CROSS DELUSION
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初恋。
初恋。(カナタマ←カゲ)




例えどんな痛い目に遭っても、タマキを好きだって気持ちが大切過ぎて、消す事なんて出来なくて。

だって、仕方ないじゃないか。

タマキは俺の初恋なんだ。




「で、どこに遊びに行く?」


ミーティングルーム。
ワゴン車での作業にひと区切りを付けてぐだぐだとソファーに寝転がって居ると、タマキが見下ろしてきて思わずガバリと起き上がった。


アマネ達ナイツオブラウンドとの戦いに決着がつき、ボロボロになったJ部隊がその機能を漸く取り戻し始めたのはつい最近だ。最後まで入院していたタマキ、カナエが退院し少しずつ、部隊は元の姿を取り戻しつつあるそんな中。


「えっ…と?」
「お前が言ったんだろ?ちょっと遅くなったけど、約束は約束だからな」


約束、と言われて働かないでいたカゲミツの意識が漸く意味を理解する。確かに最後の戦いに向かうエレベーターの中でタマキにそう言ったのは自分。あの時は体よくフられてしまったものだと思っていたのだけれど、タマキは忘れずに居てくれたようで。


「まじ、で…?」
「どっか行きたいところあるなら遠慮無く言えよ」

「そぉそ。一応お前が言い出しっぺだしな」
「カゲミツ君の行きたい所でいいよ」


思ってもみなかったタマキの申し出に頭の中いろんなシチュエーションを巡らせていると不意にタマキと自分の背後からそれぞれ第三者の声がして、ばっと視線をやれば自分の後ろにはトキオ。タマキの背ろにはカナエ。


そうだった。


あの場にはコイツらも居たんだった。


「だーっ、だからお前ら入ってくるなよ!俺はタマキと…っ」
「えーなにぃ?タマキちゃんお出掛けするのぉ?」
「カナエが行くなら俺も行くっ」



事態を察したアラタとレイも加わり収拾のつかない状態となり、結局。



「ねぇ、タマキちゃん僕あれ乗りたいなー」
「こらアラタ、前見て歩けよ」


結局は男6人の大所帯、何故か休日の遊園地というデートだったならば最高にいいセッティングなのにと頭の中何度もボヤいた。


「そう暗い顔するなよカゲミツー」
「そうそう」
「お前らがそれを言うか!」


あからさまに肩を落としている自分とは裏腹に飄々と歩くトキオとカナエを一睨みするとアラタ達の世話でヤキモキしているタマキに視線を戻す。


「っも、見てないで少しは手伝えよ」

テンションの上がってはしゃぐアラタとレイに手を焼いたのか助けを求めるタマキにカナエが笑顔で自分を追い越していく。並ぶ二人の後ろ姿はそれだけでも幸せそうに映ってしまうのは自分だけなのか。


「カゲミツも手伝ってやれば?」
「…俺よりトキオのがよっぽど上手く彼奴等転がせんじゃねぇの?」


ポンと肩に触れたトキオに思いの外沈んだ声が出ていた。
そう、タマキはカナエを選んだ。
初恋の相手とその恋敵の後ろ姿なんて胸が痛むだけだ。そうそう平然となんてしていられない。


「あっはっは。まぁ確かにそうだけどさ。いまはこっちの大きいお兄さんの方が駄目みたいだから?」
「俺はガキかよ」


自分を心配しているトキオにこんな反論をしてしまう自分は最早その時点でまだまだ子供だという事なのかもしれないけれど。
目の前ではアラタとレイを宥めるタマキとカナエのなんだかほのぼのとした姿。満面の笑みは酷く久しぶりにも思えて胸の奥が僅かにチクリと痛む。けれど


その顔こそが、自分が一番好きな顔。

それを引き出せるのが自分でなかったのが悔しいのだ。


「…おら、お前らなぁー」


賑やかな4人の後を追い一歩、歩き出す。






穏やかなオレンジ色が空を染める頃には散々とはしゃいだアラタとレイも大分大人しくなっていてそろそろ帰ろうかといった空気が流れ始める。


「なぁ、最後あれ乗らないか」


不意にトキオが指さしたのは遊園地のなかでも象徴的な姿を見せつけているそれはその巨大さとは裏腹にとても穏やかな動作で回転していて。


「いいんじゃないか?最後の締めに」
「さんせー」

終始タマキにべったりだったアラタとカナエに擦り寄っていたレイに流石に疲労した様子のカゲミツを見てのトキオの提案はすんなりと受け入れられた。


「僕タマキちゃんと乗るー」
「勿論俺はカナエと乗るからな!」
「はいはーい。いいこにして順番に乗れよ。ほら、アラタ、レイ」

目の前に降りてきたゴンドラが開くと殆ど有無を言わさずに小柄な二人を押し込んでしまう。不服そうにこちらを見下ろしていまだ文句を言っていそうな二人を乗せたゴンドラが上がっていき次いで降りてきたゴンドラに乗り込もうとするタマキの背中にあぁ、最後くらい二人ゆっくりさせてやるのかなとぼんやりしていたら。


「ほら、カゲミツ。早く乗れよ」


呼ばれるだろうと予測していたのとは違う、自分の名前。え、と顔を上げるとぽんと背中が押されて、閉じられるドアの向こうにトキオとカナエの穏やかな笑みがあった。


「え…」
「揺れるだろ、早く座れよ」


当たり前のように腰を落ち着けるタマキに促され、不思議やら嬉しいやらの複雑な気持ちを浮かべたまま向かいに座る。夕暮れのオレンジ色の日差しがタマキの柔らかな髪やら肌を照らしていて、やたら緊張してしまう。


「タマキ…」
「やっとゆっくり話せるな」


独り取り残されているとふと笑みを返されて胸は一方的に高鳴ってしまう。穏やかに見送っていたカナエとトキオ。あぁ、3人共敢えてこうしたなと改めてタマキに向き合う。


「…カナエと一緒じゃなくて良かったのか?」
「言っただろ?話がしたかった、て」


なんだろう?
改めてフられてしまうのは流石に堪えるんだけどなぁとなんとなく予感しながら見ればタマキの顔は穏やかながらも真摯なもので。


「入院してたりなんだりでまだちゃんと、向き合えてなかっただろ?カゲミツの告白にさ…」
「タマキ、それは…」


もう、答えはわかっているから。
そう言って言葉を遮ろうとしたのをその黒い瞳が止めた。それがタマキの意志なのだと、カゲミツは黙って耳を傾ける事にした。


「…カゲミツが好きだって言ってくれたの…嬉しかった。でも…正直戸惑いもした。だって俺は、カゲミツの気持ちを知らなかったとはいえ…裏切り続けていたから」
「タマキ、それは」


カナエに撃たれた傷から目覚めた自分は世界に取り残されたように状況が掴めていなくて。何故、タマキが居ないのか。何故、自分を撃ったカナエと逃亡なんて道を選んだのか。頭の中は何故の二文字ばかりが埋め尽くしていた。だから撃たれ、海に落ちたと聞いて蒼白したのだ。例えどんな形であれ、ここに戻って来て欲しいと願った。


「タマキがさ、カナエの事思い出した時…ショックだったよ。けどお前は敵になってしまっても諦めなかった。悔しかったけど…適わない、と思ったよ。決定的だったのは海に落ちたお前達が助けられた時…」


船着場でその船が戻ってきた時の光景は未だに覚えている。
ずぶ濡れの二人は傷だらけで、自力で動く事も叶わないタマキの腕はそれでもカナエに伸ばされていた。カゲミツは身動きも取れず救急車に乗せられる二人を見送る事しか出来なかった。


「後悔だけはしないでくれよ、タマキ」


柔らかな夕暮れは大分傾き、宵の口の気配。その僅かな明かりに包まれたタマキは喩えよう無い表情をしていたけれど、うん、まずまず上手く言えた気がした。


「カゲミツ、…お前」
「でもさ、もし万が一カナエとケンカでもしたら来てくれよ。俺はタマキの味方だから」


複雑さを残していたタマキの顔が、自分の一番大好きな笑顔に変わった。
あぁ、それだけでもう充分。


ゴンドラを降りると口喧嘩も疲れたのか少し落ち着いたらしきアラタとレイが待っていた。降りてきた組み合わせに意外そうな顔をしていたがその後直ぐに降りてきたトキオにさぁ帰るかー、と促され出口に歩き出した。静かになってもそれぞれタマキとカナエの横というポジショニングは変わらないらしい。その後ろをゆっくり歩く。けれど気持ちは晴れていた。


「整理は付いたのか」
「なんだよ整理って」


きっと表情にも出ていたのだろう。自分を見るトキオの顔は満足そうでなんだか釈だけど今日だけは見逃しておこう。そう思った時


「まぁ、初恋は実らないっていうし。気にするなよーカゲミツ。長い人生、いろいろある」
「…爺臭さ」


そんな事言われなくても分かってる。

けれど今は。

あの笑顔を見ていたい。
もう少し。







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body temperature poison 神無様の作品。
(カナタマ←カゲ)のカゲミツの一途な感じがもうなんともツボでして。カゲミツよいです!カッコイイです。神無素敵なカゲミツをありがとう。
3月で閉鎖に伴い、全作品フリーになさっていたのですが、速攻で「欲しいです」と言ってしまいました。はい。
そして、頂きました。ありがとうございます。
(こちらに公開させていただくのは4月以降にしようと思っていたのでUPしたのは遅くなりましたが)
閉鎖されても、忘れません。
お疲れ様でした。ありがとう。
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