心の灯
『壊した先に何があるのか興味あるって言ってた』
カナエの言ってた台詞を思い出していた。
どれくらい前の話だろう。
カナエがJ部隊に戻ってきた頃の事だ。
もう……。昔過ぎて思い出せない。
あの時は、アマネの事をただ歪んだ人間だと思ってた。
あの台詞も理解する気もなく、聞き流していた。
だけど、今ならわかるような気がする。
得たいものが何か。
「どうした? 何を考えている」
物思いに沈んだタマキを現実に引き戻す声。
いつもと変わらない抑揚のないアマネの声だ。
「ん……アマネの事だよ」
そう、言いながら首を彼のほうに傾ける。
そして、腕を伸ばした。
アマネの胸に顔を寄せ、胸元に手を這わせながら、素肌の触れ合う感触を愉しむ。
情事の後の気だるさも手伝ってか、アマネは拒むことなくされるがままになっている。
「ふん……、どうせろくな事ではないだろう」
下らなそうに、そう言いながらもタマキの髪に指を絡ませる。
そして、つややかな髪の感触を愉しみはじめた。
「どうかな……。アマネにとってはくだらない事かもしれないけど……」
「言ってみろ」
アマネに促されて、タマキが言葉を紡ぐ。
「俺は……。自分自身たいした事のできない人間なのはわかってるし、この状態に陥るまでにいかに非力だというのは実感した」
「………」
「もう……。何もかも壊れて、狂ったっていいんじゃないか……って正直思ってた。………だって、人は弱い。自分を守る為に狂うことは仕方ないってさ……」
「…………」
「だけど、アマネを見ていたら出来なくなった」
「俺……?」
「お前も散々傷ついてきてこの状況に陥って……。なのに狂うことも出来ずに今もこうして足掻いてるんだと思うと」
「………」
「その絶望から這い上がるために、壊れた先を見たがっているんだと……。そして、俺にそれを求めてるって……解って」
タマキは体を起こすと、正面からアマネを見つめた。
「俺は、単純だからさ。人に助けを求められると俄然、頑張っちゃうというか力が出るタイプなんだ」
そして微笑む。
「俺は壊れないよ……。それに、お前だって壊れてはいないだろう? だから、安心して」
「何を……」
タマキの言葉に困惑したように、アマネの瞳が揺らぐ。
そんなアマネを見ながらも、なおもタマキは続ける。
「人は、どんなに傷ついても、絶望しても。……ほんの僅かな光りがあればそれを目指して生きていける。以前のお前にはそれがなかったいかもしれない……。だけど、今は、俺がその光りになってやるよ」
そこまで、一気に言ってから、タマキはアマネをぎゅっと抱きしめた。
昔は憎かったのに。
こんな非情な人間を許せないと思っていたのに。
その内面を知った途端、沸き起こるこの情はなんだろう。
こんな風にしか人に接する事のできない彼の不器用さや、冷めた振りすることで本心を隠そうとする姿が……
哀しくて、愛おしいだなんて……。
「……お前って奴は……」
呆れたようにアマネが声を洩らす。
「なんだよ。おかしいか?」
「いや……。自分に光がある事を信じて疑わないんだな。こんな闇の住人になった今も……」
「光りがなかったら、自分で灯せばいい」
自家発電ってやつかな……などと呟くタマキを見て。
「くっ……はは…。最高だ……」
アマネは笑い、それから熱くこみ上げてくるものに耐え切れないように顔を歪めながら、タマキを抱きしめ返した。
《END》
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