今夜は眠れない?
(DC2)16話
ヒカルの回復に安堵し、明日に備えてそれぞれ帰宅する。
バンプアップの入り口で地下に降りるカゲミツと別れた。
エレベーターを待ちながら、少し逡巡するタマキ。
「タマキ君?」
ドアが開いて乗り込もうとしながら、カナエがそんなタマキを振り返る。
「ちょっとごめん。先に上がってて」
「うん……わかった」
カナエがうなずく。
タマキはその足で、地下の駐車場に向かった。
ワゴンのドアをノックすると、すぐカゲミツが顔を出した。
「タマキ? ……どうした?」
驚いた顔で尋ねられる。
「あ……。ちょっと話したくて」
そのまま中に迎えられる。
シートに並んで腰を掛けるとカゲミツが口を開いた。
「話って?」
「さっきはごめん。突き飛ばしたりして…」
任務中にカゲミツを突き飛ばした事を謝る。
「そんなの……。俺が冷静さを欠いてたからだし……」
オミに、掴みかかりそうな勢いで身を乗り出したカゲミツを、タマキが肩を掴んで引き留めた。
そして、そのままキヨタカのほうに突き飛ばしたのだ。
「違うんだ。俺のほうこそ冷静じゃなかった」
「タマキ?」
「お前にも冷静さを保ってるように見せかけたし、オミにも簡単に口車に乗せられてたまるかなんて言ったけど…」
そう言いながら、カゲミツのシャツを掴んで俯いた。
「本当は、あんな悲痛なカゲミツを見ていられなくて。……オミのせいで苦しむお前を、あいつから引き離したくて…夢中で」
「……」
「あんな態度を取ってごめん」
「いや……。あれは当然だと思うよ。……でも、そんな風に思ってくれててすげー嬉しい」
カゲミツはそっとタマキの肩に両手を回した。
「俺の軽率な態度で、タマキに呆れらたと思って……ちょっと落ち込んでたから」
「そんな。……友達を思うカゲミツの気持ちを考えたら……。当然だよ」
タマキがカゲミツの胸に頭を寄せてくる。
「俺は……そんなカゲミツが好きだから」
「俺も…好きだよ」
カゲミツは回した腕に力を込める。
そのまましばらくタマキを抱きしめた。
「サンキュ……。タマキのおかげですっきり寝れそうだ」
「うん。明日に備えてしっかり寝なきゃな」
タマキは顔を上げると微笑んだ。
そんなタマキを間近に見て、カゲミツはこみ上げてくる気持ちを抑えきれず、唇を寄せる。
「んっ……」
そのまま深く口づける。
言葉もなく、互いの吐息と、蕩けるような熱が交じりあうキスに酔いしれる。
「も、もう行かなきゃ……」
何度目かのキスの後で、タマキがゆっくりと身を引いた。
カゲミツは名残り惜しそうに、ゆっくり腕を解く。
「また明日な…」
「ああ」
タマキとワゴンの外まで出て、扉の向こうに消えるまで見送る。
それから、呟いた。
「すっきり寝れそうだ?」
それから、頭を掻きながら言った。
「ありえねー」
でも、この幸せな高揚感に、今まで以上の自信とやる気の涌いたカゲミツだった。
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