Brotherhood
小さいときからトキ兄が大好きだった。
孤児院で子供たちの面倒を一番よくみてくれたのはトキ兄だったし、みんなトキ兄に懐いていた。俺だって例外でない。
大きくなったら、トキ兄みたいになりたいと思ってた。
必死に勉強して、警察になって、トキ兄の下で働けたらいいと思ってた。
警察にも無事になれて。
これからだ!……って思ってたのに!
「なんで、トキ兄が辞めるわけだよ!」
俺は憤懣やるかたない思いをトキ兄にぶつける。
場所は、孤児院の俺の自室。
引越の準備も始めていて、荷物の整理された部屋。
就職が決まり学校を卒業とともに俺はここを出なきゃならない。
餞別を持ってきてくれたトキ兄にロクに礼も言わずに、こんなこと言ってしまう自分に自己嫌悪を覚えながらも……自分の思いをぶつけてしまった。
「なんで……って。おまえもわかってると思うけど、院長の具合も悪いし……誰かがやるんなら、俺がって思っただけだよ」
「ひどいよ、トキ兄。入れ違いだなんて……。俺のモチベーション下がりっぱなしだ」
「大丈夫。おまえなら俺を凌ぐ腕前になるだろう。俺が言うんだから間違いないよ。おまえが入ってくれたら安泰だ。期待してるよ」
「なっ……」
手放しに褒められて、気勢を殺がれる。
もっといろいろ言おうと思ってたのに、何を言うのか忘れてしまった。
あ、違う!
まだ言うことがあった。
「しかも、何だよ。あのタマキって! トキ兄本気であいつと一緒になるつもりなのか!?」
「もちろん。……おまえ反対なの?」
「あったりまえだよ。あんな奴全然トキ兄と釣り合わないよ。おっちょこちょいだし、おせっかいだし、融通利かないし、嫌味通じないし。……トキ兄がなんであんな奴選んだのかわかんない!」
俺がそう言うと、トキ兄はクスリと笑いながら、俺の顔を意味深に眺めた。
「でも、そう言いながらあいつに惚れる奴、いっぱい見てきたからなぁ…」
「俺は違う!」
「ホントに?」
「ああ。……大体俺がこんなに不機嫌な顔見せても平気で近寄ってくるし、仲良くなろうとするし、嫌味言ったら素直に謝ったり…かと思えば『俺のことはどう言われてもトキオを悪く言うのは許さない』とか激怒するし、すぐけろっと忘れるし、勝手に心配してくるし……おせっかい焼くし……」
あれ……。なんか言いながら顔が熱くなってきた……ような気がする。
何やかんや言いながら、あのころころと変わる表情豊かな顔が目に焼きついて離れない。
なんだろう。この気持ち。
「うん。大丈夫。きっとおまえもタマキが好きになると思うよ」
「なんでそうなるんだ!」
「なんでかな〜。でもきっと……」
そういいながら微笑むトキ兄の顔は、とっても優しくて甘い……きっとあいつのことでも思い浮かべているのだろう。
「トキ兄…」
すっかり毒気を抜かれた俺は、そんなトキ兄を暫し眺めた。
なんやかんや言っても俺がトキ兄が好きなのは変わらないし。
トキ兄が幸せそうなのは嬉しい。
そして、それをもたらしたのはタマキだと認めないわけにもいかない。
俺は、小さくため息を一つつくと、トキ兄に向かって言った。
「タマキと幸せにな!」
「おまえも元気でな」
俺の淡い初恋は実りそうにないけど。
だけど、この絆は永遠だと思うから。
ずっと好きだったよ、トキ兄──。
これからも──。
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