素直になれなくて
爆撃を受けておかげで記憶を取り戻したとはいえ、頭の傷は軽くみれない。
おかげで数日の入院を余儀なくされたタマキだった。
「タマキ君、起きてる?」
ドアをノックしながら遠慮がちに聞こえてきた声は……
「ナオユキ!?」
意外な訪問者に、タマキは驚きの声を上げた。
「体調はどう?」
ベッドサイドに腰を掛け、ナオユキがタマキの様子を伺うように聞く。
打ち解けるようになったとはいえ、まだ二人きりになるとナオユキの話し方はぎこちない。
普段はユウトたちとの会話にまぎれてあまり気にする事はなかったが、こうやって二人きりになるとその感じが際立つ。
だが、その原因が自分の記憶をなくしてた為だいうことに、タマキは全てを思い出した今になってようやく思い至った。
ナオユキはまだ何かわだかまったままでいる。
「おかげさまですっかりよくなった。明日には退院出来るって」
「そう。それはよかった」
ナオユキはほっと安堵の息を吐き、それから少しぎこちなく微笑んだ。
そんな彼の表情に、タマキは自分の今までしてきた事に対する罪悪感が再び涌いてくる。
「ほんと、みんなに心配かけてごめん」
「そんなこと……」
「それに、いろいろ忘れててごめん。裏切って……ごめん」
タマキが苦しいそうに声を振り絞る。
「それは……もういいんだ。戻ってきたタマキ君が昔どおりのタマキ君だと分かって。よかったし…」
「ナオユキ……」
「それに俺たちだって……。君たちをあんな風に追い詰めたんだ。……タマキ君こそ。俺たちを…恨んでないの?」
海に落ちるときの記憶が蘇る。
『――どうして…ほっといてくんないんだよ!』
あの時、悲痛な気持ちでそう思ったのは確かだった。
遠くへ逃げれば、誰にも邪魔されずに幸せになれると思ってた。
だけどそれは叶わず、二人は引き離された──。
「お前たちを恨む筋合いなんてない。……悪いのは自分たちだって分かってた。それでも、どうしてもこの感情を止める事が出来なかった……」
「……」
「だから、ナオユキがそんな風に思わないでくれ」
「うん。……でも、やっぱりごめん。……俺はタマキ君たちの気持ちもわかりながら、それでも裏切られたってショックのほうが大きくて。ずっと素直になれなくて……君を苦しめて」
タマキが戻ってからも、すぐ口をきくことが出来なかった。
心の中の後ろめたさを、憎む事ですり替えていた。
悪いのはタマキ君だから仕方ないんだ……と。
タマキが必死でみんなとの信頼を取り戻そうとあがいている時も、手を伸ばせずにいた。
「でも……。それってさ」
タマキが、俯くナオユキの手を握る。
「それだけ俺を好いていてくれてたからこそ、憎く思うんだと思うと……嬉しいよ」
ナオユキが驚いて顔を上げると、そこにはタマキの微笑があった。
辛さの中にも喜びを見いだして笑うタマキ。
「タマキ君って……」
こんな時でも、タマキは前向きだと……。改めて思う。
「ほんと。変わらないね」
「うん。くよくよしていたって仕方ないからな」
「でも……。大変なのはこれからだよ……」
それでも念を押すように、ナオユキは現実を突きつける。
次、カナエと合う時は、自分たちは敵同士だということを。
それでも、タマキは自分たちを裏切らずに闘えるのだろうか。
一抹の不安を覚え。
それを払拭したくて問いただしてしまう。
「…うん。分かってる。だからこそ俺はここに居て。カナエを再び取り戻す為にも、ナイツと闘わなければならないと思うんだ」
そう答えるタマキは、迷いない眼をして自分を見返してくる。
「やっぱりタマキ君は……俺の好きなタマキ君だ」
ナオユキは、こみ上げてくる嬉しさと愛おしさに耐え切れず、タマキを抱きしめた。
「ナ、ナオユキ…」
驚くタマキの肩口に顔を埋めて、さらに力を込める。
「タマキ君が戻ってきて、ほんとよかった──」
タマキはそんなナオユキの背に手をまわすと、そっと抱きしめ返した。
「ありがと……ナオユキ。こんな俺を許してくれて」
「俺も……ありがとう」
戻ってきてくれて──。
J部隊に必要不可欠だった、太陽のような存在が。
再び戻ってきたことをナオユキは実感した。
《END》
[*前] | [次#]