Slow Motion 2
『まるで犬だな』
タマキに叱られて、しょげているカゲミツを見て思わず口を継いだ一言。
本気でそう思ったし、正直腹も立った。
お前がそんな表情するなんて知らなかったよ。
好きな相手の言葉にいちいち喜んだり、悲しんだり。
それほどまでにタマキを好きなんだと思うと。
嫉妬で、胸が焼けそうだった。
ところが、実際タマキとくっついたのは別のやつで。
安心するより拍子抜けしてしまった。
そんなに妬く必要なかったじゃん。
なんだ、それならお前フリーだし。気にせずアタックできる。
と、思ったのは大間違いで。
それでもタマキ一筋とは──。
失恋してからも、しつこく思い続けるお前のほうにより苛立ったし、タマキにも嫉妬した。
むかついたり、イラついたりしながらも、誘い掛けた言葉はことごとく、冗談に取られて、怒られた挙句、意味はスルー。
まあ、俺も正直じゃなかったからね。
仕方ないかもしれないけど。
最近では言う気力もなくなってたんだけど。
なんだか、それはそれで寂しくってさ。
「……それがなくなったらさ、今度は俺からのを受け取ってよ」
つい、本音が出てしまった。
驚いたように、見返すお前の瞳にハッとする。
あ、やばい。
こんな弱気な発言、俺らしくない。
慌てて、言葉を付け足す。
「チョコ。差し入れてあげる」
そう。
これはチョコレートの話だから。
断じて、恋の話では………。
なのに、暫く沈黙の後あいつから返された台詞。
「いや。そ、そんな急がないでいいから。……当分なくならないし……」
詰まりながら、考え、選びながら、発された言葉に。
どれだけの意味が込められてるか…。
解った……ような気がした。
まだタマキを好きな気持ちも。
俺に対して、心が揺らいでいる様子も。
しぼみかけていた心が、急速にふくらみだす。
自然に笑みがこぼれた。
自分や相手を皮肉ったり、あざ笑ったりすることなく。
純粋に心からの喜びの笑みだった。
自分がこんな風に笑えるなんて知らなかった。
新鮮な驚きを覚える。
それと同時に、少しだけ苦笑を。
お前がワンコみたいだなんて…もう笑えないな。
お前の一挙一動に一喜一憂する俺は、紛れもないワンコだよ。
だけど、もうそれでもいいかな。
そんなふうに言われたら、もう素直に待つしかないじゃないか。
好きだよ、カゲミツ。
今までも。
そして、これからもずっとね。
《END》
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