CROSS DELUSION
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この温もりを
事後の余韻に浸りながら、カナエはタマキを抱き寄せる。

タマキは、恥ずかしそうに俯きながら、胸元に顔を埋めてきた。

彼のゆるい癖毛が頬にあたり、少しくすぐったいそうにカナエが目を細める。

しかしそれさえ心地よくて、髪の毛をかき混ぜながら口を寄せてキスをした。

安堵と充足感を感じるこの時間がとても好きだった。

タマキも、相手の鼓動を感じるように、頬を寄せてくる。

カナエの生を確認するように。

一緒になってから、まるで儀式のように、彼が繰り返す仕草だった。

そっと胸元に触れてくる彼に、囁くように尋ねる。

「……ねえ……。怖くない?」

「何が……」

「これ……。こんな間近にあること。……なにかあった時は、君も無事では済まされない」

心臓のすぐ横に埋め込まれた爆弾を示唆しながら言う。

「一緒にいて怖いと思ったことはないよ。むしろ離れてる時に何かあるほうがよっぽど怖い」

タマキ君がきっぱり言う。

「不謹慎かもしれないけど、カナエと一緒に死ねるならそれもいいと思ってしまうんだ」

「タマキ君……」

「……もう二度と、お前を失う恐怖を感じたくはない……」

一度は自分の銃で彼を撃った時。

次は、墜落寸前のヘリから自分だけパラシュートをつけて放り出された時。

あの喪失感をまた味わうなんて堪えられない。

そう思いながら、カナエにしがみつく。

「もちろん、死にたくもないから。……その為に頑張りたいと思ってるよ」

カナエが裏切らないという事。

そして、この施術が意味のない事だと、上層部に納得させるために。

日々、努力したい。

それが、いつ叶うかはわからないけど。

「そうだね…」

カナエも微笑みながら頷く。

前向きなタマキにつられるように。

「それに、スイッチは俺が握ってるわけだから、人為的に作動させる事は実質不可能だ」

「そう…だね……」

トキオがA部隊に戻り、タマキが再びJ部隊のリーダーに戻った今、これらのスイッチの管理はタマキに託されている。

もし上層部がこれを利用しようとしても、タマキがそれに従うことはないだろう。

再び彼が不利な立場に追い込まれることになるとわかっていても。

本当にそれでいいんだろうか。

ふと、夢想する。

また強力な敵が現れて、彼も自分も追い込まれた時。

自分を盾にする事で彼を救えるのなら、それを利用するは悪くないと思う。

ましてや、それがアマネだったりした場合は……。

タマキからスイッチを盗み出し、それを押しアマネを葬り去る──。

そこまで考えて、自分はまだアマネの死を否定できてないことに気付き愕然とする。

まだ………。

彼の事を、払拭しきれない自分に。



「カナエ?」

はっと気が付くと、心配そうに見上げるタマキの顔があった。

「なに……?」

「お前また余計な事考えてたんじゃないだろうな。…上に従わないと俺の立場が悪くなるとかしょうもないこと」

「う……うん。ごめん」

「馬鹿。そんな事考える暇があったら、もっと前向きに頑張ろう。わかったか」

「うん。そうだね。ごめん」

そう言いながら、タマキをよりいっそう強く抱きしめる。



今はただ、目の前の温もりを実感したくなった。


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