CROSS DELUSION
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一日目
「ほんとだって。第一、この俺がそばにいんだぞ? カナエは逃げられないさ」

自信たっぷりと言ったトキオ。

「そうだよ。タマキ君」

穏やかに応じるカナエ。

しかし、一瞬カナエの指先がピクリと動くのをトキオは見逃さなかった。










トキオが自室に入ってしまった後、カナエとタマキはリビングに取り残された。

「上手く逃げられた気がする……」

「あはは……。さてと、俺たちも休もうか」

「そうだな」

そう言いながらも、動かないタマキを見てカナエが首を傾げながら尋ねた。

「……どうかした?」

「え…。あ……。本当にカナエが傍にいるんだなと思うと不思議な気がして……」

「うん…。ちゃんといるよ」

「もう……何処にも行かないよな」

「……行かないよ」

「アマネが連れ戻しに来ても?」

不安を押し隠せず、タマキは思わずカナエの服を掴んだ。

「もちろん」

カナエがタマキの肩に腕をそっと回す。

「タマキ君の傍から、俺が離れられるわけないだろ……」

「カナエ……」

タマキもカナエの背に手をまわす。

暫く、互いの存在を確かめ合うように抱きしめあう。

伝わってくる温もりが嬉しかった。

このまま離さないで欲しい。

タマキはそう思った。

シャツをギュッと握り締めたタマキに、ハッとしたように、カナエが身じろぎする。

それから、そっと腕を解いた。

「駄目だよ…。タマキ君。これ以上こうしていたら、自分を抑えられなくなる」

「うん……」

タマキも渋々腕を離した。

「そうだよな。……これからが大変だっていうのに。こんなことしている場合じゃないよな」

「タマキ君……」

「全てのケリがつくまでは……お預けだ」

「うん……。……その時には、思いきり君を抱きしめたいな」

「俺も……」

タマキが未練を断ち切るように、自室に向かう。

カナエもリビングの電気を消した。

指先にはまだタマキの感触が残っている。

気持ちを押さえようと、小さく息を吐く。

「おやすみ、カナエ」

タマキの声に、引き戻したい感情がわきあがる。

「おやすみ……」

寝たふりを決め込んで、カナエはギュッと目を閉じた。

暫く、こちらを伺うような気配を感じる。

それから、タマキが自室に入る音がした。








「せっかく、気をきかせて二人きりにしてあげたのに、チューの一つもなし?」

ドアを開ける音も立てず、気配も感じさせずにトキオが近づいてくる。

「……それが何か?」

「いや、……結構自制心強いんだな」

「……お望みとあらば、このまま夜這いをかけますが」

「そんなことされちゃたまんないな」

トキオがジャラリと鎖の音を立てる。

それから、カナエを伺いながら質問をする。

「……さっきのアレは…どういう意味?」

「アレ?」

「ピクリと反応してたやつ」

「……あれは…。まあ、あなたが傍にいるから逃げられないと思われてちょっと癪に感じただけですよ。……あなたが傍にいるから逃げられないんじゃない。……タマキ君から離れられないから、逃げない。……それだけです」

「ふーん。じゃあ、そういうことにしておこうか」

トキオがにこやかにそう言う。

「じゃ、やっぱ、手錠しますかね」

「えっ?」

「そんなに自信たっぷりに言われたらお兄さん、心配になるじゃない。…こうやっておくほうが安心して寝られるからね」

ガチャ。

「はい、お休み〜」

そのまままた自室に入っていく。



「……あの人は……。まさか…マジで?」










カナエとトキオの攻防は、まだ始まったばかり。



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