CROSS DELUSION
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だって君が好きだから
※DC2カゲルートグドエン後



***



 付き合うって一体何なんだろう。手を繋いで、キスをして、セックスをする一連の過程を言うのだろうか。

 恋人って一体何なんだろう。まあ、付き合ってる相手のことだよな。そういうことをする唯一の人。相手にとって特別な存在であることはわかるし、友達とは別物だということもわかるんだけど。

 でもさ、相手の愛情を独占することまで許されたわけではない気がするんだ。愛情にだって種類があるし?

 うん。俺だってわかってるんだ。

 重々わかってる。

 ……でもさあ、やっぱ面白くねーよな。

 愛する恋人が、他の奴等に愛想振り撒いてたら。

「タマキちゃーん!」

 最近のタマキを見て思う。彼はほとほと格好良い。

「タマキ、でかした!」

 最近のタマキを見て思う。彼はほんとうに可愛い。

 そんな俺が24時間365日考えるのは、恋人である彼のことばかりだ。

 と言っても任務中は持ち場が違うのでほとんど会話が出来ないし、オフも被ることが少ないので一人で妄想に更けることが多い。(そこ気持ち悪いとか言うな。)

 タマキと顔を合わせる貴重なミーティングの時間もこの様だ。彼は絶対と言っていいほど誰かに絡まれていて、俺の相手なんかしちゃくれない。アラタから言わせれば、カゲミツくんは家でいちゃいちゃできるんだからたまにはいいでしょ!だそうだ。はあ?言ってろ。確かに俺はタマキと同棲中の身であるが、悲しいかな俺は所謂ワゴン組。機材の調整やら(特に最近ガタがきた)で午前様も日常だ。急いで切り上げて愛の巣に帰ってみれば、タマキはとっくに夢の中。すうすうと愛らしい寝顔で眠るタマキを叩き起こすほど俺は鬼じゃないし、がっついてもいない。とすれば、顔を合わせるのは朝の食卓のみ。しかーし、低血圧の俺は朝が頗る弱いのだ。すなわちタマキに起こされ寝ぼけ眼で時計を見れば出勤5分前がお決まりなのである。ああ!わかるか、アラタ?つまりはお前の方がタマキといちゃいちゃしてんだよこのガキが!

 ……とまぁそんな感じに俺の胸中は荒れ放題なのであるが、しかし、そんなことは誰にも言えるはずがない。俺にだって、一応のプライドがある。恋人としての余裕は持っておきたいのだ。

 けどさあ、やっぱ、寂しいよな。不安になるよな。恋人として認識されてるのかな──俺たち本当に、付き合ってるのかな──って。


***


「あー、今日も帰れねーな。」

 ちらりと見た腕時計は23時30分をさしていた。どうやら家に着くのは余裕で0時をまわりそうだ。ああタマキは寝てるかなあ。寝てるよなあ。

 はあ。一人ワゴン車の中でため息を吐く。今日はヒカルはオフでいない。その代わりに俺が明日オフだけど。でもタマキは明日出勤だもんなあ。意味ねー。

 本日何度目かの溜め息を吐いた後、俺は家路についた。




「あ……?」

 ──ガチャ、ガチャガチャ、

 ドアノブをこれでもかと上下前後させて確かめる。家の玄関につき鍵を差し込めば、なぜかドアがロックされた。あれ、タマキ、鍵かけるの忘れたかな。

 ってゆうか、

「電気点いてる……?」

 ガチャリ。もう一度鍵をかけなおしてドアを開ければ、廊下にリビングからの明かりが漏れていた。電気まで消し忘れたのか、おっちょこちょいだな。

 そろりそろりと廊下を歩き、リビングのドアをゆっくり開ける。寝室で寝ているであろうタマキを起こさないようにただいまー、と気持ち小さな声で帰還報告。返事が無いのをわかっていても言ってしまう。つくづく寂しい男だな俺。あータマキにおかえり、って言ってもらいてー…

「カゲミツ!おかえり。」

「………うっん、を?!」

 飛び込んできた見慣れぬリビングの景色にびくりと心臓が反応する。突如静寂を破ったその声に無意識に肩を震わせる。開きっぱなしにしていた口からあられもない声が出たのは、それからカンマ数秒後のことだった。我ながらなんとも気色悪かったが、生憎そんなことを気にとめる余裕は持ち合わせていない。だってだって目の前には、ソファにちょこんと座る愛らしいタマキがいたのだから。俺の意識は完全に彼にロックオンな訳である。あああああ、やっぱりパジャマ姿もカワイイなぁ

 ……じゃなくて。よく考えろ俺の脳内。

 この時間にタマキが起きてるのおかしくね?俺と違って明日も任務なはずだし。あれこれなに夢の中?

「……なんで、寝てねーの?」

「カゲミツ待ってた。」

 しかし頬をつねれば痛く、どうやら夢ではないよう。なに、妄想が具現化した。すげー。神様ありがとう。

 暫し久しぶりの“おかえり”の余韻に浸りしあわせを噛み締めていれば──入口付近でぼけっと突っ立っていれば──、タマキが小首を傾げながらぽんぽんとソファを叩き出す。そこはちょうど一人分が座れるほどのスペース。そのまま俺は吸い込まれるように彼の隣に腰かけた。

「どうしたんだよ?何かあったのか?」

 コートを脱ぎながら覗き込んだ彼の表情は、なんだか複雑だった。顔色もなんていうか、変。赤いような青いような。こんなこと言いたくないが、態度も挙動不審っつーか。ああ、そう所在無さげって感じ。

 眠い、わけじゃなさそうだな──?

 そのときの俺は、純粋に彼の心配をしていたのだ。怖い夢でも見たのかなあ、とか。体調悪いのかなあ、とかとか。

「最近さ………、」

「うん。」

 ぽつり。突然話を切り出すタマキに耳を傾ける。その声はまさに蚊の鳴くような声で、こんなに近くにいるはずなのに意識を集中させねば危うく聞き漏らしそうなほど朧気だった。

 寝起きなのかな──?

 そのときの俺は無粋だった。彼の顔がどうして赤らんでるのかとか、どうして言葉が途切れ途切れなのかとか、気づいてやれなかった。察してやれなかった。

「カゲミツが、さ、」

「ああ。」

 つまりは、自分のことしか考えてなかったんだよな。自分主体でしか物事を見てなかった。

 だからわからなかった。

 その潤んだ瞳も、震える唇も、その原因がまさかこんなにも、簡単なことだったなんて。

「………ヒカルとばっかいて、なんか、寂しい…から、」

「───っ、?!」

 だから、気づけなかったんだ。彼も俺と同じ気持ちだったなんて。

「だから、俺、わざとカゲミツに焼きもち焼いて欲しくて……」

 ぽつり、ぽつり、苦しそうに言葉を吐き出していく彼は今にも泣き出しそうで。

「──カゲミツの前で、アラタとか、隊長とかといっぱい話してみて……」

 ──ああ、これはやっぱり夢かもしれない。だって、こんな都合がいい話があるもんか。

「でも……っ、でも、カゲミツは相変わらずで、何も言ってくんないし…」

 だって、彼が俺と同じ気持ちと言うことは、

「……本当に、俺のこと好きなのかな、とか」

 すなわち、俺たちは対等な関係であるから、

「付き合ってるからこそ、言えなくて──」

 それは、俺が求めていた答えそのものであって。

「俺は……っ!」

 ねえ、なのに。

「俺はこんなに好きなのに──っ、なのに、カゲミツは──」

 何で君は、そんなにツラそうなの──?

「もう、いいからっ!」

 こんなの最後まで聞いていられない。あまりに痛々しい彼の姿に俺は思わず制止の声をあげる。これほど頼り無げな彼の声を俺は今までに聞いたことが無かったし、何よりそれは紛れもない自分のせいだったからだ。

 だがその一方で、そんな弱りきった彼の姿を目の前にして言い知れぬ幸せを感じてしまっている心も、俺の本心のようだった。

 彼が自分と同じ気持ち、いや、もしかするとそれ以上の想いを募らせていたかもしれないという事実によって、心が充たされている自分自身。それは間違いなく、俺の中に存在していて。

 自分は、彼がこれほど苦しんでいたことに気づけなかったというのに、しかもそれが自分の所以だというのに、なんて俺は不謹慎なのだろうかとは思うのだけど。

 けど、やはり、どうしようもなく嬉しいのだ。自分のことで、彼が悩み苦しむ姿が。どうしようもなく愛しいのだ。

 ──俺、おかしいのかなあ。

「だから、今日は寝ないで待っててくれたのか?」

「うん、」

「寂しくて?」

「……うん。」

 彼を見て思う。もしかしたら、自分が逆の立場にも成り得ていたと。

「ごめんな。」

 そっと両手を広げてやれば、ぽすんっとその身を委ねられる。すっぽりと収まった彼をぎゅっと抱き締めてやれば、肩に濡れたものが零れ落ちた。

 ああ、付き合うって難しい。きっと俺もタマキも、変なところで意地っ張りで、恥ずかしがりやだから、こうなったんだろうなぁ。

「本当に、ごめん。」

 束縛はしたくない。けれど、俺だけを見てほしい。なあ、それってワガママなのかなあ。

「今日は、一緒に寝ような。」

 そう言って優しく頭を撫でてやれば、彼はうれしそうに目を細めた。

 ぽんぽんとあやすように背中を擦りながら、寝室まで連れていく。そのわずかな道のりさえ、タマキは俺の手をぎゅっと握りしめ離そうとしなかった。

 ものの1分。寝床に入れば彼はすう、と眠りに落ちる。それは憑き物が取れたかのように穏やかな寝顔で。終始彼の様子を見ていた俺の口からも思わず笑みが零れる。

 結局、俺の気持ちは言えなかったなあ。というか、あえて言わなかった、のか。

 ごめんな、タマキ。隣で幸せそうに眠る恋人にそっと囁く。

 自分も彼と同じ気持ちだったことを明かさず終いにしたのは、対等であるはずの関係の中、優位に立ちたいとする自分の欲の現れだったのかもしれない。

 ──これで少しはタマキも、俺だけを見てくれるかなあ。

 そんなことを考えながら彼の隣で眠りについた俺は世界一性格が悪いのかもしれないけれど、それでもいいと思ってしまうほど彼を愛しているのだから仕方ないと瞬時に変換した俺は、なんて都合がいいのだろうか。









だって君が好きだから
(それですべてが許されればいいのに。)










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