束縛1
報告書の作成でいつもより帰るのが遅くなったときの事。
「タマキ、この後暇か?」
一緒に最後まで残っていたキヨタカに声をかけられた。
「はい、とくに用はないです」
「じゃあ、この間の緊縛の講義の続きをしてやろうか」
そう言いながら微笑む彼の瞳は、悪戯っぽく輝いていて。
少し躊躇したのは事実。
だけど、仕事が終わった開放感と。
深夜のミーティングルームでの二人っきりの講義というシチュエーションが。
あまりにも秘密めいていて。
いけないことをするような、わくわくするような。
抗いがたい興味と興奮を抑えることができず、俺は頷いた。
「はい、是非」
「じゃあ、最初に小手縛りからいこうか」
そういいながら、縄を取り出した彼にギョッとする。
「本当に縛るんですか?」
「もちろんだ。実践が一番だからな」
そういいながら、後ろから片手を掴まれた。
「まず、半分に折った縄の端を輪のほうに通しながら片手を縛る」
するりと片腕に縄が通され、きゅっと引っ張られる。結ばずとも片手が縛られた。
「そのまま一周巻きつけ、その上に左手を重ねてさらに巻きつける」、
立ったまま、両手を後ろ手に縛られる。
「そして、その紐を腕からぐるりと胸の下から巻きつけ、手首の上の部分に通して反対方向からもう一周巻きつける。それを手首の上で縛ると小手縛りの完成…なんだが」
そう言いながら縛ろうとしないキヨタカ。
「はい?」
「シャツの上からだと滑っていまいちなんだな。ちょっとシャツを脱がそうか……」
「な……」
キヨタカが背後から左手で腕を拘束しながら、右手で器用にネクタイを緩め、シャツのボタンをはずしていく。
「ちょっと隊長……」
戸惑いながら、振り向くと
「このほうが説明しやすいからな。服の上からだと縛るポイントもわかり辛いしな」
といいながらにっこり微笑まれた。
「じゃあ……そうしてください」
仕方なくそう答える。
素肌を縛り付ける縄の感触。
手首のあたりで皺くちゃになったシャツ。
普通こういう状況におかれたら、危機感や不安感におそわれるんだろうなと頭では思いつつ、実際自分が抱いているのは素肌を晒していることへの羞恥心だという事実に、我ながら呆れる。
だけど、絶対的な信頼を寄せているキヨタカにそのような感情を持つことは難しい。
「じゃ、ここからが本番」
キヨタカが二本目の縄を取り出すと、先ほどと同じように半分に折り手首の上で連結させた。
「これを、胸の上に巻いて、わきの下を通して、首に巻いて、胸元に輪を作って二重結びをして股をくぐらす。あとは、輪を左右に広げていけば亀甲縛りの完成」
「亀甲縛り?」
どこかで聞いたフレーズだなとか、思ったのはこのあたり。
「そう、亀の甲羅に似てるから」
「いや、そうじゃなくて…。これ捕縄術なんですか?」
「まあ、捕縄術の一種?」
「いや、なんか違うと思います」
「まあな。捕らえて束縛するのには違いないと思うが……。縄で彩った肌や、縛り目から見える乳首が扇情的でいいな。ズボンも脱がせて縛ったらいうことないんだが。さらに足首とふとももを縛り付けるとM字開脚の完成」
「〜〜〜」
ここにきて、ようやくこの縛り方が、何の為のものかを理解する。
「教えてほしいといったのはお前だぞ」
あの時のメンバーの反応が、今更のように納得がいった。
「隊長…。そういう用途のものなら結構ですからっ」
「……何の為にタマキにそういうことすると思う?」
「え?」
「キヨタカ!! てめぇ!!」
カゲミツが飛び込んできたのはそんな時。
こんな状況をみられて恥ずかしいやら、助かったと思えてホッとするやら。
なんとも複雑な心境になったのだった。
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