CROSS DELUSION
説明|文章|雑記|企画|頂物|独言|情報|通販|連鎖

家庭の味
「ちょっと寄っていかない?」

トキオに言われて、孤児院の門をくぐった。

「あら、トキオ。ひさしぶりじゃない。元気にしていた?」

「ただいま。元気だよ。お母さんは?」

「見たとおりよ」

「お母さん?」

俺の問いに、トキオが微笑む。

「うん。孤児院では院長をお父さん。院長の奥さんをお母さんって呼んでるんだ」

「そうなのよ。みんなのお母さんなわけ。……で、こちらは?」

「タマキって言うんだ。…俺の可愛い人」

「いや、ちが…。可愛いとかはないだろ」

「あら十分チャーミング。でも、男の人に言うならカッコいいよね。よろしくタマキさん」

「あ、よろしくお願いします」

「よかったら夕飯食べていきなさいよ。もうすぐご飯だから」

「食べたい」

「さ、中入って」







六人掛けのダイニングテーブルが4つ。

そこに、小さい子から大きい子まで、賑やかに喋りながらみんなが集まってきていた。

「トキオ兄ちゃん!」

「トキオだ」

「よお。みんな元気か」

「うん」

みんなに慕われているらしく、子供たちが一斉に声を上げる。

「ささ。みんなご飯よ。ご飯よそって」

院長夫人の言葉に、みんなで配膳をする。

大きい子は、小さい子どもを手伝ってやりながら席につかせた。

「いただきまーす」

熱々の煮込みハンバーグと山盛りのポテトサラダと、野菜スープ。

「美味しい」

「だろ。……俺も大好きなんだ。…たまに友達を飯に誘う事があったんだけど、みんなに美味しいと言われるのが何より自慢だったんだ」

微笑むトキオ。

横から院長夫人も声を掛ける。

「しっかりと食べてね」

「はい」

「タマキにも気に入ってもらえて嬉しいな」

「…うん。というか、トキオと同じ味だ」

「ホントに? なら嬉しいな。……これが家庭の味ってやつかな。いっぱい手伝った甲斐があったよ」

「…身につまされるよ」

まったくそういう手伝いをしていない自分には耳の痛い話だ。

だが、院長夫人の料理を一生懸命手伝ってた姿を想像すると、なんだか可愛い。

それと同時に、なんでも器用にこなすようにみえるけど、トキオが家庭の味に憧れて一生懸命練習していたんだと思うと心が打たれた。



「タマキにはタマキん家の味があるんだろうな」

ふと呟いたトキオの言葉に。

「…今度食べに来いよ」

そんな誘いの言葉が、するりと口を継いだ。


[*前] | [次#]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -