グランドピアノで愛を語ろう
「なんでこんなところにグランドピアノ?」
タマキの問いに、カゲミツが返答に詰まる。
ラブホテルの一室。
部屋のど真ん中に、でっかいグランドピアノが鎮座している。
たまにはイメチェンを計ろうと画策したのはいいが、いかんせん詰めが甘いカゲミツである。
『二人のムードを高める』をテーマにめぼしいホテルはチェックしていたものの、肝心の部屋選びのときに緊張して、とんでもない部屋を取ってしまった。
ピアノなんて選んでどーすんだ俺。
「えーっと、ほら。ここはムーディーな演出をする為じゃないかな。…君の為に一曲? みたいな?」
苦し紛れの答えに、なるほど〜と頷くタマキ。
「じゃ、カゲミツ。なんか一曲弾いて」
ベッドに座りながら、タマキが楽しそうにカゲミツに言う。
「なんかって……。急に言われても……」
そう言いながらも、椅子に座るカゲミツ。
(ここはやっぱり恋人に捧げる曲だよな。ピアノだからピアノ曲でいいんだよな…。うん。よし。ここはシューマンだ)
シューマンが、結婚式の前の晩に花嫁クララに手渡した作品「ミルテの花 献呈」を弾く事にする。
うん、恋人に贈るにふさわしい。
「じゃ、弾くぞ」
昔取った杵柄。
とはいえ、だいぶ弾いていないので、指がろくに動かない。
流れるようなテンポの曲が、なんだかスローテンポで。
眠気を誘う結果に。
弾き終えて、タマキを振り返ってみれば……
(寝てるし〜〜)
「タマキ……。寝たのか…?」
そっと呼びかけたものの、熟睡していた。
(ああ〜〜。完全に失敗だ)
がっくりしながら、隣に腰掛ける。
薄着で寝てしまってるタマキが風邪をひいては大変と思い、毛布をかぶせる。
それでも、穏やかな寝息を立てて眠るタマキは、やっぱり可愛くて。
そっと髪の毛を梳きながら、その寝顔にしばし見とれる。
それから、キスを一つして言った。
「おやすみ。また明日な……」
(今度はもうちょっと情熱的な曲で行こうか。よし、ベートーベンのピアノソナタだ)
後日談
ヒカル
「白いブランコの部屋を取らないだけマシだったよな」
キヨタカ
「アルカトラズみたいなところもあるしな」
カゲミツ
「最初からそんなのは除外だ〜!」
ヒカキヨ
「ホントかな〜」
[*前] | [次#]