと見つめる。
「何ですか?」
「好きですよ」
唐突に投げられた愛を示す言葉に、私はうろたえも、照れもせずに返す。
「まだ仕事中ですけど」
「二人だけなんだから、いいじゃないですか」
頭に載せられた大佐の手が暖かい。少しだけ、なんだか気恥ずかしくなって下を向くと、大佐の手が後頭部を押した。予期せぬ出来事に、思わず前につんのめる。
「な、っなんなんですかさっきから!」
「…ミコト」
大佐が、私の本名を呼んだ。その声は震えていて、とてもいつもの大佐の尊大な態度からは想像できないもので、まじまじと大佐を見る。大佐は俯いていて、私からは顔が見えなくなっていた。
「こんな部署に巻き込んでしまって、申し訳ないと、思っています」
淡々と語られる内容は今まで聞いたことないもので、大佐自身も言葉を慎重に選んでいるのが分かる。
「…でも、ミコトと少しでも一緒にいたかったから。こんな仕事してたら、いつ自分がポックリ逝ってしまうか、わからないじゃないですか?」
それでも気丈に、冗談めかして話を振ってくる大尉は、真正のバカで、強がりだと思う。
「何より、私がミコトの傍で働きたかったから。私の我が儘で、こんなところで仕事させてしまって、申し訳ないと―」
「ばーか」
「なっ!」
ぎゅー、と大佐の頬を引っ張り、無理矢理こちらを向かせる。黄色く鋭いはずの目は垂れさがり、少し赤くなっていた。今まで見たこともないくらいに弱った大佐のことを、少しだけ、愛おしく思う。
「そんなこと、顔見て言ってくれなきゃなんの意味もないですよ」
でしょ?と頬を両手で包むと、う、と大佐が呻いた。
「それに、この部署には私が好きで来たんです。私だって、大佐と仕事したかったんです。危険なことだって百も承知で来ていますよ。私が勝手に、好きだからしているんです」
大佐が好きだから。普段なら絶対に言わないようなことを口にする。私はこの人のことが本気で好きなんだなぁ。と、不細工な泣き顔を曝す大佐を見ながら、そっと心で想った。
「ミコト…」
「さ、早く準備してさっさと鎮圧して、美味しいものでも食べに行きましょうよ。もちろん大佐の奢りで」
「私ですか!?」
「気持ち悪い泣き顔を見せてきたお詫びってことで」
「酷い!」
こころにも思っていないことをすらすらと口に出来る私も、相当なバカで、強がりだ。外出用のコートを羽織りながら自嘲気味に笑う。
「中尉」
「今度はなんですかぁ」
面倒臭い、という雰囲気を顔全体に張り付け、大佐を振り返ると、いつものにやけた笑いではなく、優しく、愛おしさを含んだ目で私を見る大佐が立っていた。
「好きですよ」
先程と同じセリフを、今度は目を見て言ってくる大佐に、
「私もですよ」
柄にもなく満面の笑みを浮かべて、そっと告げた。


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一応BB夢ハザマもどき。
私用で書かせていただいたものです。
階級とか変えてますが、ミコトはハザマ夢主です。
結構お気に入り。



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