Slow Motion
タマキからチョコを貰った。
といっても、バレンタインデーはとっくに過ぎているし、プレゼント的なものではない。
それどころか、あいつにはちゃんと恋人がいるから、そういう意味合いのものを貰う理由(わけ)もないし、筋合いもない。
それ以前に、バレンタインに物を贈るなんて概念自体持ってない奴だと思う。反対に相手から贈られてあたふたしたであろう姿が目に浮かぶ。
だから、そういうのを分かった上で。ただ、単純にタマキからの貰った事が嬉しかった。
俺への心遣いが。
『諜報は脳みそ使うから糖分補給に。これやるよ』
チョコを一粒摘みながらそんなことを思い返していた。
それが態度が表れていたんだろう。
後ろからオミに声を掛けられた。
「いやに、嬉しそうだね。どうしたのそれ」
「あ、ああ。タマキから。諜報に差し入れ…かな。お前も食う?」
そう言うと興味のなさそうに画面に戻りながら、そっけなく返された。
「いらない」
「あっそ。じゃ、やらねーから」
ヒカルは甘いものが苦手なので、必然的に俺一人で食う事になるな…。
そんな事を考えながら、機嫌の悪そうなオミを無視して、また作業に戻る。
最近こんな事が多い。
オミはタマキ絡みの話には極力乗らないようにしているように見える。
まあ、原因は分かっているけど。
俺が、タマキの事を未練がましく思ってるのを快く思ってないんだろうし。
タマキからのアクションに一喜一憂して、オミにからかわれる度に、腹を立ててたのでいい加減学習したんだろうし。
『まだ、タマキの事想ってるの? お前って諦めの悪い男だな』
『いい加減諦めたら?』
『どうせなら俺に乗り換えない?』
オミの、冗談とも本気ともつかないモーションにも疲れてきたので、黙ってくれるのは正直助かる。
そんなことにホッとする自分に。
普段、いかに心を乱されてるかを思い知る。
頼むからまだそっとしておいてくれ。
そんな簡単に切り替えられないさ。
この思いには年季が入ってるんだから。
そんな簡単に消えないんだよ。
それに、あんな冗談に乗っちまって、本気になって、冗談だよなんて言われたら……洒落にならないじゃないか。
「……それがなくなったらさ、今度は俺からのを受け取ってよ」
「え?」
「チョコ。差し入れしてあげる」
「あ、ああ……」
一瞬、別の事を考えてしまって答えに詰まる。
タマキへの恋心が消えたら……
オミの気持ちを受け取る日がくるんだろうか。
「カゲミツ?」
「いや。そ、そんな急がないでいいから。……当分なくならないし……」
とんちんかんな答えになってないだろうか。
焦りながら、オミを伺い見ると、ふっと表情を和らげたあいつの視線にぶつかった。
「わかったよ」
それから、やさしく微笑まれる。
すべてを汲み取った上で返されたその微笑に、その言葉に……胸が熱くなる。
タマキへの思いは、当分なくならないと思うけど。
いつかきっと、あいつの想いに応えようと……思った。
《END》
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