星に願うな


「そっかー、もうすぐ七夕なんだねえ」
 と、隣を歩くタツキが言った。
 帰り道、というには遠回りして立ち寄った商店街。ところどころに短冊やいろんな飾りのぶら下がった笹が立てられていた。そのそばには何も書かれていない短冊が置かれた台もある。どうぞご自由にお書きくださいということらしい。
「みんないろいろ書いてるなあ」
「何これ、わけ分かんない」
 私たちは笹のところで立ち止まって、ぶら下げられた短冊をあれこれと眺めた。そこにはいろんな願いごとが書かれている。勉強のこと健康のこと恋の悩みに世界平和、真面目そうなものから明らかにふざけているもの、さらには意味不明なものや何が書かれているのかまるで読めないようなものまである。
「そうだアカネちゃん、僕たちも何かお願いごと書いてこうよ」
「え?」
 言われてタツキの方を見るとタツキは早速といった様子で短冊とペンを手に取っている。
「ほら、アカネちゃんも」
 はい、と私にも短冊とペンを差し出してきた。うーん。願いごとねえ。
「タツキは何書くの」
「そりゃあもちろん『アカネちゃんとずーっと一緒にいられますように』」
 タツキはさらさらとペンを走らせた。意外と綺麗というか大人っぽい字だな、と思って、いや実際大人なんだよな、と思い直した。そうだ、普段はその言動のせいで忘れがちだけれども、本当はタツキは私なんかよりずっと年上で大人なんだった。
「よーし、せっかくだからてっぺんにぶら下げちゃうぞー」
 私は短冊を結び付けるタツキを見上げた。私にはとても届かないような高いところにも、簡単に手が届いている。なんだか面白くなかった。私なんかよりよっぽどバカそうにしてるくせに。
「あれ、アカネちゃんどうしたの?」
 短冊を結び付けたタツキがこちらを見て不思議そうな顔をした。そういえば私の手はさっきからずっとペンを構えて止まったままだ。
「書かないの?お願いごと」
 私は白紙のままの短冊を見下ろした。私の願いごとはなんだろう。改めてあれこれ思いめぐらしているうちにふと、なんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。
「……シュークリーム食べたい」
「え?」
 私は結局何も書かないまま短冊とペンを元の場所に戻した。
「あとアップルパイも。あのこないだ新しくできたお店のやつが食べたい」
 そしてタツキを見上げた。
「そんくらい、わざわざ星に願わなくてもタツキが叶えてくれるでしょう?」
 私の言葉にタツキは一瞬驚いたようだった。けれどもすぐに満面の笑顔になってうなずいた。
「もちろん」
 ほら、思ったとおりだった。私の願いごとなんて、きっとタツキが叶えてくれる。
(ずーっと一緒にいられますように)
 タツキの願いごとだってそうだ。
 わざわざ星に願わなくても、直接私に願えばいいのだ。


[0]メインに戻る

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -