「んぁ?…だざい?」
それは暖かい昼下がりのことだった。
事務所で昼寝をしていると、太宰から電子書面(メール)が入った。ソファの上でころんと寝返りを打ち、手探りで携帯を探す。
「これから国木田君の奢りでお茶…そういやお腹すいたな」
時計を見ると午後一時を過ぎていた。随分と長い間、寝てしまっていたらしい。
直ぐに行く、とだけ返し、肘掛けに放り出してあった、外出用の大きくて長い外套を引っ掴んだ。
「あ、星くん。起きたンだ」
「んー…おはよー潤ちゃん」
「うん、おはよう…ッて時間でもないンだけどね」
伸びをしながら起き上がると、潤ちゃん−谷崎 潤一郎が休憩しているところだった。場違いな挨拶をしながら近寄ると、苦笑しながら頭を軽く撫でられる。
…あれ?何か物足りない…
「そーだ!ナオミさん!!」
「ああ、星くんが寝てる間に買い物にね、もう帰ッてくる頃だと思−」
「兄様あぁぁっ!ナオミ、淋しかったですわ〜っ!!」
「いでっ!!」
勢いよく開かれたドアから、鉄砲の玉のようにナオミさんが潤ちゃんに飛びついた。
「いやー、いつ見ても二人は仲良しさんだねぇ、仲良きことは良いことなり」
…でも、ナオミさんの愛は、潤ちゃんにはちょっとばかり重いかなー…なんて
「よいしょ、と」
「あら、お出かけ?」
「うん、太宰が一緒にご飯食べよって、どっぽの奢り!」
にっ、と笑って鞄を肩に下げ、帽子をを被る。潤ちゃんが事務所の扉を開けてくれた。
「道中、気をつけなよー」
「はーい、行って参ります」
「行ってらっしゃいな」
谷崎兄妹に見送られ、裏口から外へ出る。帽子を目深に被りなおし、茶屋への道を急いだ。
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