CROSS DELUSION
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夏祭りとJ部隊
(メンバー勢揃い:DC1)




本来、全員が公休だった今日――
極秘任務だから休日返上だ、と…突然に全員が隊長に呼び出された。


ミーティングルームに集まってみれば、何のことはない。


何故か、とある大手企業主催の夏祭りに参加するために、J部隊のメンバーは夏祭り仕様で半被を着ることになった。


名目は、夏祭りでの地域振興と親睦交流。――どうやら警備の手が足りないので、裏から目立たないような形でフォローをするということだった。


そのため、警備服やいつもの服装ではなく、夏祭り会場で目立たない半被を支給されたのだ。


自分たちの仕事に急な呼び出しや休日出勤は当たり前のことなので、仕事だと言われれば否も応もない。


命令に従うのみだ。


本来の任務はテロ対策とそれに関連する護衛などで、殺伐としたものが多い。

それに比べれば、テロ予告がある訳でもなく。

単に、地域の夏祭り会場で、警備の手伝いをするくらいは何てことのない仕事だった。


逆に言えば、何故に自分たちに白羽の矢が立ったのかが謎なくらいだ。


けれど、いつもと違う仕事。
いつもと違う服装に、自然とメンバーの雰囲気は柔らかい。


また、着替えると言っても、浴衣ほど着付けの必要なものではないので。
みんな、あっという間に着替え終わった。



ただ、タマキだけが部隊のリーダーとして――。

一応、祭り会場の下調べと打ち合わせなどで、一人着替えが遅れていたので、その場にはいなかったが…。


持て余した時間で、ミーティングルームで各自の批評会が始まった。




「わぁ〜、やっぱりユウトはこういう和風な格好がよく似合うね」


「ホント、粋な感じがするな」


ユウトの長い黒髪と和風な井出達。その優雅な物腰は見事にマッチしていた。


「そう、ですか。
ありがとうございます」


照れくさそうに、はにかむユウトをナオユキは満足気に眺めていた。


「でも、ナオユキも派手な洋風の顔立ちの割に、意外と似合うよな」


「うん、うん。きっと筋肉のおかげだろうね」


「意外と…って、なんだよ、それ!」


「褒めているんだよ」


「その腕や厚い胸板を見せられたら、くらりとよろめく女性も多いんじゃない?」


ナオユキは半被の両袖を肩まで捲り上げていた。


おかげで、普段はシャツに隠れているナオユキ自慢の上腕二頭筋や上腕三頭筋が惜しげもなく晒されていた。


「しかも、その甘いマスクで微笑んだら、イチコロだよ」


「なんだか、ユウトとナオユキが夏祭りの主人公!
J部隊のザ・夏男!って感じだな」


「だね〜!」


みんなの楽しげな笑い声が響く。


「でも、アラタも普通に似合うよな!」


「アラタの場合、普段から半パン仕様だからな〜。
違和感がない、…っつ〜か」


「まあ、確かに!」


「しかし、なんで下が白の半パン(下穿き)なんだよ!
しかも、上はTシャツなしの素肌に着ろって…」

カゲミツがぼやく。


「間違いなく。隊長の“趣味”の賜物だろうね」


「あの、変態めっ!」


「そうだね。似合うメンバーはいいけれど、カゲミツ君はメンバーの中で一番似合ってないもんね」

にっこりと微笑みながら、カナエが小さな棘を刺す。


どうやらこの二重人格は、タマキが傍にいないと、黒カナエが発動するようだ。


J部隊の仲の良さ所以か――それぞれに好き放題言い合う。



しかし、当のカゲミツも似合っていないことなど、百も承知。

そんなこと…自分が一番よくわかっている。


「ほっとけっ!どうせ俺は上背だけで、なまっちょろい体だよ!」


半被の下に隠されている胸は、とてもナオユキのように胸板なんて呼べる代物ではない。

むしろ、薄っすらとながら、肋骨さえ浮き出ている。


細すぎる腰。

細い腕。

日焼けしない白い肌。


自覚があるからこそ、この格好が居た堪れないのだ。



「それに色気を通り越して、その肌の白さと細さが違和感だよね〜。
まるで湯剥きの白アスパラ?」

ケラケラとアラタがからかうように笑った。


「クソガキ〜ッ!てめぇ〜、自分がちょっと似合うからって…」

アラタを捕まえよう腕を伸ばすが、身軽なアラタはひょいっと身を翻す。


そこから…見た目は子供で、中身はやや大人。見た目は大人で、中身がかなり子供。

そんな二人の鬼ごっこが開始した。


アラタはミーティングルームを所狭しと跳ね回り、カゲミツの包囲網を器用に掻い潜る。



「こんのぉ〜っ!
ちょこまかとっ!!」


「おい、カゲミツ止めろって!
大人気ないだろっ!」


バタバタと自分の周囲を走り回る二人を見かねたヒカルが、静止するが――

アラタを捕まえることに必死になっていたカゲミツは珍しく言葉を選ばずに、思ったことをそのまま返した。


「うるせぇ〜!そういうヒカルだって、相当ヤバイだろうがっ!」


「え?
俺、そんなに似合ってない?」


「そういう問題じゃないっ!」

カゲミツが噛み付くように吠えた。


「はっ?」

意味がわからないと、ヒカルが首を傾げる。


「あのねぇ〜、ヒカルくんはカゲミツくんと逆パターンなの!
大人気がありすぎっていうか…」

逃げ回りながらでも、アラタは笑顔で話す余裕があるようだ。


「なんだよ。それ?」


カナエも隣にいるヒカルが半パンに半被を素肌に着こなしている姿を上から下まで見て。

深い吐息を吐いてアラタに賛同した。

「俺もアラタに賛成かな。
なんていうか…、今のヒカル君は無駄に色っぽい気がする」


「そうそう。ヒカルくんってば、無駄にフェロモン出してる感じぃ〜!」


その場にいた全員が…思わず、
大きく首を立てに振って頷いた。



似合っていない訳じゃない。

「似合っているか?」と問われれば、物凄く似合っているのだが…


同性から見ても、下穿きの半パンから覗く生足と着合わせた半被の間から覗く胸に――

妙な色気を感じるのだ。


いっそ、上半身裸の方が爽やかな気さえするほどに、艶かしい。


今のヒカルを見ていると…、心臓がドキリと音を立て。

我知らず、ごくりっ…と、喉が鳴る――。



――もしかしたら、これが着エロ??


…などという言葉が脳裏を過ぎる。


「そ、そうか?自分じゃ意識してないんだけどな…」


「だから、余計に性質が悪い!」


「そんなこと言われても、意識してやっているわけじゃないんだ。
自分でコントロールできるもんじゃないだろ…」


「案外、隊長はヒカル君にこの姿をさせるために、全員を巻き添えにしたっぽいよね」


「あ〜…、ありえるな!」


それは――全員一致の意見。



最近の風潮では、半被の下は大体において、Tシャツを着用することが多いはずだ。

本格的ならば、さらしを巻くということもあるかもしれないが…。


それをわざわざ「素肌に着ろ!これは隊長命令だ!」ということ自体が、個人の趣味に走っているとしか言いようがない。



「しかし、カナエは意外と普通だな。普通に似合ってる。
カナエも顔立ちやその髪の色とかで、こういう格好はもっと浮くかと思っていたけど…」

ヒカルの言葉に、カナエは首を傾げる。


「そう?」


「うん!カナエくんは、カゲミツくんと違って似合っているよ」


「アラタ、てめぇは、いちいち俺を引き合いに出すな!」


未だに、カゲミツとアラタの鬼ごっこは終わらない。


けれど、二人ともが何処か楽しげだったので、もう誰も止めに入る者はいなかった。


「ありがとう、アラタ」

軽業師のように動き回るアラタに顔を向けて。

カナエは嬉しそうに微笑んだ。



J部隊は身体能力や拳銃や武術の技術も然ることながら、その容姿において他部隊の追従を許さないほど目立つ存在であった。


しかし、同じ服装なのに、こうも似合う人間と似合わない人間が分かれる。

タキシードや洋装ならば、それなりに自分も無難に着こなせる自信があったのだが――。


和装では如何ともし難いものがあった。

部隊内で、和装である“半被”が一番似合っているのがユウトだとすれば――。

一番似合っていないのが自分か…と、カゲミツはため息を吐いた。



自分と同じように洋風で派手な顔立ち。
色素の薄い髪質のナオユキ。

だが、その自慢の筋肉と均整の取れたスタイルが絶妙にそれらをカバーしている。


派手なオレンジ色の髪をしているヒカルも和装は浮きそうなものなのに…。

妙な色気は別として、違和感なく着こなしている。


――これが、ヒカルがいつも言う“ファッション・センス”の違いなのか?


ワゴン車に暮らしていても、プライベートでのヒカルはなかなかのお洒落で。

服装にも気を遣っている。


それに比べ、作業するにも選ぶのも楽だからと、いつも“ツナギ”を着ているようではお話にならないのかもしれない。


――どうせ、この容姿じゃ、半被や和装なんて最初から似合わないのはわかっていたんだ。


ヒカルに、この格好をさせたいっていうのもあるだろうが…

もしかしたら、これはキヨタカが企んだ自分への新手の虐め。

嫌がらせなんじゃないだろうか…と、さえ思えてきた。



アラタは捕まえられない。

似合わない格好で落ち着かない。

どうしようもなく凹みかけていたとろこへ、着替えを済ませたタマキがミーティングルームに入って来た。


アラタの動きが一瞬――――…

止まった。


おかげで、漸く、猪口才なガキの捕獲に成功したと喜んだ。


だが、それも束の間。


――タマキを目にした全員が息を呑む。



カゲミツは、腕に捕まえたアラタを押さえ込むことも忘れ――――

タマキに見入った。


それはアラタも同じだったようで、瞳を一際大きく見開いていた。

逃げることも忘れて、カゲミツの腕の中からタマキを見つめ返していた。



「お待たせ!
みんな揃っているな。
ぶっつけ本番だから、打ち合わせがちょっと長引いたけど、みんななら問題ないレベルだと思う……って、どうかしたか?」


部屋に入るなり、みんなの視線が自分へ集中していることに、妙な違和感を覚える。

詳細説明をするためには、みんなの意識をこちらへ向けてもらわなくてはならないのだが…。


どうも、みんなの視線が自分の足と胸元に集中している気がして、たじろいでしまう。

「…な、何だよ。ジロジロ見て。俺のこの格好、そんなに変か?
似合ってないのか?」


みんなの反応に、「似合わない」と勘違いをしたタマキは、カッと頬を桜色に染め。


自分の露出された足や前合わせの胸元を気にしながら見回している。

そのあまりの可愛さに、カゲミツの顔は一気にのぼせて赤くなり、慌ててアラタを掴んでいた手を離すと、その手で自分の顔を覆うように隠した。


自然とニヤける口元が危ない。


(((((…犯罪!)))))


誰の耳にも聞こえることはなかったが、いくつもの心の声が重なり合っていた。


ヒカルが大人の色香が匂い立つような、どこか人を惑わす魅惑的な妖しい花だとすれば、タマキの姿は咲き始めた花が恥らいながらも咲き誇るような瑞々しさがあった。


二十代半ば男で――これは犯罪!


もともとスーツを着ていてさえも、童顔で実年齢よりも幼く見えるタマキだったが、半被を着ることで、いつもより更にあどけなく見える。


すらりと真っ直ぐに伸びた足には程よく筋肉がついて引き締まり、普段はスラックスで隠されている太腿がやけに目に白く眩しかった。

普段は、かっちりとしたシャツで覆い隠されている首や胸元の前合わせから。

ちらりと覗く肌色にカゲミツは、ドキンッと心臓が高鳴る。


「いや。すっげぇ〜…似合っているよ///」


「サンキュ、カゲミツ!」


にっこり微笑まれると――訳もなく心臓が跳びあがる。

さらに鼓動が速さを増す。


「タマキちゃん、可愛い!」


「おい、この格好で『可愛い』は可笑しいだろう?」


「ううん、本当に可愛いよ。
タマキ君…可愛い!」


「何だよ、カナエまで…」


「祭りで、半被といえば、普通は“男らしい”とか“カッコイイ”だろ?」


ふと、タマキは半被の袖を腕まくりして露にしているナオユキを見て。


「ナオユキの腕まくり、カッコイイな〜!
俺もそうしようかな…」

…と、袖をたくし上げ、腕を露出しようとした。


「た、タマキ君…、ストーップッ!!」


「タマキちゃん、それ以上は駄目ぇ〜〜っ!」

大慌てでカナエとアラタの二人が止めに入る。


「な、何だよ、お前たち!」


「それ以上は、露出しちゃ駄目だよっ!」


「だから、何で?」


「それ以上したら、カゲミツくんが仕事にならなくなる。
ほら、鼻血を噴く寸前なんだから…」


アラタに指摘された通りだったので、カゲミツは文句が言えなかった。

ここで鼻血を出すなんて、醜態を曝すわけには断じていかない。

必死に鼻と口元を押さえて…上を向く。


心頭滅却。


心頭滅却。


心頭滅却。




念仏のように唱える。


「おい、カゲミツ、大丈夫か?
暑いからのぼせたのかな?」

心配そうにタマキが近づいてくる。


「…いや、ほんと…だ、だいじょうぶ…だから……」

じりじりと後ずさる――カゲミツ。


そんなカゲミツの心情を知らずに、尚も躊躇いなく近づいてくる…タマキ。

「ほんとか?顔が赤いぞ?
しんどいなら無理せずに俺に言えよ」


真下から心配そうに上目遣いで覗き込んでくるタマキを見やれば…いつもは見えない胸元がちらりと見えて。


下手に上半身裸でいられるよりも、チラリズムに煽られる。


おかげで、ますます動悸が激しくなって、…息苦しい。

「ああ…」

短く答えると、視線を逸らす。


これ以上、間近でタマキを見ていたら、――本気でヤバイ!


「今が一年で最も暑い時期だし…。諜報班は、普段、外での作業なんて殆どないからな。
ヒカルも無理するなよ!
駄目だと思ったら、カゲミツと二人、木陰で休んでいていいからな」


「ああ、わかった。そうさせてもらう」


ダムが決壊寸前のカゲミツに代わり、笑顔でヒカルが受け応え。

相棒の腕をそっと引いて、タマキから引き離した。


「大丈夫か?カゲミツ…
落ち着いて、深呼吸しろよ!」


「ああ、サンキュ…」

誰にも聞こえない程度の小声で囁き合う。


「しかし、タマキのあれ、破壊力抜群だな…」


「もうちょっとで、俺…、真っ直ぐに立てなくなるところだった…」


そんな会話がヒカルとカゲミツの間でなされているとも知らず。

タマキは、アラタとカナエの二人に詰め寄っていた。


「…で、カゲミツの体調と俺の腕まくりに何の関係があるんだ?」


カゲミツが真っ赤な顔で訴えかけるように、アラタを必死に睨んでくる。


あまりにも可哀想になり、さすがのアラタも言うのを躊躇ってしまう。

「え〜っと……」


「ほら、それは別にしても日差しが強いから、あまり露出すると日焼けして、あとで痛いよ。
きっと…」


カゲミツの意思はともかく。

カナエもタマキにこれ以上の露出は止めてもらいたかったから…。
アラタの後を引き継いだ。



――ああ、無自覚にも程がある。


俺だけに見せてくれるならいいけれど、あんまり他ではタマキ君には肌を見せて欲しくない。


でも、単刀直入に言っても意味が通じないだろうな。――心の内で盛大なため息を吐く。


他人が負う感情や傷には、やけに敏感なクセして。

自分の魅力や自分に向けられる『思い』に対しては、酷く無頓着なところがある。


自分は“男”なのだから、欲望の対象にはならないと端から決めてかかっている。


そのうちに痛い目を見るのではないかと、ハラハラしてしまう。


否。――そんな目にタマキ君を合わせないように、自分がしっかりとしなくては!

決意も新たにカナエは握り拳を作る。



「日焼けって…。
それはナオユキも同じだろう?」


「うん。そうなんだけど…」

言いよどむカナエに、思わぬところから助け舟が入る。


仲間たちのあまりの必死さが伝わって。

タマキの鈍感さに呆れつつ――
ナオユキも見るに見かねたのだ。


「タマキ君、俺はもともと日焼けに強い肌質だけど…。
多分、タマキ君は日に焼けると赤くなって火傷みたいになると思うよ。
だから、できればあまり肌を焼かないようにした方がいいと思う」


「そうかなぁ〜…。でも、ナオユキの腕まくりカッコイイのに…」


「ありがとう、タマキ君。
でも、それは俺の筋肉があってこそ、でしょ!」

自慢気にフンッ…と、腕の力瘤を見せつけられると、とてもじゃないが対抗意識は遠のいてしまう。


「確かに腕まくりして、ナオユキと並んだら、俺は貧相に見えるな…」

苦笑して、タマキも腕まくりは諦めた。



勿論、その時。―−カナエ、アラタ、カゲミツの3人がナオユキを心の中で拝み倒したのは言うまでもない。




「みんな、準備はいいか〜?」

キヨタカが普段通りの格好でミーティングルームに姿を出した。

「おっ、みんな着替え終わったな。よし、じゃあタマキ、詳細説明を頼む」


「はいっ!」


キヨタカの合図とタマキの号令で、空気が一瞬で引き締まる。

そこから、会場周辺の地図と警備員の位置情報など資料が配られ、巡回経路と救護班テント場所の説明がなされた。


「巡回のペアはいつもと同じ組み合わせで。
何かあれば、インカムで本部と連絡をするように。
俺は会場本部で待機している」

キヨタカはメンバーを見渡した。


「何か質問は?」


「ありません!」


「では、よろしく頼む」


「「「「了解!」」」」


全員の声がハモると、車移動のためにミーティングルームを後にする。



だが、カゲミツの足取りは自然と重くなる。


任務そのものは気負うほどのことはないが、自分の姿には気の滅入る思いでカゲミツは項垂れる。


「どうした?カゲミツ…
やっぱり、しんどいのか?」

タマキが心配そうにカゲミツの顔色を窺う。


「いや。俺、この格好があまりにも似合ってなくて…貧相で。
この格好で外に出るのが、ちょっと恥ずかしいなって…。
いや、恥ずかしいなんて…。
言ってちゃいけないよな。
これも仕事なんだし……」


「なんだ、それで落ち込んでいたのか?
似合わない、なんてことないぞ!
お前のそんな格好を見慣れないから、きっとそう思うだけだ。
俺は、似合っていると思うよ」


「タマキ…」

顔を上げれば、ふんわりと笑うタマキの顔が間近にあった。


「俺はカゲミツの、その格好も好きだよ。
それにどんな格好をしていたって…カゲミツはカゲミツだ!」

そう言って、ポンッと背中を叩いて先を促した。


「さあ、急ごう!」

「ああ」

小走りに駆け出したタマキの背中を追うように、カゲミツも駆け出す。

その足取りは軽く。

先ほどまで感じていた劣等感など、もう何処にも存在しなかった。




部隊メンバーがいつもと違う服装で出掛けて行く様子を後ろから、ニヤニヤと眺めているキヨタカ。

その隣に立つヒカル。


「キヨタカ、お前。今…何、考えてるんだよ。
すげぇー、薄気味の悪りぃ笑顔…。その自覚あるか?」


「俺が何を考えているか、気になるか?」


「ん〜、正直。あんまり知りたくねーかも…
どうせろくでもねーことだろ!」


「そうでもないぞ!」


「じゃあ、何だよ。
その気味の悪りぃ笑顔の正体は?
言ってみろよ」


「視姦っ!!
俺の選んだ逸材たちは何を着せても様になる。
色っぽさではヒカル、お前がピカイチだがな…」

ニッと口角が三日月を形作る。


呆気に取られて声も出なかった。

だが、笑みを湛えたまま、真っ直ぐに自分を見るのキヨタカの手が、隣に立つ自分へと伸びて。
腰から下をさわさわと触りだした。


「いっぺん死んで悔い改めろっ!
この変態っ!」

キヨタカの鳩尾に一撃――!

肘鉄を喰らわせると、ヒカルもメンバーの後を足早に追いかけた。



鳩尾にお見舞いされた鈍い痛いさえも愛おしい。

口の端を吊り上げて、与えられた痛みを擦りながら、キヨタカも駐車場へゆっくりと向かった。





――後日。


とある部屋の大手企業の会長室に、キヨタカの姿があった。

革張りのソファにゆったりと腰掛けている。


目の前には、初老は当に過ぎたであろう男が高級そうなスーツを着こなしながら、キヨタカに満面の笑みを浮かべて挨拶をしていた。


「いやぁ〜。その節には本当にお世話になりました。
おかげさまで、警備は勿論のこと、集客数が前年比よりも大幅にアップ!
これで各スポンサーにも面目躍如です。
お父上にご相談したところ、まさか、ご子息にご助力頂けるとは…恐縮の極みです。
これを機に、何かありましたら、ぜひ今後ともよろしくお願いしたいものです。
本当に、素晴らしい部下をお持ちで羨ましい限りですな」


「いえ。会長のお役に立てたなら幸いです。
それに、こちらも楽しませて頂きましたので、お気遣いなく。
彼らは私が選りすぐった精鋭部隊ですから…」

にっこりと微笑みながら、満足気に頷いた。


しがらみとは時に面倒だが…。

人脈の足掛かりや手掛かりは、有事の際には多ければ多いほど役に立つ。

何より、自分の愛しんでいる部隊が褒め称えられることは、キヨタカにとって最大の喜びで報酬だった。

そう。自分の大切なJ部隊は…、A部隊にだって引けを取らないと――おおっぴらにはしないが、そう自負していた。




 
fin.






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A to Z〜0-zoneの椎名涼様から頂いたもの。
夏祭りの雑記をネタにこのような素敵な小説を書いて下さいました。
(しかも謹呈してくださいました)
J部隊みんな素敵で、とても幸せになりました。
カゲミツは薄い胸もアバラも素敵です。
ホント、素敵な小説ありがとうございます〜。

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