bitter pillow talk
(トキオが自身を危うくしてまで欲しがったものが…貴方なのね)
(怖い上層部の方を敵にまわしてまで手に入れた男よ。…大事になさいよね。ほんとすごくお気に入りにされてたんだから。…そういう私もかなり気に入ってたのよ)
(幸せに……してやってちょうだい)
「A部隊の女隊長に、言われて……」
「気付いてしまったと……」
トキオの問いに、タマキが頷く。
「タマキは……。俺がそういうことしているって知ってどんな風に思った?」
「どんな…。そりゃ、苦しかった。トキオが他の人を抱いたり抱かれたりしているのを想像しただけで、嫉妬で胸が痛くて。……でも、目的の為なら手段を選ばないというか、どんなことでもやってしまうお前が凄いとも思ったし、そういう強さ憧れる」
「そう?」
「それに、あんなふうに思われるのって、決して体だけの関係じゃなく、信頼やそれなりの感情もあったんだろうなって…」
「ストップ! それなりの感情って…愛情とかも含まれる?」
「そりゃ…。そうじゃないのか?」
「それはない。……本当になかったんだ…。愛情なんて抱いたことなかった。もちろん隊長の事はそれなりに信頼していたし、上の人には恩義も感じてはいたけど……。こんな風に愛情を感じたのはお前だけだ」
お前だけ──。
キスされて、鼓動が跳ね。
抱きしめられて、胸が熱くなる。
心が暖かいもので満たされていく。
こんな感覚、誰にだって感じた事がなかった。
愛し、愛される感覚が、こんなに幸福に満ち溢れているなんて。
相愛の人に抱きしめられる時に得る快感は、際限なく高まっていき──。
これ以上の快感は受け入れられないと思うそばから、新たな快感が襲う。
狂おしいほどの歓喜の渦に飲み込まれながら、幸せすぎて嬉しくて胸が苦しくて、涙が止まらなくなるような感覚を。
俺は本当に知らなかった──。
タマキと愛し合うまで。
「こんな至福を知った後に、愛のない交わりなんてほんと無意味で、白々しくて。お前に……後ろめたくて。さっさと縁を切ろうと思ったのは本当。……タマキが憧れてくれた強さも。何のためにそこまでするのかわからなくなった」
「……」
「金や権力が欲しかったのは、幸せになりたいが為だったと思う。…俺にとっての幸せは、院長に恩を返して、孤児院を安定させて、子供たちの幸福を守る事だった。そのためにこうやってここまで登ってきたことに後悔はしてない。…だけど、どれだけ尽くしても心の何処かが渇いていて。その渇きは決して癒されることはなかった。……ずっとそれを渇望していた」
「……それが愛?」
「うん」
「でも……。トキオはみんなに愛されてると思うし、過去に関わった人だって、本気でトキオを愛した人がいたっておかしくないのに」
「……俺が愛せなかったんだろうな。自分の存在も否定はしなくても愛おしいとは思えなかったし。上っ面だけよい自分を愛しているって言われたって受け入れられなかった」
「俺を受け入れてくれた理由は?」
「それは…。胡散臭いといいながらも信頼してくれたり、心を開いてくれるのが嬉しかったからかな。他の人間は俺のそういう部分に対して警戒していたし、きちんと一線ひいてくれてたからねぇ」
「一線引かれて嬉しそうに言うなよ」
「だって、それが当然の対応だから。タマキには調子狂わせっぱなしだった。……だけど、そんな信頼に応えたいと思うようになって……変わっていったんだと思うよ」
「タマキは、誰もを惹きつける魅力があるよ…。正直競争率高くてなんで俺なんだろうって思わないでもない」
「そんなの。俺の信頼に応える為に、信頼を返してくれているうちに……お前への気持ちが深まったんだろ」
「うん……ありがとう」
「……ってマジに取るな。こんなの、後から取ってつけたような言い訳だ。……胡散臭かろうがなんだろうが惚れたら最後だし」
「ええっ…最後に全否定?」
「俺が、全霊を掛けてお前を愛している事に文句あるかよ」
「……ないです」
「じゃあ……もう一度……」
タマキがそう言いながら強請るように見上げると──
トキオはその唇をゆっくりと塞いだ。
《END》
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