四日目
トキオのスパイダーの助手席に座ったカナエが尋ねる。
「何処へ行くんですか?」
「陸軍の基地。表向きはお前の射撃訓練の為」
「で、……本当の目的は?」
「リニットに小型の爆弾をつけさせていただきまーす。裏切ったら即、殺せるようにね」
「……そんなことしなくても、逃げ出さないのに…」
「お偉方はそれじゃ納得しないのでね」
「…それは…そうですね」
「というわけで、行きますか」
そういいながら、車のキーを差し込むトキオ。その右手はカナエの左手と手錠で繋がっている。
「でも、手錠しながら運転ってやりにくくありませんか?」
「そうだねぇ。…ロールバーにでもつけ替えようか?」
ヘッドレスト後方のロールバーに視線を移すトキオ。しかし、それでは手錠をした手が外から丸見えになってしまう。
「うーん。さすがにそれはヤバイな。…運転中は大人しくしていてくれよ」
そう言って笑いかけ、そのまま車を発車させた。
「トキオさんは、俺が逃げ出すって……思ってます?」
「いんや、思ってないよ」
「じゃあ、この手錠は何故なんですか?」
「うーん。ドラマみたいで楽しくない?」
「楽しくないです」
トキオの考えている事は相変わらずわからない。
「関係者が何処で見ているかわからないしね…。それにアマネが何時襲ってくるとも限らない。…とりあえずのパフォーマンスさ」
そういいながら楽しそうなのは何故だろう。
基地に着くと、射撃場には向かわず、そのまま施設内に入っていく。
そして、さらに地下へ──。
廊下にはかすかに消毒液の匂いが漂う。
「軍の医療施設だよ、秘密裏の手術なんかもここで行うんだ」
奥に手術室らしい部屋が数室ならんでいる。
「……」
「で、その前にこっちへ」
繋いだままの手錠を引っ張られる。
そして、手前の一室へ連れ込まれた。
そこは、ちいさな個室という感じの、病室にみえた。
「ここで……何をするんですか?」
「んー。ちょっとした身体検査。武器とか持ち込んでないかね」
そういいながら、トキオがカナエのジャケットを脱がせていく。
「…それは先ほど、基地に入る前にも軍の方にしていただきましたが?」
「もっと入念にしろって…上からのお達しでね…」
そういうと、トキオはカナエの体をベッドに押し倒した。
「トキオさ…んっ…」
そのまま強引に口づけされた。
一瞬抵抗しようと手を上げたカナエだが、つながれた手錠の感触にハッとし、そのまま抵抗するのを諦めた。
今更抵抗したところで、どうなるものでもないか……。
そのままトキオのキスを受ける。
トキオのキスはお世辞抜きで上手かった。
舌を弄りそのまま緩く吸い上げられると、腰から甘い痺れを感じてゾクリと震えてしまう。
カナエが力を抜くと、トキオが口元を緩めてニヤリと笑うのを感じた。
そのままゆっくり離れていく口から銀色の糸が引くのを眺める。
トキオは流れるような動作でスラックスの前にも手を掛け、ファスナーを下ろすと、そのまま下着ごと下ろす。膝まで下ろした状態で、膝裏を持ち上げられた。
「……こんな風に、する必要が…あるんですか?」
熱い息を吐きながら、ゆっくり尋ねる。
体をチェックするだけなら、さっさと弄るなりすればいいのに。
「どうせするなら、お互い気持ちよくしたくない?」
艶っぽい微笑みを浮かべながら、トキオの指が口元に差し出される。
「……そう……ですね」
その指をゆっくりと咥え、カナエは唾液を絡ませた──。
帰りの車の中──。
「……ホント、あそこまでする必要あったんですか?」
「あー、ちょっと調子に乗り過ぎたかな」
「検査とかに全然関係ないじゃないですか…イラマチオとか……」
睨みつけてくるカナエに、トキオが笑いながら謝る。
「ごめんごめん。でも、これも上の要請なんだよね。……セックス・スパイの腕前を見るための。…あの部屋に隠しカメラがあったの気付いてた?」
「……気付いてました」
「中には、そういう嗜好をもった方もいてね。是非ともその味を味わいたいんだって。俺はいわばそのお毒見」
「………」
カナエはげんなりとした顔でため息をついた。
「で、お味は?」
「うーん。……そんな大したことなかったな。……あれくらいなら俺のほうが上手いって……伝えとくよ」
カナエがハッとした表情でトキオを見る。
「トキオさん……?」
「ま、そういうことだから。たぶん呼び出されることはないよ……」
涼しい顔で、運転を続けるトキオ。
だけど、小さく付け加えられる一言。
「……嘘だよ。本当は凄くよかった。カメラ目線で感じない振りするのに必死だったな……」
「………」
カナエは何か言おうと口を開き、結局何も言えず閉じた。
胸がズキンと痛んだのは、施術直後の傷が痛んだだけでは……ないような気がした。
《END》
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