CROSS DELUSION
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相愛
宮への殺人予告にともない、宮家の人間には警護がつくことになった。

俺自身、オトワ家へ借り出されることになり。

そこでヒカルと初めて会うことになる。








「こちらが三男のヒカルです。ヒカル、こちらがあなたの警護に当たってくださるキヨタカさん。ご挨拶なさい」

「ヒカルです」

艶やかな黒髪を上品に流した少年が、僅かに頭を下げる。表情は作ったようなスマイル。

「キヨタカです。どうぞよろしく」

こちらもにこやかに挨拶を返す。宮家の人間の機嫌を損ねるわけにはいかないから、ありったけの愛想を振りまいてみた。

ヒカルと呼ばれた少年は、過剰な反応をすることなく、またすぐに正面に直った。

なんとなく肩透かしを食らった気分だった。

俺の笑顔に反応しないとは。…男女問わず落してきた俺の腕が落ちたか?

暫く、他のSPを交え警護のスケジュールを説明する。

基本は3交代。だが今は緊急時なので2交代であたる。

もう一人の警護の人間は紹介の後に帰ることになり、初日は俺が警護につくことになった。

「それでは、行きましょうか。ヒカル様」

うやうやしく礼をしながら、促す。

初日の予定は、休日ということもあってヒカルの自宅での警護が主だった。家庭教師にヴァイオリンの稽古。午後から他家のご家族と会食。…といった具合だ。

次々とスケジュールをこなすヒカルは、表面上嫌がることはないが、何をしていても覇気がないというか、淡々としていた。

宮家の人間というのはこういうものなのかと思ったが、自室に戻ったときに思わず彼の漏らしたため息に、本心を垣間見たような気がした。

「楽しくなさそうだな」

俺の不遜な口調に反論するでもなく、着替えを続けながら、ヒカルが口を開く。

「こんな詰まらない生活、楽しいわけないだろう」

「日本屈指の教授陣からの個人授業。美しい令嬢と高級料理。どれも楽しまない手はないが?」

「お前はそうなの?」

「まあね。どうせやらなきゃならないのなら、自分の立場やコネクションは最大に利用して、楽しむことは忘れないけどね。いい寄って来るご婦人はもちろんの事、老若男女問わず」

「それ本当に楽しいの? 与えられたものの中でしか行動できないのに」

「かといって切ろうと思って切れるものでもないだろう」

「……俺は、切れるものなら切りたい」

「若いな」

「全てぶち壊してしまえば自由になれるというならそうする。…お前だってそれが出来ないから今の自分に甘んじているだけで、切れるものなら切りたいんじゃないの? …でなきゃ『切ろうと思って切れるものでもないだろう』なんて言わないよ、普通。」

(危険思想だな…)

「若いというより、ガキというか。…一人で何が出来る。それに親子の縁は切ったと言ったら切れるもんでもない。誰がお前をここまで育ててきた? その親を誰が見るというんだ。お前しかいないだろ」

そう言われて、ハッとしたように黙るところは、まだ可愛げがあって。

俺らしくもない説教をしながら、こいつを諭したいと思うのは、どこかで共感するところがあったからだと思う。

(それ本当に楽しいの?)

痛いところを突かれた……。

自分の欺瞞を見破られたような気がした。




「ねえ……今のこの状況さえ楽しめる?」

「もちろん」

「…じゃあ、俺にキスして」

彼の意図がどこにあったのかは分からない。

「よろしいですよ。ヒカル様のお望みのままに……」

だけど、抱き寄せて、キスした時には……。

すでに彼から目が離せなくなっていた。





* * * *






警護を始めて、2週間。

何事もないように日々が過ぎていった。

そして、1月経ち、例の脅迫状も嘘の殺人予告かと思われた頃、別の事件が起こった。

警察機関へのクラッキング。

そして多大なデータの喪失と被害。




(──全てぶち壊してしまえば自由になれるというならそうする。)

(──お前だってそれが出来ないから今の自分に甘んじているだけで…)

(──切れるものなら切りたいんじゃないの?)





嫌な予感がした。

稚拙で、なのに知識だけは膨大に持っていて。

こんなこと出来る人物は…そういない。

深夜まで続く会議から開放されて、家にたどり着いてみれば、そこにうずくまってるのは、ずぶぬれの一人の少年で。

予感が確信に変わる。

「キヨタカ、愛してる」

「ヒカル……」

「俺にはお前しかいないんだ……」

そつなく生きていけばいいと思っていた。

コネを最大限に利用して成り上がっていけばいい──。

だけど、本当は焦がれていた……打算などない本当の愛を。

ヒカルに愛されてそれを実感した。

この愛を失いたくないと。













「ええー。じゃあ、あの時からすでに両思いだったわけ?」

「そういうわけだ」

ヒカル実家に帰って、数日待てずに迎えに行った。

そして、両親にも挨拶して。

今、こうして再びこの部屋で過ごすようになった。

全てが終わったわけではないが、これは一生かけて償っていくしかないだろう。

今のヒカルはそれらを背負ってなお、前向きと生きていこうとしている。

自分自身の幸せを作るために。

もちろん俺と一緒に。

「全然気付かなかった。そういってくれたらこんなに悩まされずに済んだのに……」

キヨタカの博愛ぶりに悩まされた年月はいったいなんだったのかなどとぶつぶつ言うヒカルを抱き寄せてキスをするとおとなしくなる。

「いつも愛していると言っているだろう。どうして信用しないかな」

「そういう意味の愛だって解らなかったから」

「今なら解る?」

「うん。……俺も。そういう意味で愛してる」

「それはとっくに知ってる」

「な…」

当然の事のように言い切った俺に、悔しそうになにか言い募ろうとするヒカルの口を再び捉える。

そして、言葉以上にこの愛を伝える事にした。





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