それでいいのか2
カゲミツはミーティングルームを出て一階に上がった。
それから従業員用の扉からバンプアップの店内をそっと覗く。
カウンターで酒を飲んでいるタマキを囲んでいるのは、アラタ、ユウト、ナオユキ、トキオ、キヨタカ、ヒカルたちだ。
「マスターもう一杯!」
何杯目かのアップルシューターを飲み干すと、グラスをマスターのほうに振り上げる。
「おいおい、やけにピッチ早いな」
「もう酔わなきゃやってられないですから」
「いきなり、カゲミツのバカヤローとか叫ぶからびっくりしちゃったよ。カゲミツ君と何かあったの?」
アラタが気遣わしげに話かける。
「そうだよ。俺たちでよかったら話してよ」
「なにか仲直りの手立てが見つかるかもしれないし」
ユウトとナオユキも、その隣から話に入る。
タマキは、グラスを空けるとはーっとため息をついた。
「カゲミツがさ……、抱かせてくれないんだ」
「カゲミツ君が」
「タマキ君を拒否したの?」
誰の目から見てもタマキを好いてるようにしか見えないカゲミツが、振るのは意外とばかりに二人は驚いて顔を見合わす。
「ああ。抱くのはいいけど、抱かれるのは嫌なんだってさ」
「ああ」
「なるほど」
そして、そう言われたら言われたで納得したようだった。
「カゲミツ君は昔気質な男だからねぇ」
「好きって言うのをそういうふうにしか考えられないのかも」
そんな二人の会話を聞きながらアラタが口を挟む。
「バカだよねー、カゲミツ君ったら。タマキちゃんを振るなんて」
そう言いながら、立ち上がるとタマキのそばに寄っていく。
「だったら僕にしない? 僕ならタマキちゃんが手に入るのならタチとかネコとか気にしないよ。つかネコも上手いと思うよ」
「アラタ……」
「僕はタマキちゃんが大好きたから、タマキちゃんが望むなら何でも叶えてあげる。どんなタマキちゃんだって受けとめてあげるよ」
タマキは、少し困ったような、すまなさそうな顔をしてうつむいた。
タマキ自身、カナエに振られた苛立ちをカゲミツにぶつけてしまった事は解ってるのだ。
「お兄さんだって受けとめてあげるよ〜」
トキオも身を乗り出してくる。
「包容力なら俺が一番だと思うぞ」
キヨタカも不敵な笑みを浮かべて言う。
「キヨタカ。お前は受け止めた振りして散々奉仕させた挙げ句、最後は美味しくいただくパターンだろ」
袖を引っ張りながら、これ以上話に加わる前にヒカルが釘をさそうとする。
「それはそうかもしれないが…。俺がタマキを慰めるのは駄目か?」
「だっ……駄目じゃないけどさ……」
駄目と言おうとしてヒカルが言い澱む。
「そういうのは……」
なにか言いたげだったが、そのまま口をつぐんだ。
「と言うわけで、タマキちゃん。今日は僕の家においでよ。自分ちには帰りたくないでしょ?」
そうこうしているうちに話がまとまったらしい。アラタがタマキの手を掴んで立ち上がらせようとしている。
「うん」
カナエとレイの住む隣には……。
タマキは、引かれるがままにアラタについて行く。
(タ、タマキ〜〜!)
ドアの後ろで会話を聞いていたカゲミツは、焦りながらもその場に飛び足すの躊躇った。
今出たところでどうなる?
タマキを受け入れられないなら、さっきの繰り返しになるだけだ。
カゲミツはその場に佇んだまま動けなかった。
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